受賞作品一覧AWARDED WORKS

gold

総合グランプリ

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総二階だった家(平屋)

株式会社モリタ装芸
silver

500万円未満部門 最優秀賞

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inherit from TAISHO ~古民家×アンティーク~

フクダハウジング株式会社

1000万円未満部門 最優秀賞

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5羽+1人で都心に住まう

株式会社NENGO

1000万円以上部門 最優秀賞

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Ring on the Green
風と光が抜ける緑に囲まれた家

株式会社ルーヴィス

無差別級部門 最優秀賞

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駅前ロータリーを
歩行者の手に取りもどせ −『ざまにわ』

株式会社ブルースタジオ
bronze

テキスタイル・リノベーション賞

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テキスタイルの可能性。

株式会社sumarch

新築リノベーション賞

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7°の非破壊リノベーション

株式会社ブルースタジオ

スマートスパイス・リノベーション賞

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暮らし方料理人

有限会社中川正人商店

まちのクリエイティブ・リノベーション賞

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納屋と団地、小さなまちの職住一体のカタチ

株式会社フロッグハウス

まちの余白リノベーション賞

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間隙から生活と遊びの間
/LifeShareSpace~noma~

株式会社ネクスト名和

3次元空間活用リノベーション賞

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Summer Camp House
子供達の「自分で」を育てる家

リノベる株式会社

「コト」のデザインリノベーション賞

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コトなるカタチ

株式会社ブルースタジオ

マーケティング・リノベーション賞

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まちなかロッヂ

有限会社ひまわり

フェミニン・リノベーション賞

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世界を旅するネイリスト
~海外の開放感と自然の光が広がる空間~

株式会社bELI

ローカルレガシー・リノベーション賞

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Mid-Century House|
消えゆく沖縄外人住宅の再生

株式会社アートアンドクラフト

ヘリテージ・リノベーション賞

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津田山の家-浜口ミホの意匠を住み継ぐ-

株式会社NENGO

ヘリテージ・リノベーション賞

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時空を旅する洋館

株式会社河原工房

アップサイクル・リノベーション賞

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風景のカケラ、再編集 「PAAK STOCK」

paak design株式会社

ローカルグッド・リノベーション賞

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「くるみ食堂」新しい夕張の未来をつくりたい。

株式会社スロウル

選考委員会

審査委員長 島原 万丈 株式会社LIFULL
LIFULL HOME'S 総研所長

リノベーション・オブ・ザ・イヤーは今年10周年を迎えた。記念すべき節目の今年、まず喜びたいのは、コロナ禍で入居後の撮影がままならかったため228まで減っていたエントリーが、90社・260作品まで回復したことだ。ようやく日本社会がコロナ禍を脱しつつあるというだろう(過去最大規模は2019年の97社・279作品なので、まだ完全に回復したわけではないが)。
ただし、今年になってコロナ禍のインパクトも薄れてきたせいか、テレワークのような分かりやすく時代を象徴するトピックがなかったことは、最終審査会に困難をもたらした。断熱性や耐震性などの性能向上の取り組みもこの数年で当たり前になっているなか、10周年のタイミングでどんな作品をオブ・ザ・イヤーとして選ぶべきか、争点が見出しにくかったのだ。喧々諤々の議論の末、原点回帰と言えばいいだろうか、リノベーションが持っている本質的な力、それによって生みだされる空間の魅力を競う形となった。その意味で結果的には10周年にふさわしい作品が選べたのではないかと思う。

500万円未満部門の最優秀賞「inherit from TAISHO ~古民家×アンティーク~」(フクダハウジング)は、大正3年に建てられた古民家の部分リノベである。購入後に土台の補強と断熱改修を施し、数年かけて少しずつリノベーションしていく計画だそうで、今回はLDKのリノベーション。一気に家の全部変えてしまうのではなく、住みながら段階的に仕上げていくのもまたリノベーションならではの楽しみ方だ。
3枚目の写真が特徴的だが、ちょっと不思議な空間である。年季の入った天井や梁、露出した柱、長押、ガラス障子の引き戸など、構法由来のレトロ感はたっぷり残しながら、一方の壁と窓枠は大胆にオレンジ色に塗られ、オールステンレスの大きなキッチンが存在感を主張する。そこに和洋取り混ぜたアンティークの家具やインテリア雑貨。どうかすればちぐはぐに不協和音を発しそうな組み合わせにもかかわらず、なぜかうまくまとまっている。並べた酒の銘柄やアナログプレイヤーなど細部に見え隠れする施主の趣味性が、個性的な空間のまとめ役として機能しているのだろう。下見板張りの古民家らしい外観にオレンジ色の窓枠を見せるあたりには、いかにもな予定調和を拒否する遊び心とリノベーションの自由さを感じる。過去のオブ・ザ・イヤーでも古民家リノベーションは数多く見てきたが、この作品は過去の作品のどれにも似ていない独特の世界観を持った古民家リノベーションである。なおフクダハウジングは、初エントリーで部門最優秀賞の快挙である。

1000万円未満部門の最優秀作品賞「5羽+1人で都心に住まう」(NENGO)は、“鳥ファースト”とアピールする通り、小鳥が幸せに暮らすことを目指したリノベーションである。ペットも家族の一員だという考えは社会通念になっているし、オブ・ザ・イヤーでも犬や猫のためのリノベーションは毎年エントリーがある。だが、さすがに鳥は初めてだ。家族の概念がここまで拡張されていることに、審査委員一同が驚いた。
それにしてもこの作品の“鳥ファースト”は、あきれるくらい徹底されている。エリアと物件の選択に始まり、鳥が快適に飛び回れるように間仕切り壁をなくした空間、綿密に考えられたとまり木やバードアスレチックの配置、鳥の安全や健康のために選ばれたブラインドや建材、鳥が美しく映える壁の色、と細部に至るまで一切の手抜きがない。施主がペットの鳥をいかに大切な家族と思っているかの証だが、その思いを実現できるのはリノベーションでこそ。ここまでやるのか、やれるのか。あらためてリノベーションが持つ力を見せつけられた思いである。

リノベーション住宅の主戦場である1000万円以上部門は、かねてからエントリー数も多く競争の激しいカテゴリーだったが、今年は過去最多の135作品のエントリーが集まった。言うまでもなく工事費の高騰による影響が大きいものの、それだけではなく顧客ニーズの高度化と事業者の提案レベルの向上で、高単価のプロジェクトが増えているのではないだろうか。
そういうわけでオブ・ザ・イヤー史上もっとも厳しい競争となった1000万円以上部門を見事制したのは、「Ring on the Green 風と光が抜ける緑に囲まれた家」(ルーヴィス)だ。この作品は、素材となるハコのポテンシャルを最大限引き出したリノベーションである。開口部が8つもある3面採光というハコのメリットを活かして広々と明るいワンルーム空間をつくり出す一方で、開口部のデメリットとなる断熱性能・遮音性能はインナーサッシで手当し、隣地からの視線はグリーンとブラインドでやわらかく遮断する。またデザイン面においてもリノベーションの魅力が存分に発揮されている点も評価が高い。中央のオープンキッチンをぐるりと取り囲むように吊らされたLED照明の角丸四角形が、カウンターと窓まわりの造作にもリフレインして空間のアイコンとなる。それとマーブルの床や無骨なRC躯体と相まって、住宅というよりもおしゃれな店舗のような雰囲気だ。既存建物の弱点を補いつつ潜在的な力を全開放し、快適でかっこいい唯一無二の空間に再生した、言わばリノベーションの王道的な作品である。

審査委員会が毎年頭を悩ませる無差別級部門。最優秀賞を獲得したのは「駅前ロータリーを歩行者の手に取りもどせ −『ざまにわ』」(ブルースタジオ)だ。この作品は、2015年の総合グランプリを受賞した「ホシノタニ団地」に隣接する座間駅前で、「ホシノタニ団地」のコンセプト「こどもたちの駅前ひろば」をそのまま踏襲・実現したプロジェクトである。
内容をよく確認すると、リノベーションとしてはいたってシンプルだ。駅前を醜く占領していた駐輪場を無駄に広いロータリーの植栽に移し、空いたスペースをベンチや縁台を備えた芝生広場にして、そこに面した商業施設のファサードを整える。細部を端折って言えばたったこれだけである。しかしこれで必要十分、過不足なし。駅前の空間に劇的な変化が生まれているのは見ての通りだ。駅前からホシノタニ団地までが一体の歩行者空間として繋がったことで、今後は駅前商業の活性化も確実に期待できるだろう。最小の手数で最大の効果。これぞリノベーションの真骨頂とも言える、もっともスマートなリノベーションである。
今回の受賞によりブルースタジオの無差別級での部門賞以上受賞は実に5回目となる。10年間で5回は驚異的な戦績と言わざるを得ない。

さて、記念すべき10周年の総合グランプリの栄冠は、「総二階だった家(平屋)」(モリタ装芸)の頭上にもたらされた。この作品は、今日的な社会課題に対してリノベーションの持てる力をフルに発揮し正攻法で向き合った、正統派ストロングスタイルのリノベーションだ。
リノベーションの対象となった素材は、空き家になっていた築47年の両親の家。言うまでもなく全国的に深刻化する空き家問題の核心である。総二階建ての建物をダルマ落としの要領で平屋にし、床面積を半分に減築したリノベーションは、世帯あたりの同居人数の縮小や高齢化という人口動態の変化にも対応しており、これからの戸建てリノベーションの一つの流れになる予感がある。というのも実は今、平屋は隠れたブームなのだ。新築の戸建て住宅市場で平屋の着工棟数はこの10年で2倍に増加しており、2021年度の着工統計では新築戸建て住宅に占める割合は約13%、大手ハウスメーカーに限れば約20%に達している。「LIFULL HOME'S 住まいのヒットワード番付 2022」でも前頭として平屋が選ばれている。
この作品を正統派ストロングスタイルだと評したのは、確かな技術力に裏打ちされた誠実な仕事ぶりを感じるからだ。たとえば、まずインスペクションと耐震診断で改修すべき箇所を明確にした上で、建て替えとリノベーションの両案を検討して計画に着手したこと。さらにリノベーションにあたっては高い水準で性能向上を実現したこと。具体的には減築と軽量化で耐震性能を確保し(欲を言えば耐震等級は3を目指したい)、断熱性能は当地でのZEH基準を上回るUa値0.44を達成。これにより長期優良住宅の認定を受け、補助金で施主の負担軽減にも貢献している。そして外観も内部空間も劇的に変わってはいるものの、現代的な空間の中に古い柱を意匠として取り込むことで愛着ある実家の思い出を留めたデザインも巧みだ。南側の庭に面した大開口部に設けた深い軒は、夏の日射遮蔽をしつつ、上品な別荘のような落ち着いた風情を醸し出している。2022年時点で考えうる戸建リノベーションの一つの到達点として、記念すべき10周年の総合グランプリにふさわしい作品であった。なお森田装芸は初のグランプリ受賞である。

紙面の都合でここでは紹介できないが、惜しくも部門賞には届かなかった審査員特別賞の中にも、最後の最後の決選投票で僅かな差で選にもれた作品も多い。特別賞は例年以上の豊作だったことは付記しておきたい。

最後に、10周年ということで少し昔話を。
第1回目のリノベーション・オブ・ザ・イヤーは2013年、原宿の裏通りのカフェの2階の小さなイベントスペースでの開催だった。2009年に設立されたリノベーション協議会が全国に会員組織を広げたタイミングで、リノベーションの魅力を広く発信することを目的としたリノベーションEXPOの一つのコンテンツとして企画された。この時のエントリー数は39社・151作品。会場はいたってカジュアルで華やかさも威厳もなく、今では恒例になっているブラックタイも2人だけ、レッドカーペットもない。始まりは、お世辞にも業界あげてのビッグイベントとは呼べない小さく地味なスタートだった。

第1回目の審査委員と受賞者

あれから10年。リノベーション・オブ・ザ・イヤーは日本中のリノベーション関係者が注目する年末の一大行事に成長した。エントリーされる作品群のバラエティの豊かさと質の高さは、控えめに言っても他の類似コンテストとは一線を画している。最終選考にノミネートされた作品ならば、他のコンテストであれば何らかの賞を獲得することはたやすいだろう。また、メディアの編集長が審査委員を務めるというユニークな最終審査の体制は、ただ単に作品のデザインの良し悪しではなく、社会に対するメッセージ性が評価のポイントとなることを意味する。だから、ここでの受賞はリノベーション事業者にとって大きな勲章になる。最近では、オブ・ザ・イヤーに挑戦したいがためにリノベーション協議会へ加盟する事業者もいるほどである。
リノベーション・オブ・ザ・イヤーがアワードとしてここまで成長したことは、発案者で審査委員長である私としても感無量である。過去10年間、累積のエントリー作品はおよそ2000に上る。素晴らしい作品を競い合うことで毎年のアワードを盛り上げてくれた事業者の方々、審査委員を引き受けていただいたメディアの編集長の方々、裏方としてイベント運営に汗をかいてくれたスタッフの方々、そしてなによりリノベーションという選択をしてくださった施主の皆様に、あらためて心より御礼を申し上げたい。

結びに代えて、2013年の第1回目のオブ・ザ・イヤー講評コメントに書いた一文を、今一度ここに思い起こして、すべての関係者へ共有しておくことにする。
「将来的にはリノベーション・オブ・ザ・イヤーを国民的な関心を集める一大イベントに育てて行きたいと考えている」
まだまだ道半ば。次の10年に向けて、リノベーション・オブ・ザ・イヤーもさらなる進化を目指したい。

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池本 洋一 株式会社リクルート
SUUMO 編集長

inherit from TAISHO ~古民家×アンティーク~
500万円以内部門は、インテリアに強いこだわりをもつ施主の存在は大きい。アンティーク好きの施主のミッドセンチュリー的な要素を古民家に合わせるというもの。思わず富山の東岩瀬町にあるKartellの富山ショップを思い出した。古民家が続く町中に突如イタリアの先端デザイン家具が立ち並ぶ内装は衝撃だった。本件は木製サッシを導入しているが、その枠部をオレンジ色に塗装しており「なにかあるぞ」という期待値も醸し出している。
本物件は土台補強、断熱材の追加、ガス導入などのハード対策を施し、廊下部分をリビングに取り込み、キッチンも壁付け変更で使いやすい広さを確保。建築は「強・用・美」と言われるが、施主の「美」の感覚を織り込みつつ、「強」と「用」を一定コスト内で落とし込むのがリノベのプロフェショナル。本作品は大正建築を部分リノベで強・用・美を見事にバランスさせた作品だ。

間隙から生活と遊びの間/LifeShareSpace~noma~
中山道の物流の拠点として栄えた沿道が、産業衰退、住宅地化、名物の縁日も縮小、脆弱化していた。その⽂化を繋ぐ祭り場を現代風に再構築した。素材は場末のスナック。元ネタが最高だ。ここをデイリーショップ、冷凍・菓⼦製造許可付シェアキッチン、レンタルスペース、プライベートダイニング、ゲストハウスに再構成。駅徒歩10分でも小商いの成立が困難なエリアでも収支が合うようにシェアリングの概念、作りこみ用途特定しすぎない余白の概念を取り込んだ。また2棟200㎡を超える延床面積に対し減築を施し、特殊建築物への用途変更の緩和を最大限に生かした。さらに大阪の9(ナイン)に設計協⼒を仰ぎ、地⽅と都市圏との間に潜む遊び心を両社のデザインの対比・融和で表現。リノベーション協議会のネットワークと学びを見事にカタチにした作品である。

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佐々木 大輔 株式会社日経BP
日経アーキテクチュア 編集長

津田山の家-浜口ミホの意匠を住み継ぐ-
ヘリテージ・リノベーション賞「津田山の家-浜口ミホの意匠を住み継ぐ-」は、ダイニングキッチンの生みの親と言われる浜口ミホが設計した築57年の住宅で、歴史的価値が高い住宅遺産だ。この住宅の空間がもともと持つ美しさは一時代の流行に捉われた儚いものではなく、普遍的な力強さがある。リノベーションで手を加えるに当たっては、傑出した個性を残すために最大限の注意を払ったに違いない。そのうえで、新たな住まい手が安心して快適に住み継いでいけるよう、耐震・断熱改修も施している。現代の改修設計・施工に携わった者と、過去の原設計者の対話を見るかのような丁寧なプロジェクトに賛辞を贈りたい。

時空を旅する洋館
ヘリテージ・リノベーション賞「時空を旅する洋館」は、大正時代に米国から輸入された東京の洋館を見つけ、それを神戸に移築するというプロジェクト。もはや建て主の“意地”ともいえる壮大なロマンが詰まった住宅だ。「歴史ある洋館に住みたい」という憧れと情熱にいかに応えて、形にしていくか。老朽化が著しい建物のリノベーションに当たって、梁や柱、建具、瓦などをリユースする一方で、減築して延命を図るなど、何を残して何を変えていくかの取捨選択が巧みで、センスがよい。住宅遺産の保存・再生の在り方としても価値がある。建て主と住宅が共に歩み始めた、幸せな「セカンドライフ」の門出を祝福したい。

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立石 史博 株式会社扶桑社
住まいの設計 編集長
リライフプラス 編集長
ふるさとニュースマガジンカラふる 編集長

テキスタイルの可能性。
柔らかなテキスタイルの力で空間の雰囲気をガラリと変えるという、ありそうでなかったリノベーション。天井を覆う布は照明の光をほどよく拡散して、無機質なマンションを表情豊かで優雅な空間へと変えてくれました。しかも、マグネットを使い固定するので簡単に取り外し可能、というのだから気が利いています。収納や室内窓も同系色の布で隠し、室内をすっきり落ち着いた雰囲気に。リノベーションの新たな一面を見せてくれた作品です。

7°の非破壊リノベーション
ウェルメイドだけど少しだけ不便な新築建売住宅を、ちょこっとリノベーションして自分たちらしく変更。壁に対して7度だけ水平からずらした大きなテーブルを造作し、そこにキッチン・ダイニング機能を集約。さらに小上がりの畳スペースも設置して、楽しくくつろげる空間に。もともと設置されていた設備機器は極力再利用、施主がDIYで施工に参加してコストも抑えた点も好印象。ちょっとした発想の転換で、お金をかけずに暮らしやすくできることを教えてくれた秀作です。

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徳島 久輝 ルームクリップ株式会社
RoomClip住文化研究所 特任フェロー

ing on the Green 風と光が抜ける緑に囲まれた家
活かしきれていなかった8つの開口の恩恵を、最大限受けられるような間取り・空間使いの提案。また、東京の住宅地の2階というデメリット(騒音や隣の建物との近さ)を解消する様々な工夫。単に負を解消するに留まらず、大胆な間取りやデザイン的な美しさも織り込みながら完成した作品は、まさに個人邸リノベーションの醍醐味が詰め込まれたもの。特に、オープンキッチンの上部にぐるりとまわるライトの美しさには、多くの審査員から感嘆の声があがった。これからフルリノベーションをしたいと考える方々が、理想にしたいもののひとつになるであろう。

コトなるカタチ
間取りは変えず、施主が希望する暮らしのディティール=「コト」にあわせて、色々なものの「カタチ」をデザインしたのが本作品。リノベーションというと、間取りを含めて既存のすべて変更するのが前提と思いがち。でも、「どんな暮らしをしたいのか」をトコトン出し尽くしてみると、実は間取りは変えなくても良かったりする。様々な「コト」を「カタチ」に落とし、すべてが一体になるように整えることで空間が完成するというアプローチは、新しいようで、リノベーションの本質的なアプローチでもあると感じた。

まちなかロッヂ
築39年、エレベーターなしの5階部分という負を抱えた公団住宅の一室。「まちなかロッヂ」というコンセプトのもとに、アウトドア好きが喜ぶ内装を整えた上で、エレベーターがないことを「日々運動ができる」とポジティブ変換したマーケティングプランを作った。これを再販で行った有限会社ひまわりの凄みを感じつつも、時代が追いついてきて、この物件を良いと思って住みたい人がいるだろうなと思えたことが嬉しい。見方を変えることで、負はベネフィットにもなりえる。リノベーションの奥深さも、改めて感じることができた。

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八久保 誠子 株式会社LIFULL
LIFULL HOME'S PRESS 編集長

駅前ロータリーを歩行者の手に取りもどせ −『ざまにわ』
リノベーション・オブ・ザ・イヤー2015総合グランプリである 「ホシノタニ団地」 。老朽化した団地と敷地を街に開き"人と人、人と街をつなぐ場として編集する " という先進的な試みが高く評価された。翌年2016年度のグッドデザイン賞において、なんと団地のリノベーションとして初の金賞を受賞している。
そこから5年、「駅前ロータリーを人の手に取りもどせ」というコンセプトで座間駅東口のロータリーを、人をピックアップする機械的な場所としてではなく、“人々が集う庭”として再編集。『ざまにわ』と名付けられたその場所は、また人々と街のつながりを生み出す場所として生まれ変わった。
ホシノタニ団地から続くその後の物語であり、「街の編集は続いていく」というさらなる期待をみせてくれる流石のリノベーション事例である。

Summer Camp House 子供達の「自分で」を育てる家
何より楽しく拝見したのは、フィールドアスレチックのような場所が家の中に出現し、子ども達が遊ぶ写真。3つの高さの違うフロアやアスレチック壁など、3次元に空間を活用し、子ども達のために工夫を重ねたリノベーションだ。
3人のお子様がいるお施主様は「サマーキャンプのような、子どもたちだけの自由に過ごせる空間」をという希望をされたという。「体を動かす遊びは外でしなさい」ではなく、のぼったりもぐったり勉強したり、と家の中に取り入れた楽しい空間は、制約のある住まいを平面で考えるのではなく、立体的に空間として活用できるということを改めて教えてくれるリノベーション事例である。

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ゲスト選考委員

指出 一正 株式会社ソトコト・プラネット
代表取締役 ソトコト編集長

5羽+1人で都心に住まう
家族のかたちやありようが多様に変化している現在において、人間だけではなく、一緒に暮らすペット(コンパニオンアニマル)たちのことも等しく家族の一員と考える価値観がより当然になってきている。こちらは立地を含めて、その愛情にあふれる仕組みと構造がよく考えられている。犬と猫のあいだでさえも暮らしの動線は異なる。鳥たちなら空中の移動も含めてなおさらだ。リノベーションによりこの空間が得たのは、人と鳥たちの互いにご機嫌な環境だろう。これはまさにダイバーシティとウェルビーイングの視点から生まれた住まいである。鳥たちが楽しく遊べる、つまり、生きる喜びを感じられる仕掛けがいっぱいで楽しい。統一された壁色と鳥の対照性は、鳥の飛行状態、健康状態やそれぞれの位置を見極めるのにも役立つ。鳥が幸せなら、人も幸せになる。鏡のような関係。リノベーションがもたらすおおらかな社会の可能性の広がりを感じさせてくれる。

風景のカケラ、再編集 「PAAK STOCK」
元・パチンコ店の大きな空間をうまく活用して、古材や古い家具、食器の価値をアップサイクルの視点から提案した好例。タイトルに「再編集」とあるとおり、物事に新たな使命を与え、さまざまなものを集めて編む手法を日常のライフスタイルに落とし込んでいる。飫肥という歴史の積み重なった魅力ある土地の記憶を、その世代を過ごしてきた人たちのみならず、これからの未来をつくる若い世代が体験しやすいかたちにできているところも、このリノベーション物件の大きな力だ。SDGsの観点からも、すでにあるヴィンテージものを見つけて、長く使う行動に結びついている。空間としては完全なクローズドとすることなく、エントランスにパブリックなスペースを設けたことで、本来の中心街としての立地の特性を生かしながら、まちに染み出していくような人の交流の時間と機会を提供している。ただの商業施設ではない、「関わりしろ」が用意されたみんなの場所だ。

「くるみ食堂」新しい夕張の未来をつくりたい。
リノベーションにDIOのマインドを重ね合わせたローカルグッドな例。DIOはDo It Ourselvesの略で、「ほしい未来をみんなでつくる」と意訳される。施主の熱意と、施工者をはじめ、それを応援するあらゆるレイヤーの仲間たちが知恵を持ち寄り、工夫を凝らし、フラットに行動を起こして生まれたリノベーション空間は、三角屋根の伝統建築を、誰もが関わりやすい「関わりしろ」が満点の関係案内所にアップデートした。クラウドファンディングによる資金調達や分離発注による工事などは、DIOの手法としても注目に値する。食堂という親しみやすい形態から、人が人と出会うきっかけをつくり、地域を自分ごととして考えるつながりの連鎖が生まれていく。また、この場所を訪れることから夕張のことを知り、新たに関係人口となっていく人たちも現れていくだろう。夕張という魅力あふれる地域のこれからを思い、みんなで未来をつくる、ワクワクするようなローカルプロジェクトだ。

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西山 千香子 株式会社宝島社
第2雑誌局局長 兼 リンネル編集長

暮らし方料理人
立地・利便性・ロケーション・物件の状態、に満足できる物件と出合うのはなかなか難しいもの。この幸運な出会いを最大限に活かすために、自分にとって快適な生活動線や収納とは?というところに丁寧に向き合って細部にもこだわり、じっくり時間を費やしてリノベーションをされたのだろうと思いました。500万円未満のリノベーションですが、施主様にとっては、金額以上のプライスレスな価値のある、自分らしい快適空間が完成した素敵な事例ではないでしょうか。

納屋と団地、小さなまちの職住一体のカタチ
使わなくなった実家の納屋を街の人たちが集えるスペースに変化させたリノベーション。築60年の建物の味わいを活かしたスタイリッシュで落ち着いたデザインが施され、誰もが訪れてみたくなる空間になっています。きっとこの街で暮らす人々の「自慢の場所」になっていることでしょう。また、近くには移住してきたクリエイターのために、1棟まるごとリノベーションされた団地も作られていて、納屋をクリエイターたちの発信の場にすることで、町外からの人々と昔からの住人をつなぐ大きな装置が出来上がりました。住み慣れた町の佇まいを大切に守りながら、自分たちの手で新しいスタイルを作り出していこう、という施主様の熱い心が伝わってきます。建物のリノベーションは、暮らしのイノベーションを生み出す、ということを実感した事例です。こんな町に自分も暮らしてみたいなと思いました。

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高木 幹太 株式会社マガジンハウス
TOKOSIE編集長

リノベーションは、いまや都市の住宅購入層のファーストチョイスになりつつある。新築のマンションは高騰して買えないし、自分のイメージする住空間を実現するには、最初から中古マンションのリノベーションを考えた方がいい。我々のメディア「TOKOSIE」では、家づくりにこだわるライフスタイルをテーマに情報発信しているが、取り上げる住宅事例は、結果的にリノベーションばかりである。いま、リノベーションの隆盛を肌で感じるようになってきたが、今回10周年を迎えるリノベーション・オブ・ザ・イヤーの取り組みも、大きな貢献をしてきたのではないだろうか。敬意を表したい。

今回、はじめて審査に参加させていただいたが、審査会では想像以上に深い議論が交わされていて、勉強になった。「TOKOSIE」の価値基準は、住む人がどこまで自分のスタイルの実現こだわったかという点にあるが、この審査会では、それぞれのリノベーション事例の持つ社会的意義や住宅性能について議論されており、住宅専門メディアの編集長たちの見識の高さと、賞の10年の蓄積を感じることとなった。

今年のグランプリ受賞作「総二階だった家(平屋)」は、築47年、木造二階建ての実家をリノベーションして、平屋にしたという事例で、古い家を建て直すのではなく、直して住み継ぐという、価値観が受賞の理由。500万円以下の最優秀賞「inherit from TAISHO ~古民家×アンティーク~」は、古民家のリノベーションだが、新潟の冬の厳しい寒さをカバーするための断熱材を入れるなど、住宅性能を高めたところが評価された。1000万円以下部門の最優秀賞「5羽+1人で都心に住まう」は、小鳥との共生のために建材も化学薬品や金属は一切使用せず、自然素材を使用するなど、ペットのための環境性能が評価された。他にも、名建築の再生であったり、地方のコミュニティハウス作りであったり、それぞれのリノベーションの意義が議論の中心であった。

私としては「TOKOSIE」的視点で、施主のスタイルのこだわりが感じられる、デザインの完成度が高い事例に多く票を入れたが、1000万円以上部門の「Ring on the Green 風と光が抜ける緑に囲まれた家」、無差別級部門の「駅前ロータリーを歩行者の手に取りもどせ −『ざまにわ』」が最優秀賞となったが、他は特別賞に多く入る結果となった。「コトなるカタチ」「世界を旅するネイリスト~海外の開放感と自然の光が広がる空間~」「Mid-Century House|消えゆく沖縄外人住宅の再生」などである。

今回、審査員の皆さんと時間を共有させていただいて、住宅の専門メディアの視点を学べたことは大変有意義であった。こうしたご縁をいただいたので、「TOKOSIE」では、このあと、リノベーション・オブ・ザ・イヤー受賞作品の取材を行い、YouTubeチャンネルなどで公開していく予定だ。ご覧いただければ幸いである。

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