AWARDED WORKS


受賞作品一覧

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  • 総合グランプリ
  • 扇状のモダニズム建築、桜川のランドマークへ

  • 株式会社アートアンドクラフト

講評コメント

  • shimabara
    • 審査委員長
    • 島原 万丈
    • プロモーション委員長
      (HOME'S 総研所長)
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    • 「この中から一等賞を選ぶのは無理じゃないか」。一般投票などを経て最終審査対象に選出されたノミネート昨品群をみた時の偽らざる気持ちを白状すれば、そのような困惑に近い悩みだった。そのような第一印象は他の審査委員も同様だったようで、今年で第5回を数えるリノベーション・オブ・ザ・イヤーの最終審査は、はたして例年以上の大混戦であった。

      相対的にローコストなに位置づけられる500万円未満部門と1000万円未満部門は、回を重ねるごとに、各社の空間デザインおよびプレゼンテーションのレベルが向上してきた確かな実感がある。いずれも限られた予算の範囲で、そこに暮らす家族の個性が目に浮かぶような住空間を高いレベルで実現している。施主の満足や完成度という点では、いずれも甲乙つけがたい。最優秀賞を受賞した「ツカズハナレズ」(500万円未満部門)と「マンションでスキップフロアを実現 ~上下階を利用したヴィンテージハウス~」(1000万円未満部門)は、新築に対するリノベーションの優位性を広く市場にアピールしようとする時に、空間の斬新さや自由さという点で、象徴的な事例となる作品だと評価した。

      1000万円以上部門の最優秀を獲得した「光、空気、気配、景色。すべてが一つにつながる-代沢の家」で、まず目を引くのは新築基準を大幅に上回るレベルにまで向上した耐震性能と断熱性能ではあるが、同時に、吹き抜けの真ん中に通した階段の左右にスキップフロア的に床を配置した空間構成は、ごく普通の外観からは想像もつかない驚きに満ちたものだ。また設備メーカーの製品を使い性能向上を実現したことで今後の汎用性が期待できる、という点でも高く評価された。各社の主力作品がしのぎを削るリノベーション市場の主戦場で、頭一つ抜き出た作品であった。
      無差別級部門は特に審査が難しかった。議論のテーブルにあがったのは、最優秀部門賞を勝ち取った「流通リノベとシニア団地」、審査員特別賞に選ばれた「パッシブタウンで「一生賃貸宣言」しませんか?」、「ここに復活!!東洋のベネチア構想 LYURO東京清澄」。その他には、惜しくも受賞はならなかったが、「ウッドヴィル麻布」、「川崎『unico』」、「築88年の大阪三軒長屋」なども個人的には推したい昨品だった。いずれの昨品も、今年でなければ、部門賞、グランプリを狙えるレベルの力作だろう。
      例年にもまして豊作の無差別級を制した「流通リノベとシニア団地」は、「林地残材」、「木材流通」、「高齢化する団地のコミュニティ」、「デイサービスのあり方」など、多くの課題に対して1つのリノベーション・プロジェクトで解決策を提案する、実に雄弁な作品だ。

      さて、2017年のリノベーション・オブ・ザ・イヤー総合グランプリに輝いた「扇状のモダニズム建築、桜川のランドマークへ(新桜川ビル)」。
      無差別級で最優秀に選ばれた「流通リノベとシニア団地」や1000万円以上部門最優秀の「代沢の家」らと競り合っての受賞となった。

      ここ数年の傾向として、オブ・ザ・イヤーの受賞作品には、社会課題に対する提案性が求められるようになってきた。空き家の再生でまちづくりに資するプロジェクトである「ホシノタニ団地」(2015年)や「アーケードハウス」(2016年)、「シーナと一平」(2016年)、省エネルギー性能を大幅に高めて地球温暖化問題に対応する「暖房なしでも暖かいマンション」(2015年)や「暮らしかた冒険家 札幌の家」(2016年)などが代表的事例である。
      それらをひとまず、“社会課題系”と呼ぶとすれば、今年も「流通リノベとシニア団地」、「代沢の家」、「パッシブタウン」あたりを筆頭に多数の作品がこの系譜に該当する。中でもYKKグループが関わった2案件は、2020年に義務化される次世代省エネルギー基準を遥かに上回る性能を達成しつつリノベーションならではの魅力的な空間デザインを実現。もちろん市場性も担保されている。まさに次世代のリノベーションが目指すべき模範解答のような作品である。

      それらの強力なライバルに対して、「新桜川ビル」は圧倒的なビジュアルの存在感で対抗した。歩行者の上空で旋回するような軌跡を描く阪神高速道。そのRの内側に沿うように湾曲して建つ扇形のモダニズム建築。大阪に住む人なら誰でも記憶にある印象的な風景だ。
      国が推奨する優良住宅として1958年に建設された「新桜川ビル」は、長く地域のランドマーク的な建築物であった。しかし現代では、まちの風景の一部として愛着を持たれたビルであろうとも、容積率さえ許せば躊躇なく取り壊されていく。そのような新築至上主義的な市場原理に対する違和感や異議申し立て、あるいは反骨心といった感情が、単にかっこいいとか新築より安価ということ以上に、私たちがリノベーションを応援したくなる気持ちの根幹にはある。私たちはなぜリノベーションを支持するのか、なぜリノベーションを広めたいのか。私たちのリノベーションに対するリスペクトの原点を思い出させてくれる力がこの昨品にはあった。

      このように述べると、元の建物の魅力が勝因のように聞こえるかもしれない。しかし、地域がこの風景を守るためには、やはり成熟したリノベーションスキルが必要だ。常に建て替えの理由になる老朽化した設備系の刷新に頭を悩ませた技術力。過剰にならないよう慎重に抑制されたデザイン力。ビルのコンテンツとなる個性的なテナントを選んだマーケティング力。そしてそれらをリーシングした不動産力。「新桜川ビル」は、幅広い技術と蓄積された経験が総動員されてようやく成立する難易度の高いプロジェクトである。小さな節目となる5年目のオブ・ザ・イヤーにふさわしい総合グランプリを選べたと思う。
  • ikemoto
    • 審査委員
    • 池本 洋一
    • SUUMO編集長
      (株式会社リクルート住まいカンパニー)
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    • 今年の審査も楽しく難しかった。グランプリ候補は受賞に値する作品としての魅力はすべて有しており、最後は僕ら審査員が何のメッセージを世に伝えたいかの議論だからだ。白熱した議論の結果、ここ数年の傾向である「課題解決型リノベ」ではなく、「リノベの原点」をメッセージとして「新桜川ビル」が選ばせていただいた。僕の中での「原点」とはこうだ。街の歴史が垣間見える建物(でも文化財まではいかない)を「残したい」と強く想い、その実現のために「デザイン」と「文脈」を今風に「翻訳」し「経済性」を成り立たせる形で再構築すること。「新桜川ビル」からは「残したい」というアートアンドクラフトのスタッフの愛情がストレートに伝わってきた。残すことがメインだから再構築部分は必要最小にとどめ、工事費はびっくりするほど抑えられている。そしてこれは「萌え」を感じるかどうかという「セグメント」効果をもたらし、結果、クリエイティブな入居テナントが集まり、このビルの一貫性を形成している。GINZA SIXに代表される再開発の新築ビルとは全く異なるメカニズムであり、汎用的で持続可能な競争優位戦略ともいえる。

      特別賞として表彰させていただいた2作品についても触れておきたい「こだわリ実現賞」の「アパレル夫妻の23年分の想い」。
      リノベーションは感度の高い人たちに選ばれる傾向にある。イメージする空間の写真をもってくる人もいれば、口頭で表現する人もいる。この作品の依頼者はアパレル業界=こだわりの強い二人。しかも23年分の想い出の品がたっぷり。どう1つの空間デザインにしかも300万円台というコストで落とし込むか。設計者の腕の見せ所である。ニューユニークスは打ち合わせ回数無制限と顧客の想いに寄り添う姿勢を打ち出しているが、その真骨頂ともいえる作品だ。「ベストデザイン賞」の「100+∞(無限大)。買取再販リノベーション市場が大いに盛り上がっている。コストにこだわったり、新築っぽい物件も多い中で、施主が明確でない分、設計者の想いで作って「世にどうだ」と問いかける「勝負型再販リノベ」が多くあってほしいと思っている。本作品はその分野の傑作だ。面積100㎡という恵まれた広さを生かして、アーチ型の袖壁で区切った「ギャラリー」を作った。繰り返すが再販物件である。その「連続性による美」を表現したメイン写真は当初から応募を意識して設計したのではないかと思うほどの構図だ(笑)。タムタムデザインの作品には写真・キャッチ・コピーライティングそのすべてに愛情と情熱が感じられる。すべての応募者に参考にしてほしい事例だ。
  • p_kimijima
    • 審査委員
    • 君島 喜美子
    • リライフプラス 編集担当
      (株式会社扶桑社)
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    • 「取材したくなる物件」かどうか?がこのリノベーションオブザイヤーの選考基準であるが、昨年にも増して、「取材したくなる物件」が多かった。また回を重ねるごとに確実に写真のクオリティもどんどん高くなっていると感じた。

      「コピーライティング賞」を受賞した「吾輩は猫のエドワードである」は、ん?と目が留まるタイトルや、テキストが「猫」目線でエッセイ風に書かれている点などに工夫が感じられる。だが、それ以上に魅力に感じたのは女性3人+猫5匹で暮らしている、という点。少子高齢化、非婚化がますます進むであろう今後、友人と暮らすという選択肢はスタンダードなものになっていくのかもしれない、と感じさせられた。単なる実例紹介としてではなく、物件探しや家づくりのプロセスも含めて詳しく取材させてほしい!と思う物件のひとつだった。

      「優秀R5住宅賞」を受賞した「サバービアンブームの夜明け」は旗地、階段、不整形地という三重苦を逆手に取り、郊外にしかないものをキラーコンテンツとして盛り込む、というひとことで言うとメディア的に「おいしい」物件。しかも再販であるという点に、設計者の静かで強いメッセージを感じる。また、居室ごとに「マイ庭」があったり、桟橋のようなウッドデッキがあったり、それだけで見出しになりそうな魅力的なコンテンツにも興味をそそられる。こんなひとクセある物件を購入するのはどんな人なんだろう?どんな風に住みこなすんだろう?ぜひ入居してしばらく経った頃に取材させてほしい!と思う物件だった。

      総合グランプリを受賞した「扇状のモダニズム建築、桜川のランドマークへ」を取材するとしたら、記事のタイトルは「ビルは見ていた!」にしよう、などと妄想を膨らませながら資料を見せていただいた。
      ・ 立地が素晴らしく良いこと
      ・ 建物へのリスペクトがあり、元のディテールを大切にしていること
      ・ 街に開いていること
      ・ クリエイティブな活動をする若い人に理解があること
      ……などなど、リノベーションっていいね、と誰もが思わずにはいられない要素が凝縮されている。お金もきちんと生み出し、お金以外のハッピーな副産物も生み出す、カルチャーのあるリノベーション。今後はこうした事例がますます増えていくのではないだろうか。
  • sakamoto
    • 審査委員
    • 坂本 二郎
    • LIVES 編集長
      (株式会社第一プログレス)
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    • 全体の作品を見渡して、とくに住宅部門で感じたのは、デザインの厚盛り”の傾向でしょうか。従来、“壁塗っただけ”や合板丸出し、といった引き算のリノベーションが多く見受けられましたが、ここ数年のDIYインテリアなどの流行りもあって、仕上げが大きな比重をしめるような方向に向かってきている印象も受けます。

      一方、無差別級のカテゴリーにはなってしまいますが、地域課題をテーマにした作品が増えており、こうしたカテゴリーを別に設けてにも良いのではないかとも思いました。なかでも気になったのが昨年のグランプリ覇者でもあるタムタムデザインさんの流通「リノベとシニア団地」。木材流通そのものをリノベーションする、という手法もとともに、その日田杉をふんだんに使ったホスピタリティ感を感じさせないデイサービスセンターや気軽に立ち寄れるお惣菜やさんのリノベーション、コミュニティが自走していく仕掛けも素晴らしく、今後高齢化していく団地コミュニティづくりの良きお手本になるのではないかと思いました。

      グランプリはアートアンドクラフトさんの「新桜川ビル」。
      毎回、アートアンドクラフトさんの出品作を見ていて思うのは、「遺したいと建物しかリノベしないでしょ(?)」ということ。たとえばバブル期の味気ないビルをコンバージョン、といった事例はよくみかけますが、アートアンドクラフトさんの場合は、皆が遺したいと思う建築を遺しつつ、新たな息吹を吹き込み、新たな共感を集める、といったことをほぼ毎回実践されています。審査するというよりも、プロジェクトの当事者になってみたい、という気持ちに近かったかもしれません。アワードの常連ではありますが、建物の規模からいっても今回しかグランプリはないのでは、という思いで投票しました。おめでとうございます。
  • tokushima
    • 審査委員
    • 徳島 久輝
    • RoomClip mag 編集長
      (Tunnel株式会社)
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    • 「リノベーション」という世界の凄さとは何か。それは関係する方々の「スピード感」と「コトの本質を探り続ける力」。この数年間でも、マンションの1室から戸建てリノベに進み、ビル一棟、団地一棟、街作りに、働き方への関与。時代が追いついてくると、また一歩その先へと進む。よってオブ・ザ・イヤーで受賞することは大変なことなのかもしれない。これまでにはなかった「視点」や事例が持つ「本質力」が常に問われてしまうから。

      今年のグランプリを受賞した「新桜川ビル」。そこには2017年のリノベエッセンスが詰まっている。古き良き建物を残しつつ、設備を更新するだけにとどまらず、クリエイター向けのアトリエ兼住居として生まれ変わらせた。クリエイターは、場が生まれることで、チャレンジできることがあり、新しい出会いが、その先の人生を変えてくれるかもしれない。大手企業での週休3日制や副業解禁が話題になるなど、新たな働き方に関するニュースが多かった本年にあって、この事例はまさに「一歩先行く」ものであったと思う。

      同じく「働き方」文脈の好事例として、素敵ライフスタイル賞を受賞した「てとてと食堂」がある。料理好き夫妻が料理を楽しむことを目的に、家のほとんどをキッチン+LDにリノベーション。実施しはじめた料理教室や有償での料理会が盛況になり、リノベ後の2人の生活はキャリアを含め激変したそう。リノベーションした自邸が、ライフもワークも変える「ツール」となりえる時代がやってきたようである。

      その他、個人邸の作りそのもので印象的だったのは、500万円未満部門で受賞した「ツカズハナレズ」。LDKを広く取るという、リノベーションの独壇場だった世界に、世間がようやく追いついてきた今、ひとつの成熟したカタチを見せた。空間をオープンにしたいけれど、子供室は間仕切りたい、という相反する要望を、家族思いの優しい目線でまとめたのが素敵。

      「インスタ映え」が流行語大賞に選出された一方で、当社が運営するインテリアSNS「RoomClip」では、「脱・見た目スタイル」が進み、かわりに「◎◎な暮らし」といったタグが激増した。一般ユーザーの中でも、本質を捉える動きがますます加速するのだろう。そんな中でリノベーションの世界は2018年にどんな新しい本質に追っていくのか。楽しみで仕方がない。
  • p_hachikubo
    • 審査委員
    • 八久保 誠子
    • LIFULL HOME'S PRESS 編集長
      (株式会社LIFULL)
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    • 今年で第5回むかえたリノベーション・オブ・ザ・イヤー。
      私は今回を含め3回の審査に参加させていただいているが、過去と比較するとエントリー作品それぞれの力が本当に拮抗していることを感じた。

      「ツカズハナレズ」や「マンションでスキップフロアを実現 ~上下階を利用したヴィンテージハウス~」「アパレル夫妻の23年分の想い」「てとてと食堂、はじめます。」…どれも“どんな施主のために””どんな暮らしのために”をとことん考えた結果を現わしたリノベーション事例として各賞を受賞している。

      また今回、YKKAPの「光、空気、気配、景色。すべてが一つにつながる-代沢の家」審査員特別賞に選ばれたYKK不動産の「パッシブタウンで「一生賃貸宣言」しませんか?」は、ストック住宅への技術の進歩を見せてくれた事例であった。新築基準を大きく上回るレベルの耐震性能と断熱性能を、リノベーションという中で実現させた例は、ぜひ汎用化を望みたい。ながく断熱性能については特に世界の住宅基準から遅れている、と言い続けられている日本の住まいがリノベーションからも変わってくれたら、と願う。

      そして、グランプリを受賞した「扇状のモダニズム建築、桜川のランドマークへ(新桜川ビル)」は、“まちを創る”建造物として丁寧に文脈を読み解き、見事再生させた例であろう。ながらくスクラップアンドビルドに偏っていた、まちづくりのための建物の役割とまちとのかかわり方の具現化を改めて示した事例であったと思う。

      デザインや設計が人の暮らしのためにあること、性能や技術が快適さと健やかさのために活かされていくこと、まちや建物や人を丁寧に分析し、リノベーション後の生活やその建物の運営まで質をあげていけること…。
      リノベーションの役割はますます重要となっていくと思われる。

      「“リノベーション住宅推進協議会”から”住宅”の文字をとってもよいのではないかと思った」-という理事の方々のお話にあったように、ますます活躍と事例の幅を拡げていることを感じたリノベーション・オブ・ザ・イヤー2017であった。
  • miyazawa
    • 審査委員
    • 宮沢 洋
    • 日経アーキテクチュア 編集長
      (株式会社日経BP社)
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    • 今回、2度目となる審査会に参加させていただいた。昨年にも増して、「社会へのメッセージ」を強く感じさせる応募作が多く、選考していてとても楽しかった。

      私が編集長を務める「日経アーキテクチュア」は建築専門家向けのメディアで、「日経」という冠の通り、建築を「経済」や「社会」の視点から取り上げることに特色がある。そのため、住宅であっても、それが「社会に対してどんな意味や影響力を持つか」を常に考える癖がついている。今回、賞に選ばれたプロジェクトは、いずれもそうした点をクリアしたうえで、空間デザインとしても魅力的なものだった。

      特に惹かれたのは、1000万円以上の部の最優秀となった「代沢の家」だ。戸建て「リノベ再販」の実績を重ねてきたリビタと、開口部トップメーカーのYKK AP、さらに戸建てリノベの先駆者的存在である納谷建築設計事務所の強力コラボである。

      一見すると、企業イメージアップのための「実験」ではないかと思えてしまうが、事務局に確認したところ、「実際に買い手がついた」という確認が取れたので、自信を持って「1000万円以上部門最優秀賞」に選んだ。

      築30年の混構造の住宅を、“断熱”と“耐震”について、高い性能レベルを目指す改修を実施したものだ。通常、開口部(窓)は快適性をもたらすが、断熱・耐震の面ではいずれもウイークポイントとなる。ここでは高性能樹脂窓への交換などにより断熱性能を飛躍的に高めたことに加え、開口部を残したまま周囲を固める補強技術を採用。内部の開放感も高めている。現段階において、断熱・耐震面に関して「リノベでもここまでできる」、という1つの目標となり得る住宅である。

      一方、グランプリに選ばれた「新桜川ビル」も、「文化財級ではないけれど古くて良い建物をどう残すか」という難しい問いに答えた、社会的メッセージの強いプロジェクトだ。他の審査員の方が書くと思うので詳述はしないが、これも「リノベでもここまでできる」、という1つの目標となるプロジェクトである。
  • nishiyama
    • 審査委員
    • 西山 千香子
    • リンネル・大人のおしゃれ手帖 編集長
      (株式会社宝島社)
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    • 「ていねいで心地よい暮らし」を提案するライフスタイル誌「リンネル」「大人のおしゃれ手帖」の編集者として、リノベーション・オブ・ザ・イヤーの選考会に初参加させていただいた。
      さまざまなアプローチの作品を拝見して、「リノベーション」という潮流が、個人の住宅にとどまらず、商業施設から街そのものの再生、また、資材流通の改革にまで、非常に広く大きな影響力を持っていることを実感した。

      どの作品にも強いメッセージ性があり感銘を受けたが、特に「新しいライフスタイルの実現」という観点で「てとてと食堂、はじめます。」と「銀行を住まいに コンバージョン」に特別賞を授与させていただいた。

      「てとてと食堂」は、料理を愛するご夫婦がヴィンテージマンションを購入し、キッチンを中心とした住居兼料理教室としてリノベーション。その心地よいこだわりの空間にたくさんの人が訪れ、現在では予約でいっぱいになるほどとうかがっている。 「銀行を住まいに」は、銀行という大きく特殊な建造物が、建物を生かす形でオーナー家族が柔軟にアイデアを出すことで、快適な住空間に生まれ変わった。その立地の良さや大きさをフルに活用し、人の集まる場所に育っていくだろう。

      住居は、プライバシーを守る閉じられた場所、という機能が当然重視されているものであるが、この2案件は「人と人が出会い、繋がる安心空間」という新しい可能性をもたらしている。 ひとつの住居が、コミュニティを作り出す場所、ひいては、その街の安心して心地よく集える拠点となり、街自体を育てていく。そんな明るい未来を感じさせてくれた。
  • sashide
    • 審査委員
    • 指出 一正
    • ソトコト 編集長
      (株式会社木楽舎)
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    • 2017年のリノベーション・オブ・ザ・イヤーの最終エントリーは、どれもあたたかみがあって、ストーリーを感じさせてくれるものばかりだった。これは年々、リノベーションに求められることが、技術やデザイン、経済性というパフォーマンスの性能だけではなく、「社会を維持していくうえでの必然」のようなものへと意義を広げているからだろう。

      わたしから見た、今年の受賞作品の共通項は「関係性」だ。「ツカズハナレズ」のように、子どもと関わる、家族と関わるというミニマムな単位から、水辺とリノベーションの融和を表現した「ここに復活!!東洋のベネチア構想 LYURO東京清澄」のように、まちや地域と関わるというパブリックの視点、「日田杉」の森の主も深く関わった「流通リノベとシニア団地」のサスティナビリティの視点、さらには、パッシブハウスの基準と技法を積極的に導入した「パッシブタウンで『一生賃貸宣言』しませんか?」が目指す、省エネルギーやCO2の削減とともに未来に快適に関わるための、楽しくておもしろい、わたしたちの社会をふくよかに変えていってくれる作品が並んだ。いや、もしかしたら作品というよりもこれらはすべて「社会の気分」の具現化そのものなのかもしれない。

      リノベーションを通して、社会と関わる。価値あるものや場所、素材は残していく。まちや社会をドラスティックに変えるのではなく、ゆっくりと未来に手渡し、贈っていくという視点でも、今年の作品群を大きく評価したい。
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