受賞作一覧

<500万円未満部門> 最優秀作品賞
<500万円未満部門> 最優秀作品賞

『削ぎ落とす』
 株式会社錬

<800万円未満部門> 最優秀作品賞
<800万円未満部門> 最優秀作品賞

『メルヘン』
 株式会社しあわせな家

その他各賞

<全体講評>

島原 万丈

選考委員⻑
島原 万丈 / リノベーション住宅推進協議会 プロモーション委員会 委員⻑

 誤解を恐れずに言えば、リノベーション・オブ・ザ・イヤーはプレゼンテーション力を競うコンテストである。金額帯別にウェブにエントリーされた数点の写真とコメントを巡って、SNSでの反響を参考にノミネート作品がスクリーニングされ、最終選考は住宅系メディア関係者によって行われる。少ない情報でいかに読み手にアピールすることが出来るかが、このコンテストの勝負の分かれ目になる。

 建築の専門家ではなくメディア関係者が最終選考をするというのは、実はかなり残酷な審査である。どんなに建築的な水準が高かろうと、メディアの先にいる読者にアピールするものがなければ何の評価も得られない。しかもメディアは常に新しい刺激を求めて止まない。

 今年で第2回目になるリノベーション・オブ・ザ・イヤー2014。まず全体的な印象として、プレゼンテーションレベルの底上げがされたように思う。写真の撮り方やコメントの書き方など、伝えることに腐心したエントリーが増えたことは、当コンテストの趣旨として喜ばしいことである。

 その上で印象深かった点を上げれば、多様化の進展と地方都市の台頭である。
多様化については、800万円以上部門最優秀作品賞を受賞した「カリフォルニアスタイルのフラットハウス」など古い平屋のリノベーション、無差別級部門最優秀作品賞の「築48年のオフィスビルを住宅にコンバージョン」など小規模ビルのコンバージョンが複数提出された。従来マンションの1室の事例が多かったリノベーションが、様々なビルディングタイプに守備範囲を広げていることが伝わってくる。地方都市の台頭は、特別賞も含み全13作品の受賞作品のうち、6作品が東京以外の会員による仕事であることが物語っている。総じて言えば、リノベーションが地理的にも建物タイプ的にも広がりをみせ、またその質がレベルアップしていることを強く印象づけられた。

 そのように昨年にも増して競争の激しかった中で総合グランプリを獲得した株式会社リビタの「HOWS Renovation Lab.」は、構造用合板で仕上げたリノベーションらしい個性的なデザインもさることながら、木造一戸建てのリノベーション市場に今までなかったまったく新しい方法論を切り拓いた作品として選考委員全員から高い評価を集めた。特に注目に値するのはその売り方である。腐食部位もあらわになった内装解体後の建物で行われたセミナーやDIYワークショップ体験などでユーザーの知識と技術を啓蒙し住まい手の住みこなし力を育てる試みは、住まいの提供者とユーザーとの関係すらもリノベーションしたと言えるだろう。

<選考委員講評> ※五十⾳順・敬称略

安達 功

安達 功
日経BP社 建設局プロデューサー

 実績ある会社が順当に受賞する一方で、バリエーションに富んだ新しい顔ぶれが頭角を現す2014年となった。総合グランプリの「HOWS Renovation Lab.」は、選考委員全員の総得点も1位。リノベーションの出来栄えに加え、内装解体から改修工事完了までのプロセスにおいて様々な現地イベントを企画。建物の劣化部位などを見ながら行う解体後建物見学会やDIYワークショップ体験付竣工見学会など、住まいづくりを検討するエンドユーザー向けの発信を積極的に行った取り組みが、幅広く評価された。

 部門グランプリの「メルヘン」「カリフォルニアスタイルのフラットハウス」は新鮮な顔ぶれによる斬新な提案といえる。築44年の団地を再生した「メルヘン」は、古い団地特有の細かく区切られた構造の中で、取ることのできない壁や梁に意味を持たせて空間に溶け込ませた。用途を決めずにゆるやかにゾーニングされた空間を自由に使い、子どもたちが動き回る暮らしを大人が眺めて過ごす。そのような想像を膨らませられる住まいとなった。「カリフォルニアスタイルのフラットハウス」は、中古住宅を購入した施主とともに、熊本で築35年の木造平屋を生まれ変わらせたもの。コンセプトはタイトルそのままに「カリフォルニアにあるようなフラットハウス」。和室同士をつなげ、天井も構造を表し、開放感を高めた。木製建具の色使いやドアノブなどの小物もこだわって選んでいる。この2つの事例はリノベーションならではの「カスタマイズ」の面白さと価値を楽しげに伝えてくると同時に、「木造平屋」「団地」という社会課題に積極的に取り組む姿勢を併せ持つ点が高く評価された。

 リノベーション・オブ・ザ・イヤーは、インターネット上に掲載された写真、タイトル、説明文のみから意外性や汎用性、社会性などを評価するコンテストである。物件の出来栄えに加えインターネット上のマーケティング手法を評価し、互いに学ぶという側面もある。その点では、フォトジェニック賞を受賞した「家族と共に成長する家」のビジュアルプレゼンテーション力、物語賞を受賞した「わの家 千峰」の語りかけてくるようなストーリーテリング力には大いに学ぶべき点があるだろう。

池本 洋⼀

池本 洋⼀
株式会社リクルート住まいカンパニー SUUMO 編集⻑

 今年のオブザイヤーのレベルは高かった。提案・デザイン・ストーリーともに揃っていても「去年もあったよね」で決勝審査に進めない。本コンテストは「イノベーション」という語義を含んだ「リノベーション」に対する世の中からの期待値を宿命的に背負っている。選考委員は昨年同様「メディアの人」。自分のメディアで載せたいかが判断基準。具体的には新規性・意外性・社会性が軸だ。私は特に今年は「リノベやりたい!」と市場に感じてもらうための「喚起力」を重視した。

 500万以下部門の作品賞「削ぎ落とす」。去年の低予算帯は「余白を残す」ことでコストイノベーションを実現したが、本件はこれ480万でできるならアリと市場を広げるインパクトがあった。IPC(インパクトパーコスト)はNO1だ。

 800万以下部門の作品賞「メルヘン」。従来のリノベのデザインとは異なるアプローチだが団地特有の区切られた構造を「色・素材・縦空間」でうまく活用しきり、小屋・船・砂浜・虹をモチーフに子供最適なデザインに統一。この家が発信基地となりプレファミリーを団地に呼ぶという団地高齢化への解決手法となっている。

 さて、最後に来年期待したいこと。ICTの活用、超多忙な共働き、住と働の融合、二世帯の進化形、介護、相続など時代から求められる暮らしの進化に対する提案だ。社会課題王国ニッポン、この国の未来をリノベーション分野からのチャレンジで変えていって欲しい。

石川 歩

石川 歩
株式会社ネクスト HOME'S編集部「リノベ暮らしな人々」担当

 百花繚乱の様相を呈した今年のコンテスト。もともと住まいへの意識の高いユーザー層がさらに先を求め、それに応えた作品がリノベーションの幅広さ・楽しさ・解決性を牽引している印象を持った。

一方で今後取り組むべき新築思考ユーザー層へのアプローチには、品質確保と情報開示の安心感は必須。そこでR1優秀賞は、請負でR1を取得している物件とした。
 「超クールダイニング」は、思い切ったダイニング一点集中の設計で施主の明確な要望に応えたことがわかる好例。既存をいかしながらR1を取得していることが評価のポイント。「crop」は、施主のセンスの良さがいかされる設計が魅力。“ザ自由設計”とでもいうべきお手本のようなリノベーションと、住み手の満足度の高さが伝わってくる写真が高評価。

 再販リノベーション賞「アクティブシングルのここちいい住み家」は、シングル向けが目立った今年らしい物件。月3万円台の価格設定と、いわゆる“リノベっぽい”空間の合わせ技は、将来の資産性も考える若い世代へリノベーションの門戸を広げる可能性を感じる。リノヴェックスならではの知見で、トレンドをしっかり掴んだ設計もさすが。この住まいを再販でつくり上げた手腕が受賞理由。

 今後のターゲットを広げたアピールには、文章力・写真力の他にリノベーションならではのストーリー性でユーザーの共感を得る必要があるだろう。来年は、今以上にソーシャルやパブリシティを駆使したPR力を審査項目として加えても良いかもしれない。 最後に、今回受賞を逃した作品にも優れた作品が多かったことを追記しておく。

君島 喜美子

君島 喜美子
扶桑社「リライフプラス」編集者

「ビル、平屋、団地…。リノベーションするハコにも変化が」

 今回の審査では、マンションだけでなくビル、平屋、団地、変わったところでは塾など、リノベーションするハコもバリエーションが豊富になってきていると感じた。ビル、平屋、団地はいずれも『リライフプラス』で特集を組んだことのあるテーマでもあり、今後も引き続き取り組んできたいと考えている。

 ビルはビルでも「小ビル」であれば住宅として使ってもいいし、1階を店舗やオフィスとして賃貸に出すこともできる。二世帯という手もある。鉄やモルタル、古材などを使ったインダストリアルなテイストのインテリアが近年人気を集めているが、そういったインテリアを好む人にとっても、魅力的なストックと言えるのではないだろうか。

 平屋は、『FLAT HOUSE LIFE』という冊子が人気を集めるなど、米軍ハウスが今でも根強い人気を持つことなどからもわかるように、できることなら平屋がいい、と感じている人は多い。マンションもフラットといえばフラットだが、庭やガレージというオプションがついてくることや、「おうち」感のあるビジュアルに魅力を感じるのではないだろうか。

 団地についても、団地関連の書籍がリリースされたり、団地物件に特化したサイトがオープンするなど、近年注目を集めており『リライフプラス』では過去に4回特集を組んでいる。物件価格の手頃さだけでなく、敷地の広さや緑の豊かさといった環境面でも大きなメリットがあり、今後ますます注目されていくのではないかと感じている。

 リノベーションの内容について印象に残ったのは、オープン棚と回遊できる間取り。オープン棚は可動式であることが多く、高さが自由に変えられるという点や、飾りながら収納できる、という点がウケているのではないだろうか。
間取りついては、大きく分けるとLDKを中心とした表動線、キッチンやサニタリー、寝室を中心とした裏動線、2つの動線を設けるケースと、個室をつくらずワンルームにしてしまうケース、の2パターンがある。

 オープン棚と回遊できる間取りは、『リライフプラス』の取材先でもよく目にするが、見た目の華やかさだけでなく、暮らしやすさやフレキシビリティを大事に考えるユーザー、そして事業者が増えつつあるからではないかと考えている。

坂本 ⼆郎

坂本 ⼆郎
第⼀プログレス「LiVES」編集⻑

 マンションのリノベーションが広く普及したためか、現在は素材感や仕上げを競う傾向が強くなってきている。編集作業をしていても、こうした読者がお手本にしたがるインテリア性の高い物件ばかりを選んでしまうのだが、たまにふと、「良いリノベーションとは優れた内装だったか? 違うよな?」と自問自答してしまうことがある。

 二回目となる今回のコンテストは前回に比べ、戸建てやビル、シェアスペースなどの物件も増えて、前回よりも作品に幅が出た。特にいくつか出品されていた平屋の作品などは、今、若い消費者にこういった身の丈サイズの住まい、暮らし方を求めている層が必ずいるのに、メーカーの規格や発想からは絶対に生まれないであろうというギャップを感じさせてくれて興味深かった。新築の米軍ハウスがあるように、こうした平屋もリノベーションをきかっけにして、規格住宅として商品化されるかもしれない。

 リノベーションという手法でしか生まれ得ない住まいや世界観。リノベーションの醍醐味ってこういうことだったね、と改めて感じさせてくれる選考だった。

徳島 久輝

徳島 久輝
iemo株式会社 「iemo」編集長

 リノベーションされた家は、まるで宝箱のようだ。住み手が描いていたであろう、未来への夢や希望といった「ストーリー」がギュッと詰まっている。だから見ているだけで幸せな気持ちになれるし、刺激的でもある。

 今回、審査をしていて特に印象に残ったのは、500万円未満部門の最優秀賞となった「削ぎ落とす」。ブリックタイルで囲われたキッチンや、大きく取られたカウンター。ビジュアルを見ただけで、住み手の人となりが、お会いしたこともないのに見えてくるから不思議。紹介コメントにある「人が集いすぎて、近隣には店舗と認識されていた」というエピソードも秀逸だった。料理好きの人がこの作品を見たら、きっと自身の夢を膨らませることができるだろう。

 ちなみに本アワードは、事業者がWebに掲載した画像や文章をもとに審査をしている。それは未来の施主が、事業者を選ぶ時と同じ条件。よって事業者には、良い作品を作るだけではなく、どう伝えるか、の力が問われている。ソーシャルメディア全盛の時代には、この「発信力」がますます重要になってくるだろう。そして人々がシェアしたくなるような「ストーリー」のある作品が、今後さらに出てくることを期待している。

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