受賞作品一覧AWARDED WORKS

gold

総合グランプリ

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リモートワーカーの未来形。
木立の中で働く。住まう。

株式会社フレッシュハウス
silver

500万円未満部門 最優秀賞

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サスティナブルにスマートハウス

株式会社シンプルハウス

1000万円未満部門 最優秀賞

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日曜漁師

株式会社オレンジハウス

1000万円以上部門 最優秀賞

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「Old & New 古くて新しい・古民家のカタチ」

株式会社ラーバン

無差別級部門 最優秀賞

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SWEET AS_スポーツを中心に
地域コミュニティが生まれる場所

リノベる株式会社
bronze

コンパクトプラン二ング賞

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団地育ちの原風景

株式会社grooveagent

ユーザービリティリノベーション賞

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この先もつづく日常に根ざした家

株式会社grooveagent

ニューノーマルワークスタイルデザイン賞

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「働く場所から、自由になろう。」

株式会社LIFULL

地方創生リノベーション賞

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旧藩医邸を癒しの温泉宿に再生
城下町アルベルゴディフーゾへの挑戦

paak design株式会社

古民家再生リノベーション賞

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「おばあちゃんの家みたい!」が一番の褒め言葉

G-FLAT株式会社

ニューノーマルライフスタイルデザイン賞

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山と渓谷、エクストリーム賃貸暮らし。

株式会社ブルースタジオ

こだわり空間リノベーション賞

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GOOD TIME is 【他には無いもの】.

株式会社ニューユニークス

エスセティック空間リノベーション賞

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心を掴むストック 都住創を継ぐ

株式会社アートアンドクラフト

借景空間リノベーション賞

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熊本城をのぞむ望楼の住まい。
清正に倣う、永く愛される建築の教え。

株式会社ヤマダホームズ

公共空間リノベーション賞

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予約殺到のトレーラーホテル。
PFIによるビーチリノベーション。

9株式会社

マーケティングリノベーション賞

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完成度90%で販売する「未完成住宅」

9株式会社

シェアリングリノベーション賞

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賃貸(RENT)の常識をひっくり返す!
TNER(エコラ+リビタ)

株式会社エコラ

次世代再販リノベーション賞

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THE NEW STANDARD

株式会社リアル

先進的省エネビルリノベーション賞

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未来への贈り物〜地中熱ヒートポンプにより
生まれ変わるZEB社屋〜

棟晶株式会社

選考委員会

審査委員長 島原 万丈 株式会社LIFULL
LIFULL HOME’S総研所長

コロナ禍のなかで開催されたリノベーション・オブ・ザ・イヤー2020年。緊急事態宣言の期間を挟んで3月〜5月にかけてはリノベーション工事も大きな制限を受けたため盛り上がりが心配されたが、蓋を開けてみればエントリー作品数268と昨年とほぼ同程度の規模をキープすることが出来た。

リノベーション・オブ・ザ・イヤーの最終審査において、審査員は大きく2つのコンテクストで各作品を読み解く作業をしている(審査基準として明確に規定しているわけではないものの、審査会での議論から推察できる)。言うまでもないが、リノベーションの創造性や自由度、個性、美観など、リノベーションの魅力を広く伝える力は、出発点にしてアワードの大前提にある。

1つ目のコンテクストは時代である。毎年のアワードであるオブ・ザ・イヤーには、時代を象徴するような話題性が求められる。その時々の人々の住まいに対する関心や住宅・不動産市場の動向はもちろん、社会の問題意識やライフスタイルのトレンドなど今の時代感覚を背景にして、各作品が何を提案しているのかを考える。
この点、2020年の日本の社会はコロナ一色だったと言っても過言ではない。2019年にはまったく想像もできなかった日常を私たちは経験している。未知のウィルス感染症の不安に右往左往しながらも、新しい暮らし方・住まいのあり方が現在進行形で模索されている。

もう1つ重要なコンテクストは、過去のオブ・ザ・イヤー作品からの流れだ。もちろんそれは時代のコンテクスト反映しながら積み重ねられたものではあるものの、もっぱらリノベーション作品としての進化に関心が集まる。過去の受賞作品をどのように乗り越え、未来にどんな光を照らしているかがポイントになる。この視点で歴代のオブ・ザ・イヤー作品を振り返ると、そう長くはない歴史の中にも明確な潮流を読み取ることができる。2015年の総合グランプリ「ホシノタニ団地」をきっかけに、空き家問題や地域再生に代表される社会課題の解決を提案する作品が脚光を浴びるようになっていた。そしてその流れの中で大地震や洪水など大規模な自然災害を経験し、耐震性能や断熱・気密性能の向上を図る性能向上リノベーションが大きく飛躍したのが昨年のオブ・ザ・イヤーだった。

そういうわけで、性能向上とコロナ禍という2つのコンテクストが交差した2020年のリノベーション・オブ・ザ・イヤー。総合グランプリに輝いたのは、「リモートワーカーの未来形。木立の中で働く。住まう。」(株式会社フレッシュハウス)である。
延床面積が60㎡にも満たない小さな平屋は、別荘地に空き家になったまま長年放置されていた祖母の家である。それを耐震改修と断熱改修を施したうえで職住融合の住まいとして再生し、1人で暮らすリモートワーカーのオーナー。おひとりさま社会、ウィズコロナ時代のニューノーマル、親の家・祖父母の家の空き家問題、性能向上など、この作品が語りかけるキーワードは実に豊富で今日的である。静かな森の中に建つ外観も可愛らしいこの小さな建物は、まさに2020年を象徴するリノベーション作品だった。床の高低差でシンプルな間取りにメリハリをつけながら、窓の外の木立を視覚的に室内と一体化させたプランニングも秀逸である。株式会社フレッシュハウスは、初めての受賞が総合グランプリ獲得という快挙だ。

改修費500万円未満部門は、建設費が高騰する昨今ではローコストの仕事ではあるものの、逆に事業者にとってはもっとも難易度の高い仕事かもしれない。限られた予算でいかに魅力的な空間を作るか。悩ましいジレンマの中で、何よりも創造的なアイデアが試されるのがこの部門である。
全体の工事コストを抑える方法として、リノベーションのプランナーはいくつかの引き出しを持っている。代表的なのは既存残し。使える既存設備はそのまま使うというやり方で、特に築年数が新しかったり、従前に更新されて時間が立っていない場合は有効である。他にはリノベーション範囲を限定すること。施工面積が小さければそれだけ工事費は安く上がる。一点豪華主義もこの方法の1つであるが、2019年の最優秀部門賞「我が家の遊び場、地下に根ざす」(株式会社ブルースタジオ)のように絶妙の一点を見つけなければ、単なる部分リフォームに終わり家全体のリニューアル感は小さくなる。時にはできるだけ作り込まないやり方も採用される。2018年の部門最優秀賞「groundwork」(株式会社水雅)が好例だが、造作や仕上げを割り切って下地づくりに専念する方法である。ただしこれは住みながら家具やDIYで空間を仕上げていく前提になるので、住まい手には家を育てていくリテラシーが要求され、その余白を上手くデザインしておかないとただ単に中途半端な空間となってしまう。とにかく安い建材部材を選んで表層部分だけ全体にうっすら手を入れる方法は不動産市場では一般的だが、空間全体が安っぽくなるうえに老朽化したライフラインを覆い隠すことになりかねないので、リノベーションプランとしては悪手である。

最優秀作品を獲得した「サスティナブルにスマートハウス」(株式会社シンプルハウス)は、それらとはまた違う新しいアプローチを編み出した作品だ。
既存の建材や建具を慎重に選別しリサイクルすることでコストダウンを達成し、それと同時に無駄な解体と廃棄物を減らす。さらに新しい施工箇所には間伐材や地産地消の素材を採用する。これら一連の理にかなった工夫によって、コストダウンを単なるコストダウンに留めるのではなく、サスティナブルというコンセプトにまで昇華させたのである。低予算のハンディキャップを可能性(サスティナブル)へ転換させたコンセプトにおいて、壁紙を剥がしただけの内装仕上げが意味を持ち、この作品の価値観として説得力を与えている。株式会社シンプルハウスは、2015年と2017年に続き3度目の500万円未満部門最優秀賞の受賞になる。さすが低コストリノベーションの名手である。

1000万円未満部門の最優秀作品に輝いたのは「日曜漁師」(株式会社オレンジハウス)だ。この作品はまずネーミングに惹かれた。日曜大工ならぬ日曜漁師とはなんだろう。
エントリーテキストを読むと、なんとこちらのご主人、休日はプロの漁師だという。働き方改革の一環として国も副業・兼業を広めようとしているが、言われてみれば兼業農家や兼業漁師というのは古くからある働き方だ。市場で売れない魚を家族で食べるというのも、漁師の家では当たり前の暮らし方だった。にもかかわらず、この作品から想像されるご家族のライフスタイルには、不思議なことに現代的な新しさを感じる。裏庭の緑と明るい陽光をダイニングキッチンの奥まで届ける勝手口からご主人が持ち込むものは、きっと魚だけではない。日曜漁師が魚を持ち帰るとすぐに家族が集まり、料理をして食卓を囲む。あの勝手口は、家族の幸せな時間を運び込む入り口なのだ。だから魚は少々売れ残らなければならない。昔からある兼業漁師や最近よくある副業・兼業とも異なるイメージの、生活ファーストの穏やかなワークスタイルを、自然体なリノベーション空間が演出している。

住宅リノベーションの最激戦区1000万円以上部門では「Old & New 古くて新しい・古民家のカタチ」(株式会社ラーバン)が最優秀賞を勝ち取った。
古民家再生はリノベーションでは定番のジャンルであるものの、本作品はよくある古民家再生のフォーマットを安易に採用することを拒否している。まず目を奪われるのは真っ白い壁で囲まれた広いデッキスペースだ。建築家住宅のホワイトキューブのようでもあり、とても築150年の古民家の縁側とは思えない現代的な印象を与える。にもかかわらず、外に出てファサードに正対すると、裏山の緑を背景とする石州瓦屋根や土台の石垣の面積に比べて薄い断面のためか、古民家の佇まいを台無しにするようなことにはなっていない。室内空間は劇的アフター的に変えてしまうでもなく、宿泊施設のように古さをデフォルメするでもなく、古い家が普通に丁寧に使用されて来たかのような日常感でまとめられている。古民家の弱点である省エネ性能については、ゾーンを決めてZEH基準に迫るUA値0.68W/㎡Kの断熱性能を確保し、パッシブデザインで冷暖房負荷の削減を達成する。この作品はデザインと性能の両面で古さと新しさを両立させた、新しいタイプの古民家リノベーションと言ってよいだろう。株式会社ラーバンは初エントリーで最優秀部門賞獲得という快挙だが、相当の手練れであることを証明した。

毎年多種多様な作品が並び、審査員の頭を悩ませる無差別級では、その雑多な振れ幅の中にリノベーションのフロンティアを見出すことが出来る興味深い部門である。今年は「SWEET AS_スポーツを中心に地域コミュニティが生まれる場所」(リノベる株式会社)が部門最優秀賞に選ばれた。大雑把に分類するなら、いわゆる地方創生系、地域再生のまちづくり案件に属する仕事である。
これまでこの手のリノベーションでは、歴史的な価値や趣のある建物やまち並み、または風光明媚な景観など地域の空間資源に立脚するプロジェクトが多かったと思う。しかし画像からも分かるように、本作品にはそのような分かりやすい資源はない。地方都市の中心市街地から外れた工業立地で、元の建物は意匠性などの概念は微塵もない鉄骨スレート造の巨大な鉄工所である。いわば飛車角落ちのような本作品が着眼したのは、地元に根付いたラグビーを中心としたスポーツのコミュニティである。それを手がかりに多目的スポーツコートをつくることで、なんの価値もないと思われた巨大ながらんどうがむしろ貴重な空間資源として蘇る。いまは使い途のないクレーンやいかにも工場然とした配管が意匠として輝き出す。併設された飲食フロアは都会的な雰囲気で、地元の若者の気持ちをあげてくれることは想像に難くない。SNSによる投票で全エントリー作品中最多の2580いいね!を叩き出したのは、この場所の誕生を喜んでいる地元の人達の応援だったと聞く。多くの地方都市の多くのエリアに勇気を与えるリノベーションである。

惜しくも部門賞には届かなかったものの、コロナ禍文脈での審査員特別賞として、「山と渓谷、エクストリーム賃貸暮らし。」(株式会社ブルースタジオ)と「働く場所から、自由になろう。」(株式会社LIFULL)の2作品をニューノーマル賞として選んだ。いずれもウィズコロナ時代へのリノベーションからの提案である。
前者は郊外の賃貸住宅で、78㎡の広さを1LDKで贅沢に使う。舞台のように広い小上がりが印象的だ。アウトドア好きの住人を想定して、玄関のすぐ先の広々とした土間に道具を洗うためのシンクを配している。後者はLiving Anywhere(どこにでも住める)をコンセプトに、廃校や企業の保養所など全国に散らばる遊休不動産を再生し、多拠点居住&労働の場所とコミュニティをサブスクリプションモデルで提供する。毎日の通勤から解放されることで、住む場所は自由になる。Living Anywhereは究極的な姿で住む場所の自由を実現する。
今後もリモートワークが浸透・定着していけば、住む場所の選択肢は広がり、それぞれの価値観に従って望むライフスタイルを手に入れやすくなることは間違いない。「住む」ことの可能性の広がりの、その先にあるのは多様性のある社会だ。その流れに先鞭をつけるのはリノベーションであることを、これらの作品は主張しているのだ。

性能向上リノベーションの流れは、今年もしっかり引き継がれた。しかも進化して。昨年のオブ・ザ・イヤーでは、性能向上で授賞した作品の多くが社会実験的なプロジェクトであったことを踏まえ、性能向上を合理的な経済性でまとめあげた商品として普及させることが重要だと講評したが、早くもその取組が現実のビジネスに実装されてきた。
代表的なのは、次世代再販リノベーション賞の「THE NEW STANDARD」(株式会社リアル)である。この作品は買取再販型のビジネスモデルにおいて、新築マンション以上の断熱性能をリノベーションのスタンダードにしていくと宣言する。その意気込みを高く評価し普及を応援したい。そしてもう1作品。先進的省エネビルリノベーション賞の「未来への贈り物〜地中熱ヒートポンプにより生まれ変わるZEB社屋〜」(株式会社棟昌)は、古い中規模オフィスビルをゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)にリノベーションするという野心的な取り組みだ。世界最先端の技術を開発し、イニシャル・ランニングとも低コストに抑えることで、普及に必須な経済合理性を実現した点が素晴らしい。性能向上リノベーションが、無差別級部門の作品へ広がるきっかけとなることを期待したい。ただ一点。温室効果ガス削減の国際目標に触れるなら、2012年で失効している京都議定書ではなく、2030年度の温室効果ガスの排出を、2013年度の水準から26%削減を約束したパリ協定を引用してもらいたかった。

さて、コロナ禍と性能向上が2大テーマとなったリノベーション・オブ・ザ・イヤー2020年だが、住宅市場にコロナ禍の影響が本格的に出始めたのは、ステイホームを経た年後半から。言わずもがなコロナ禍は現在進行系だ。住まい手のニーズの本当の変化は来年に向けて本格化してくると思われる。コロナ禍がもたらした、もしくはもたらしつつある社会生活の変化に対して、リノベーションは何を提案できるだろう。
私たちはここで一度冷静になってみることも必要ではないか。確かに2020年は、コロナ禍を抜きにして住まいを語れないほどのインパクトを持っていた。しかし私たちが経験している新しい日常は、実はコロナ前から私たちが望んでいたことも多かったのではないか。デジタル化しかり、リモートワークしかり、多拠点生活しかり。満員電車がたまらなく好きだった人などいないだろう。そうであるなら、この災害を機会と捉えることもできる。否応なく対応を迫られる変化だけではなく、あるいはこれから開かれてくる新しい可能性に着目するべきだ。
また、気候変動の問題、人口減少と少子高齢化、地方の衰退、災害の増加、空き家問題、LGBTQに代表される社会の多様性、格差と分断などなどなどなど。コロナ禍によって覆い隠されてしまってはいるが、そのような社会課題は何一つ解決していないことも忘れてはいけない。
オイルショック直後の1975年に日本で初めてのリフォーム専業事業者が登場した。以来およそ半世紀の間、リノベーションは、バブル崩壊や大震災など日本社会が大きな危機に見舞われる度に存在感を増してきた 。リノベーション協議会が発足したのもリーマンショック直後だ。リノベーションという技術が、既存のものの見方や考え方を疑い、そこに新たな可能性を見出すことを基本姿勢として身につけているからだと思う。世界の誰もが想像しなかった変化が起こっている今だからこそ、またこれまでの社会システムが立ち行かなくなっている今だからこそリノベーションが果たせる役割は大きい。来年のリノベーション・オブ・ザ・イヤーが今から待ち遠しい気持ちである。

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池本 洋一 株式会社リクルート住まいカンパニー
SUUMO 編集長

 最近のリノベーション・オブ・ザ・イヤーは、ハイレベルのデザインは当たり前水準となり、そこに「断熱気密改修、耐震改修などの性能向上」あるいは「地域活性の拠点、域内経済活性化」のような「時流に合わせた話題や課題解決」がどう組み合わさるかがポイントだった。メディア編集長が審査員を務める審査会ならではの特徴だ。
 さて今年の時流はといえば当然「新型コロナウィルスの影響」となる。ところが感染拡大が3月からだったため、それを受けた作品はまだこれからだ。だがメディア側から見るとコロナ禍は外せない。また菅総理の2050年のカーボンニュートラル、ハザードマップの説明義務化なども意識したくなる。
でも結果としてはコロナ禍等を踏まえたものが多く選ばれた。その理由はこのトレンドが突如生まれたものではないからだ。会議や授業のオンライン化、職住融合、デュアラー、省エネ等の快適性能追及、ウェルビーイング、これらはコロナ前からあった潮流だ。コロナ禍で加速されたに過ぎない。コロナ前から企画していたことがコロナ禍でさらのその正当性を得たという解釈なのだ。
結果、築50年の母の別荘を性能向上改修し、仕事場兼住居に変えた作品がグランプリ、また廃棄物を最小化する地球環境を考えた作品、好きなことに没頭する時間が増えたことを踏まえ、それを実直にデザイン表現できている作品を部門賞や特別賞に選んだ。
またコロナ禍で「他人の目は気にせず、自分の幸せを追求する生き方がよい」という考えを持つ人が過半数近くに高まった。それを受けた一つの代表作が特別賞の「熊本城をのぞむ望楼の住まい。清正に倣う、永く愛される建築の教え。」である。熊本城を望む絶好の眺望を前に、愛着ある什器や家具が最高に映えるようにデザイン。「元々使用されていた家具類が素敵なモノばかりで、大切に使われていたもの。これを最大限活かしたい」。元の家の歴史や想いを継承、昇華させる。ある意味でのリノベーションの原点回帰的なものも加味して評価させていただいた。来年はコロナ禍を経て、この変化をどう解釈した物件が出てくるか。今から楽しみだ。

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坂本 二郎 株式会社第一プログレス
LIVES 編集長

今年非常によく耳にしたワードが「おうち時間」。コロナ禍で在宅時間が増えたことにより、あらためて家にいる時間をストレスを溜めずに過ごす生活の〝質〟、そして住空間のあり方を再考させられる年となった。そんな影響か、応募作品も、昨年までのようなコミュニティや街づくりよりも、 暮らしの〝内〟へと向かうテーマが多い印象を受けた。
私が注目したのは1000万円以下部門の「日曜漁師」。もちろん時期から言ってコロナ禍以前に計画されたものだが、魚の調理から食事といった作業を共にすることで、家族間のコミュニケーションが生まれていくストーリーがリノベーション空間の中に見て取れた。最新の設備や調理機器で家事を時短していくのではなく、プロセスや手間そのものを楽しむ。コロナに翻弄された2020年の「家族の時間」のひとつのあり方を提示している点に、好感が持てた。
もうひとつ注目したのは、コーポラティブ住宅のリノベーションである「心を掴むストック 都住創を継ぐ」。コーポラティブハウスのような〝トンがった〟物件ほど再販などにおいては流通させづらいという話を耳にするが、同時にネット、SNSの社会では同じ嗜好をもったファンやマニアにリーチできる可能性も高まっている。既存のもつポテンシャルを引き出し、現代のデザインにアップデートさせたこの作品は、埋もれがちな建築ストック活用の新しい方向性を示してくれている。

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佐々木 大輔 株式会社日経BP
日経アーキテクチュア 編集長

 初めて選考会に参加させていただいたが、ノミネートされた作品の多様さと質の高さに驚かされた。日経アーキテクチュアは建築専門家向けのメディアで、建築を「社会」「経済」の視点から取り上げるのが特徴だ。そうした視点を踏まえ、新奇性、社会への影響度などに着目して審査したが、コロナ後の“ニューノーマル”を先取りした作品が幾つもあった。

 テレワーク普及が与えた変化の1つに住宅の立地選択がある。広い空間を求め、郊外、地方移住に関心を持つ人は少なくない。総合グランプリの「リモートワーカーの未来形。木立の中で働く。住まう。」は、こうした時流を先取りした好例で、2020年の代表作にふさわしいだろう。別荘地に立つ築50年の空き家を改修、耐震性や温熱環境など建物の基本性能を高め、職住融合の空間に再生。立地を含めた建物の質の重要性を示したもので、社会問題化している空き家問題への解答にもなっている。

 一方、1000万円以上部門の最優秀賞「Old & New 古くて新しい・古民家のカタチ」も目を引いた。築150年の古民家リノベーションでファサードを一新。縁側を室内空間と一体化し、地域に開いたデッキを設けた。白い壁と天井に囲まれた印象的な空間が、日常にアクセントを与えている。加えて、既存建物の温熱環境も改善。デザインと性能の両方をバージョンアップさせる部分改修の手法は、地域に眠る古民家の活用モデルになると感じた。

 個人的に強く引かれたのは、特別賞を受賞した「この先もつづく日常に根ざした家」だ。在宅での仕事が多い夫婦の住宅のリノベーションで、2つのワークスペースをプラン上で対角線に配置し、家族間の距離の問題をうまく解いている。主役は本棚。視線が抜ける間仕切りにすることで、つながりを感じさせる仕掛けにした。家族と一緒にいたいときにも、1人になりたいときにも対応できる距離が家の中にあるといい。コロナ禍で増える職住融合の住宅づくりのヒントになるはずだ。

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立石 史博 株式会社扶桑社
住まいの設計 編集長
リライフプラス 編集長
ふるさとニュースマガジンカラふる 編集長

外出自粛やテレワーク、ZOOM飲み会など、1年前には予想もしなかったことが現実となった2020年。多くの人が暮らしを大きく見直すようになりました。家にいる時間が増えたため、もっと快適にしたいと生活用品をととのえたり、模様替えをしたり。そしてメディアでは、テレワークで通勤が減ったから地方移住に関心が高まったとか、反対にこんなときこそ便利な都心への回帰が進んでいるとか、さまざまな情報が報じられました。
これから、われわれの生活がどのように変わるのかさっぱりわかりませんが、住まいや暮らしに対する考え方が多様化するのは必然、と思っています。
今回の応募作品には、そんな多様化の兆しが見られたものが多数ありました。なかでも「山と渓谷、エクストリーム賃貸暮らし。」は、高尾山に近い、山の賃貸住宅ですが、「平日でも自然に触れたい」という、アウトドア派の希望を上手に汲んだ秀作です。テレワークの合間に野山を駆け回ったり、山の移ろいに心を落ち着けたりと、こんな時代だからこそのニーズを先取りできている点にとても引きつけられました。
この状況がいつまで続くのか予想もできませんが、これからも住まいに求められるものは変化し、多様化し続けると思われます。そんな、さまざまニーズにユニークに応じてくれるリノベーションが、もっともっと増えてくれるといいなと、今回の審査会を経て思うようになりました。

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徳島 久輝 ルームクリップ株式会社
RoomClip mag 編集長

「日常」とは、日々そこに、つねに変わらず存在しつづけるものではない。そんなことを感じずにはいられない1年だった。長期間に渡り自宅から出られない過酷な状況の中で、多くの方が「イエナカ(家の中)」を見つめ直した2020年。5月には、私たちの「RoomClip」に前年同月比で2倍ものユーザーが訪れ、暮らしのアイデアを探してくださった。

今回の「リノベーション・オブ・ザイヤー2020」においても、コロナ禍の中でこれからのリノベーションが変わっていく兆しが見られた。一方、プラン自体はコロナ禍以前に作られたものもあるため、個人的に印象に残ったという観点でプロジェクトを3つご紹介したい。

まずはこだわり空間リノベーション賞を受賞した「GOOD TIME is 【他には無いもの】(株式会社ニューユニークス)」。ファッション好きのお二人が、イギリスライクの洋館風にリノベーションした自邸は、お二人の「好き」がギュッと詰まっている。誰もが好きなテイストでは無いかもしれない。でもお二人が気に入ってさえいればそれは世界で一番の家。リノベーションの醍醐味を改めて感じた。

続いては無差別級 部門最優秀賞を受賞した「SWEET AS_スポーツを中心に地域コミュニティが生まれる場所(リノベる株式会社)」。山口県長門市にある築45年の元鉄工所を、多目的スポーツコートを備えた複合施設に生まれ変わらせた。進学就職でこの地を離れる若者にとって、いつか帰って来たくなるコミュニティが作れたら。そんな想いが込められていることに感銘を受けた。

最後はシェアリングリノベーション賞に輝いた「賃貸(RENT)の常識をひっくり返す!TNER(株式会社エコラ+株式会社リビタ)」。仙台に生まれた「TNER」は、賃貸人が借りた区画を、使っていない時間に他の人に貸し出し可能な複合施設。賃貸は、又貸しが禁止されていることがほとんどだが、時間もお金も無駄にしない、新しい仕組みを作り上げた。常識が「リノベーション」されていくことにワクワクする。

「RoomClip」では困難な時期でも、ユーザーが日常の創造性を発揮し、暮らしを楽しもうとする姿が多く見られた。「おうち夏祭り」をはじめとして新しい「おうち◯◯」が誕生した。早く落ち着いた暮らしに戻れるよう願う一方で、困難な中で生まれた新しい住まい方、暮らし方を育てて行けたらと考えている。

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八久保 誠子 株式会社LIFULL
LIFULL HOME'S PRESS 編集長

2020年は本来は「東京オリンピックの年」のはずであった。日本は観光、不動産需要も恩恵を受けるだろうと誰もが信じていたと思う。しかし、コロナが日本だけでなく世界を一変させた。

大きな影響を受けたのが「働き方」である。政府も旗を振るものの、定着が遅かったリモートワークがコロナを機に一気に拡がった。今年のグランプリ「リモートワーカーの未来形。木立の中で働く。住まう。」は、今年を象徴する事例であろう。もはやタイトルのような“未来形”ではなく、一定の住まい方として定着しつつある。今まで自然と暮らす住まい方は、その土地の仕事(農業や小商いなど)を前提とした移住が多かった。

それが、住まいのデザインにも反映されていたが、この例は「仕事は都会のままを、暮らしは自然や好きな土地で豊かに暮らしたい」という考え方がデザインにも反映されたリノベーション例である。どの土地で暮らすかが、オフィスに縛られず自由になりつつある今、地域の魅力を最大限に引き出す取り組みも注目される。「旧藩医邸を癒しの温泉宿に再生。城下町アルベルゴディフーゾへの挑戦」もそのひとつ。宮崎県日南市飫肥は旧城下町の趣を残す街であるが、ここ数年地域に残る築100年超の建物をリノベーションを宿や店にし、地域の新たな資産としつつある。アルベルゴディフーゾはイタリア発の「まちごと宿」の考え方だが、地域に残る伝統ある建物を再生することは、観光だけでなく地域に住まう人からも注目を集めるに違いない。長期的な目線で、回遊・周遊を促し、街の面での魅力発信をする例として今後の発展に期待がもてる。

もう一つは「建物の改修の本質」を問う例。「未来への贈り物~地熱ヒートポンプにより生まれ変わるZEB社屋~」は、北海道の会社が中規模のオフィスビルを自社ビルとしてZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)リノベーションした例である。しかも多くのコストをかけるのではなく地熱利用の仕組みをどの土地でも最小限のスペースで転用できるように考えられている。ZEHという住宅には徐々にその考え方は広がりつつあるが、日本全国にあまたある古い中規模ビルもまた機能性を強化することで生かされるのだ、という指針になるリノベーション例だ。「地球環境」のその前に、この取組みはもっと身近での「私たちと建物の心地よい関係」であってほしいという思いがこもっている。

今回のリノベーションオブザイヤーは、いずれも変化する環境と社会を思わせた。来年は、この進歩のうえにさらに「人々の交流」が彩(いろどり)を添えていくことを期待したい。

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藤島 由希 グリーライフスタイル株式会社
LIMIA編集長

同じ日、同じ年は一度として存在しないことは理屈でわかっているのに、2020年は、「これまでにない経験」と嘆息せざるを得ない年でした。世界中の人々がこれほど長く「我が家」と向き合って過ごす時間は二度と訪れないのではないでしょうか。

リモートワークのトレンドは今に始まったことではないにせよ、結果、押し進められることとなった2020年。象徴するかのような「リモートワーカーの未来形。木立の中で働く。住まう。」がグランプリを受賞し、締めくくられました。家をきっかけに働き方を変えようとする人が増えれば、新しい街が作られ、新しい風景が生まれる。リノベーションの未来が一層明るくなったように感じます。

未来形といえば、特別賞に「完成度90%で販売する『未完成住宅』」を選ばせていただきました。リノベーションを好む人々は、そもそも型にはめられたくないわけであって。だとしたら完成形で販売する必要はあるのか? そこに気づいた9株式会社は「さすが」の一言。残された10%の可能性にワクワクし、ボードにパテを塗った状態を自分自身も「あり」と感じる日が来るとは、思いもよらない楽しい驚きでした。

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ゲスト選考委員

指出 一正 株式会社sotokoto online
代表取締役 ソトコト編集長

 2020年のリノベーション・オブ・ザ・イヤーのエントリー作品はどれも素晴らしいものばかりでしたが、ニューノーマルを示唆するような、ふたつの大きな方向性が見てとれました。ひとつは、現在直面しているコロナ禍の中で、社会の新しいありようをなるべくスムーズに形づくっていこうとする、未来を見据え、みんなで軌道を整えるようなリノベーションです。
 例えば、「サスティナブルなスマートハウス」。こちらは2030年のSDGs達成に向けて、リノベーションができることをていねいに見つめ直して、価格面でも背伸びをせず、「自分ごと」として等身大に、おしゃれに地球に貢献していく見事な提案でした。また、「働く場所から自由になろう」も、テレワーク、ワーケーション、地域との関わりや関係人口といった、いまの社会が求めている働き方の気分を体系化・仕組み化しようとしている点で、非常に素直であり、注目すべきプロジェクトの好例だと感じました。
 そしてもうひとつは、言うなれば「be」のリノベーション。「私らしくありたい」という満たされた気分としてのウェルビーイングをリノベーションの手法によって表現している例です。「「おばあちゃんの家みたい!」が、一番の褒め言葉」は、古民家の幸せでかっこいいアップサイクルがなされて、個人や家族であることの大切さと溌剌さをあらためて考えさせてくれるものでした。「そこにあること、そこにいること」の純粋な豊かさをとらえた設計は、その気持ちがほかの人たちにも伝播していきそうです。
 おそらく、このふたつの傾向が教えてくれるのは、リノベーションによって、「個人も社会もどちらも取り残さない、あらためてご機嫌な世の中がつくれるんだよ!」というメッセージなのだろうと感じ入っています。ソーシャルディスタンスではなく、ソーシャルグッド・ディスタンスという言葉そのものかもしれません。

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西山 千香子 株式会社宝島社
第2雑誌局局長
兼 リンネル・大人のおしゃれ手帖 編集長

「リノベーションオブザイヤー」に参加させていただくのは2017年以来3年振り。この3年間で日本は多くの自然災害に見舞われ、私たちは建物の有難さを知るとともに、そのもろさも痛感しました。また、2020年はコロナ禍で「家」という存在に誰しもが向き合わざるを得ないという特殊な年となり、女性誌の家特集も、インテリアデザイン重視の内容から、性能面・機能面に踏み込むものに変わってきているように思います。
そのような時代の中、ライフスタイル誌に携わる「生活者」の視点から、特に①性能面で叶える「安心」、②家族や利用者が満ち足りたときを過ごす「喜び」、③その空間をどう育んでいくのかという「未来性」、の3つのポイントを、限られた予算の中で貪欲に積極的に詰め込んだ作品を選ばせていただきました。

『団地育ちの原風景』は、家族がこの住まいで楽しんで暮らしていくための工夫の余地を、あえて残した仕上がりにしているという点が素敵だと思いました。物件価格は安価に抑えてリノベーションにしっかりと予算をかけ、R1も取得し、安心感と自分たちらしさを叶えるという、施主の考えをしっかりと受け止めた作品だと思います。

「Old & New 古くて新しい・古民家のカタチ」は、地域環境ともマッチした新しいデザイン、地域の人の拠り所となる広いスペース、古民家の課題である断熱性の実現など、これからの古民家リノベーションの理想形となるのではないかと思いました。

「この先もつづく日常に根ざした家」は、施主と施工側の深いコミュニケーションと相互理解が作り上げたリノベーションだと感じました。本棚を壁として使うアイデアや、お互いの気配を感じながらも集中できるワークスペースの配置など、施主のライフスタイルを大切に思いやることで生まれた提案が盛り込まれていて、自分もこんな業者さんとリノベーションしたい、と思わせてくる物件でした。

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