AWARDED WORKS


受賞作品一覧

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  • 総合グランプリ
  • 黒川紀章への手紙(タムタムデザイン+ひまわり)

  • 株式会社タムタムデザイン

講評コメント

  • shimabara
    • 選考委員長
    • 島原 万丈
    • LIFULL HOME'S 総研所長
      (株式会社LIFULL)
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    • 2018年で6回目を数えるリノベーション・オブ・ザ・イヤーは、エントリー企業数79社、エントリー作品数246と、いずれも過去最大の規模での開催となった。また作品の質およびプレゼンテーション力はレベルアップがめざましく、本アワードで受賞することはもちろん、最終選考へのノミネートされることだけでも、相当にハードルが高くなっている。

      そのことを象徴するかのように、今年の500万円未満クラスは豊作だった。施工費の高騰するなか、この予算でここまで仕上がるのか、と感心させられる作品が多かった印象である。
      最優秀作品賞に輝いたのは、「groundwork」。株式会社水雅は、初エントリーでいきなり部門最優秀賞受賞という快挙だ。500万円未満という低予算ながら、「groundwork」がここまでクオリティの高い空間を可能にしたは、「下地作り」というコンセプトだ。給排水管などの隠蔽されるインフラ部分をきちんと改修し、表層はDIYや追加工事で住みながら育てていく余白として割り切る。
      余白という言葉は、時としてデザインの不徹底を隠すために都合よく使われることもあるが、本作品の余白はきちんとデザインされている。足場板の床とヴィンテージタイルやこだわりをもって選ばれた設備は、施主のライフスタイルや趣味性を表現した空間のテイストをつくりだし、現しのまま残された壁とがらんとした空間は、住まい手にアクションを促しているようだ。自分が暮らしながら、あれこれ手を入れていくことを考えているのが楽しくなりそうな住まいである。

      1000万円未満クラスの最優秀作品に選ばれた「『MANISH』新しさを壊す」は、新築の建売戸建てを買ってリノベーションした作品である。この作品をどう解釈するかについては、審査会でも議論があった。一般的なリノベーションの意義は既存ストックの再生である。その点にこだわるならば、部門最優秀賞はありえない。一方で、リノベーションを理想の住まいづくりの手段であると広く解釈すれば、まったく違う見え方がする。
      価格が高騰している昨今の新築マンションに比べて相対的に割安な価格で、にわかに人気が出ている建売住宅。しかし、ローコストを売りにする建売住宅のプランは画一的だし、デザイン的にも見るべきものは少ない。だが、そこにプラス660万円することで、オリジナルな間取りプランとデザイン性と性能向上を実現できるのであれば、賢く妥当な提案とも言える。実際にここ数年、リフォーム済み再販マンションを買って部分的なリノベーションを施すユーザーが増加していたことは事実であり、過去にそれで特別賞を授賞した作品もあった。喧々諤々の議論の結果、これは時代のニーズを捉えた新しいジャンルになり得るのではないか、と授賞を決めた。また、このような作品が、ひいては画一的な分譲住宅のあり方にも進化を促す効果も期待したい。

      リノベーション市場の主戦場であり、最もエントリー数が多い激戦区の1000万円以上クラスを制した「家具美術館な家」は、住まいづくりの新しい潮流を予感させる作品だ。
      「美術館」のネーミングの通り、施主がコレクションしたデンマーク家具や照明の名作を見せることに特化した空間である。白基調に仕上げた床壁天井は、主役である家具を引き立てる背景に徹している。建築家のポートフォリオや建築雑誌を眺めるとわかるように、住宅デザインの現場では、建築が主役でありインテリアは脇役というヒエラルキーが相場だ。この作品は、その主従関係を逆転させたのだ。
      デザイン評論家の柏木博は、「室内を意味するインテリアには、さらに『内面的な』『精神的な』あるいは『心の中の』といった意味がある。ものが集積されたインテリアは、そこに生活する人間の内面、主体を投影しているのである」とインテリアの本質を語る。その意味で、「家具や什器が住宅を住まいとして成り立たせている」のである。そう考えるとこの作品は、住まいづくりとして本来まっとうなアプローチであり、リノベーションの仕事を通じてインテリアの地位を向上させる流れを作り出す契機になるかもしれない。簡潔にして豊かさを感じるネーミングや、美しく切り取られた写真にも、施主の美意識が表れているように思う。

      建物タイプも用途も規模もあらゆる点で多様な作品群が、なんでもありと雑多に並べられる無差別級の審査は、毎年審査員の頭を悩ませる。しかし、その混沌から、拡張を続けているリノベーションのフロンティアが透けて見えるから、無差別級は面白い。
      そんな無差別級で最優秀作品を受賞した「喫茶ランドリー」の特筆すべき点は、空間の用途が定義出来ないところにある。
      あまねく建築空間には用途というものがある。この作品についてあえて言うなら、コインランドリーとカフェの複合施設ということになるが、しかしそれではこの場所で起こっていることをまったく説明できない。「ここで何しようって考えるとワクワクして眠れない!」というコピーに凝縮されている通り、ここでは何でもありだ。普通ならプランニングの出発点となるターゲティングも、一切なしだと豪語する。老若男女・地域住民が誰でも自由に使える場所。公園か? 否。禁止だらけの公園よりもよほど自由な場所のように見える。「すべての人々の居場所」というエントリーのテキスト以上の言葉が見つからない。まさにリノベーションのフロンティアを体現した作品である。
      また、ビフォー・アフターの写真から伝わるように、この場所ができたことによるストリートの変化も劇的だ。たった1人の想いが実体化した、たった1つの小さな建物が持つ可能性。その大きさに驚くばかりである。

      今年の総合グランプリ選出の議論は長引いた。全体的にエントリー作品の質が例年以上に高かった反面、満場一致で決まるような突出した作品はなく、どれも甲乙つけがたい。
      各審査委員にも悩ましい議論が続く中、「家具美術館の家」や「喫茶ランドリー」等と競い、最終的に2018年の総合グランプリを勝ち取ったのは「黒川紀章への手紙」だった。1000万円未満クラスから初のグランプリ選出である。
      この作品の見どころは、なんと言っても、日本を代表する建築家の1人黒川紀章が設計したマンションをリノベーションすることになった、若い建築家の挑戦の物語だと思う。築20年を経てなお色褪せない外観に比べて、驚くほど凡庸な既存の住戸デザインは、言わば黒川紀章がやり残した仕事。これをどう料理するのか。しかも住み手も未定で、予算も限られた再販物件として。素人目にも超のつく難題であることは理解できる。
      これに対してタムタムデザインの田村氏は、建築家としての自らの心の中にしか存在しない巨匠との対話を一人繰り返し、眺望への一点突破というコンセプトを導く。そして、絶景に向かって縦に空間を仕切り、腰壁上部はすべてガラスにすることで、部屋のあらゆる場所から絶景に誘うように緻密に視界をデザインした。そうして出来上がった空間は、万人受けを狙うことを求められがちな再販物件にもかかわらず、質の高い一点モノの個性を放ち、なおかつ、このマンションならではの説得力がある。
      たとえ世界的に著名な巨匠の作品であっても、築20、30年で躊躇なく取り壊してしまうのがこの国の建築事情である。そのような馬鹿げた損失を防ぐためには、その建物が人々に愛され、良好な状態で使われ続けなければならない。それが集合住宅なら、良き住人を集める魅力を保ち続けなければならない。区分所有のリノベーションは、そのための小さな一歩でもある。この作品は小さなリノベーションの大きな意義を思い出させてくれた。
      ちなみに、タムタムデザインは、2016年の「アーケードハウス」に続いて2度目の総合グランプリ獲得という快挙。今年は、ノミネートされたすべてのカテゴリーで受賞を争い、本作以外にも2作品が特別賞受賞と大暴れ。審査員の1人が思わず「タムタム無双」とつぶやくほどだった。

      リノベーション・オブ・ザ・イヤーから新しいスターが生まれる。2016年のグランプリ受賞で一躍その名を轟かせたタムタムデザインは、その代表格である。今年は、株式会社水雅と株式会社グルーブエージェントの2社は、初めての部門最優秀賞を獲得。特別賞にも6社の初受賞の事業者がうまれた。オブ・ザ・イヤー受賞者として、今後のさらなる躍進が期待される。
      このように毎年次々に新しいプレイヤーが台頭するということは、質の高いリノベーションが日本中に広がりつつある、という証でもある。これからリノベーションはますます面白くなっていく。そんな手応えを確かに感じた2018年のリノベーション・オブ・ザ・イヤーだった。
  • ikemoto
    • 選考委員
    • 池本 洋一
    • SUUMO 編集長
      (株式会社リクルート住まいカンパニー)
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    • 今回私が審査を通じて感じたキーワードは2つだ。
      1つは「リノベーションは明日の活力、未来への希望を生める存在」であること。古かろうが、安かろうが、狭かろうが、上手に仕立て直したリノベーションによって、入居する方に明日への活力や希望や元気をもたらしてくれる。
      それを象徴する作品がコストパフォーマンスデザイン賞の「リビ充団地(タムタムデザイン+不動産プラザ+不動産中央情報センター)」だ。
      これは築45年の築古団地の空き家を解決するために市公社が公募で出したもの。団地の改修はコストミニマム、効果マックスが求められる。ターゲットとしたのは生活が決して楽ではない母子・父子家庭という2人家族だ。広い玄関土間、広いリビング、リビング内ワークスペース。そんなに裕福でない家庭の方にも現代の生活ニーズをすべて体感してもらえる秀逸な間取りだ。そしてこちら従前の間取りからの壁面移動はミニマムとしコストを抑えている。壁面に色を使い、床材も色味変化の大きい無垢材を活用、さらに木質のオーダー家具も設置することで「建築家」っぽいオシャレ感を演出しているあたりも憎い(まぁ実際に建築家がプランしているわけだが…)。この作品を見て私はドイツの団地を思い出した。ドイツには断熱も含めて大型改修した団地には低所得者向けの住戸も多数あったが、みすぼらしさは微塵もなく空間デザインはこの作品のように秀逸であった。なお本作品は「リビ充」という私どもが発表したトレンドワードを活用し、室内の壁面やインテリア調度品に「緑」がふんだんに使われている。審査会ではこれSUUMO狙いでは?などという発言も飛び交ったが、忖度はないことを付記しておく(笑)
      2つめは「買取再販リノベとオーダーメイドリノベの差が埋まってきた」それに伴う「マーケティングの洗練」である。
      マンションの買取再販市場は、かつてない賑わいを見せている。この熾烈極める買取再販市場の中で、SNSによる先進的なプローモーション活動の磨きこみは重要だ。
      その代表作品はベストマーケティング賞「WEAR I LIVE ( Ungrid × cowcamo × Hoosiers )」である。インフルエンサーによる集客活動としてモデル兼クリエイティブディレクターである高園あずささんや全国のUngrid販売店員によるインスタグラムの投稿を行い、アパレル雑誌まで広げた広告や専用LPサイトの作成を行い、活動展開した結果、一戸に対し3ヶ月で60件の集客を実現したという。ターゲティングも秀逸だ。この高園さんというN=1のこだわりを徹底的に詰めこんだ。「靴のまま自撮りができる玄関先のギャラリー」「試着室のようなWIC」など。
      買取再販もN=1ターゲティングの時代に入ってきたことを感じさせてくれた。
  • p_kimijima
    • 選考委員
    • 君島 喜美子
    • リライフプラス 編集担当
      (株式会社扶桑社)
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    • 受賞した作品リストを改めて見てみると、ますます住宅以外のプロジェクトや再販物件も増えていて、リノベーションのすそ野が広がっていることを実感しました。

      また、写真はもちろんコピーのクオリティも年々高くなってきていて、タイトルだけで「見てみたい!」と思わせられるものもいくつかありました。

      「黒川紀章への手紙」は、タイトルにまず惹かれ、リノベーションのプロセスにグッときて、写真を見てまたときめく、まさにグランプリにふさわしい内容だと思います。

      特別賞でとくに気になったのが以下の2つです。
      まずは『ROUGH LAUGH須賀川』について。

      カフェ、家具・雑貨販売、レンタルスペース…。
      ここ数年のリノベーション×コミュニティスペースのトレンドともいうべき要素がすべて詰まっていますが、正直目新しさはないですよね。

      でもそれが、福島にできたっていうことに大きな意味があると思い、強く推させていただきました。私の地元(の隣の市)という理由も大いにありますが。

      元おもちゃ屋さんだった500平米の建物が、リノベーションによって、また違う形で人を楽しませる場所、笑顔になれる場所に生まれ変わったというところにもドラマを感じました。

      地方都市に限った話ではないのかもしれませんが、帰省したときにスーパーに行くと、イートインスペースって小さい子を連れたお母さんや高齢者が多いなあと感じていました。いまどきはスーパーのイートインスペースもだいぶおしゃれになっていますが、それだけじゃちょっとさびしい。美味しいコーヒーが飲めたり、ワークショップがあったり、といったプラスアルファの要素がある、ワクワクできる場所がご近所にあったら素敵ですよね。

      子連れのママも、おじいちゃんおばあちゃんも、学生さんも、ふらっと気楽に立ち寄れるような場所が、全国にもっともっと増えることを願っています。

      「築187年、執念のお色直し」も気になりました。1831年(天保2年)に建てられた民家、ことしで築187年。リノベーションオブザイヤー史上最も古い建物であることと、しっとりしたビジュアル。もうそれだけでときめきますよね。

      また、熊本地震を乗り越えて…と書くのは簡単ですが、並々ならぬご苦労があったことと思います。

      気になって「柿の葉寿司本舗」で検索してみましたが、お店のサイトは至ってシンプル、SNSの投稿もゆったりめなところが逆に好感持てました。

      個人のブログやグルメサイト等の記事も見受けられましたが、残念ながら建物の詳細について細かく触れている記事は見当たらず…正直ちょっともったいないなと感じてしまいました。

      情報が少ないからこそ行ってみたくなる、取材したくなる。そんな編集者スピリットが揺さぶられるプロジェクトだと感じました。
  • sakamoto
    • 選考委員
    • 坂本 二郎
    • LIVES 編集長
      (株式会社第一プログレス)
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    • 今回のリノベーションオブザイヤーは、北陸等のエリアからの出品や、新しい事業者の参加もあり、日本各地に広がるリノベーションのプレイヤーたちの勢いを今迄以上に感じることが出来た。私も票を投じ、500万円未満の最優秀賞に輝いた水雅もニューフェイス。コストの制約がかかる部門だけに各作品がシンプルで明るいデザインに向く中、独自の素材選びによって、重厚さをも感じさせる「groundwork」の存在感が際立った。

      今回感じたもう一つの特徴は、遊休不動産を宿泊施設やまちのコミュニティスペースにコンバージョンする事例の多さ。一方で、これらの手法が一般化し、数が増えた分、“なぜリノベーションでなくてはならなかったのか”といったストーリーや、持続させていくための仕掛けづくりが少し希薄に感じられた気がする。

      そんな中で印象に残ったのが、株式会社アトリエいろはによる「アメリカヤ」。その佇まいは周辺住民たちの記憶に無くてはならない風景として焼き付いており、さらに、フォトジェニックな外観がインスタグラムなどのSNSなどで注目を浴びることで、新しいファンも獲得している。昨年のグランプリの「新桜川ビル」ともだぶるが、素材の外観を変えることなく活かし、記憶に再び灯をともすことができたリノベーションの好例だ。

      グランプリに輝いたタムタムデザイン+ひまわりの「黒川紀章への手紙」では、高層マンションの存在感のある外観に対して意外(?)な既存の室内空間を、ゼロから再提案している。記憶をつなぐのではなく、遡って記憶をつくり変える。空間の設計も見事だが、今までなかったプレゼンテーションの手法を見せてくれた点が、グランプリにつながったのだと思う

      このように、新しい手法の発見もあれば、普及するほどに、ぼやけていく部分もある。「リノベーションの定義とはなんぞや?」と改めて考えさせられた今回の審査だった。
  • tokushima
    • 選考委員
    • 徳島 久輝
    • RoomClip mag 編集長
      (ルームクリップ株式会社)
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    • 各社の自信作で競われた「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2018」。第2回目である2014年から5年連続で審査員を務めさせていただいているが、年々作品のクオリティがあがっており、審査に悩むことが多くなった。それは、見た目からある程度「リノベーション事例」を評価できる時代は終わったから。見た目がある一定上であることはもはや大前提であり、裏側にある、目には見えづらい「理由」や「意図」といったものが評価においてより重要になってきている。

      そんな中、数ある受賞作のうち、以下の2つをここに紹介してみたい。

      まずは、1000万円以上部門の最優秀賞作品『家具美術館な家』(株式会社grooveagent)。施主がデンマークで集めた家具をゆったりと置くこと、がテーマ。壁も天井も白の塗装で仕上げた上で、お気に入りの家具以外にはあまりものがない、ミニマルな空間に仕上がった。好きなものが常に目に入るよう、細かく間仕切りしないなど、その空間作りは徹底している。

      続いては、特別賞を受賞した、同じく1000万円以上部門の『もっと黒くしたい』(株式会社ニューユニークス)。デザイナーに伝えられたほぼ唯一の要望は「すべて黒く」だったそう。そこから「黒」の定義を突き詰め、どの場にどのような黒を用いるべきかなど話し合いを重ね、あらゆるグラデーションの「黒」で覆われた空間は出来上がった。

      いずれの作例も、施主の「理由のあるわがままさ」が突き抜けていることが評価された。「自分の好みではない」「この空間は果たして住みやすいのか」と言った意見も出るかとは思う。でも、それらの意見にあまり意味はない。なぜならリノベーションされた家は、作品である前に誰かの家である。施主が満足すればそれでいいのだ。これこそがリノベーションの本質であり、楽しさなのだと私は思う。

      こうした受賞作に未来の施主が触れることで、リノベーションの可能性に驚き、「自分だったらこんな家にしたい!」とわがままな夢を持ってくれることを期待したい。
  • p_hachikubo
    • 選考委員
    • 八久保 誠子
    • LIFULL HOME'S PRESS 編集長
      (株式会社LIFULL)
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    • 昨年の講評では「“リノベーション住宅推進協議会”から”住宅”の文字をとってもよいのではないかと思った」、との理事のお話を紹介して、拡がりを見せる協議会の活躍をコメントさせていただいた。

      文字通り新たに「リノベーション協議会」としてスタートしたリノベーションオブザイヤー2018。今回はさらにエントリー・受賞作品含めて、全体的なレベルの底上げと高さを感じた。

      私のほうからは、新たに「住宅」の文字がなくなったリノベーション協議会のあえて住宅以外の活躍も含めて、3つの事例をコメントしたい。

      ・国境離島と記憶の再生(タムタムデザイン+コナデザイン)
      壱岐に残る築90年木造3階建ての旅館の再生は、絶妙なリノベーションで同じ旅館として再生・機能させている。あたかも、たしかにリノベーションはされているのだが同時に建物とまちの90年の記憶を残す。まるで、同じ建物でありながら曇りが消え、まわりの風景も含めて、鮮やかによみがえったような印象を残した。

      ・OMOTENASHI HOUSE(八清)
      京都の町家再生事例であるが、ここは路地奥再建築不可の土地である。築約130年の京町家を思い切った6000万円という費用をかけ、再販したモデル。この場所でしか成立しないアイデアで付加価値をつけ、聚楽風壁と焼杉板で構成した真壁造や瓦葺き・板金の一文字葺き屋根など素材を贅沢に使用したリノベーションは、ターゲットをしっかりと富裕層に絞る。再建築も不可である物件の大胆な価値の転化に驚かされた。

      ・そらのまちほいくえん~街のまんなかの、子どもも大人も育つ保育園(内村建設)
      鹿児島天文館にある築約29年の商業ビル。200坪超という広さがネックとなりながく空き状態が続き、商店街の衰退を象徴しているようだったという。そこを新たに子どもたちのための保育園としてリノベーションさせた。ビルの外観は活かしながら給食室や食育ルーム、保育室や地域交流スペースなど、写真を見ると木のぬくもりや黒板に書かれたチョークの文字など、楽しく再生されていることが見てとれる。
      広さをゆとりと明るさに変えた、新たなまちのシンボルのリノベーション事例である。

      今回のエントリー作品や受賞作品は上記に限らずグランプリ作品の黒川紀章が設計した「門司港レトロハイマート」のマンションリノベーションも含めて、「その場所にあるからこそ」「この建物だからこそ」「この人たちのためにこそ」…と、より強い想いがReデザインされたリノベーション事例が多く見られた。

      リノベーション前の個を後に「昇華」させた事例の質の高さに感心させられた今年のオブザイヤーである。
  • miyazawa
    • 選考委員
    • 宮沢 洋
    • 日経アーキテクチュア 編集長
      (株式会社日経BP社)
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    • 今からでも「先駆者」になるチャンス

      この賞の審査員を務めるのは3回目となる。今回、グランプリに選ばれた「黒川紀章への手紙」には正直、驚かされた。リノベーションの手法については別の審査員の方が書かれると思うので詳しくは書かないが、私がびっくりしたのは、設計の中心になったのが前々回のグランプリと同じ「タムタムデザイン」であるということ。3年間で2度も同じ設計者をグランプリに選んでしまうとは…。ちょっと悔しいが、こうした突出した才能(主宰者の田村晟一朗は1978年生まれ)が現れたことは、リノベーションの裾野の広がりを象徴しているのかもしれない。

      グランプリ以外で気になったものを2つ挙げたい。1つはリビタによる「やわらかな質感と光がめぐる箱階段のある家」。検査済み証なしの中古木造住宅の基本性能をアップし、適法の“お墨付き”を与える改修だ。単に心地いいというだけでなく、正面から資産価値向上に取り組む姿勢が素晴らしい。。

      もう1つは熊本建設による「グッドタウンヤヤマチリノベ」。屋根の断熱改修を皮切りとして、壁床を解体して断熱材充填、アルミサッシを樹脂製サッシに交換、新しくなった屋根には太陽光発電システムを搭載……と、温熱環境を格段に向上させた。今回は、省エネ化に力を入れた応募作が少なかったこともあり、この事例を特記しておく。

      デザイン面では優れた事例が増えているが、「資産価値向上」や「省エネ化」に力を入れているものはまだまだ少ない。この辺りは今からでも「先駆者」になるチャンスがあるといえそうだ。
  • andoh
    • 選考委員
    • 安藤 貴之
    • Pen 編集長
      (株式会社CCCメディアハウス)
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    • 建築って面白い。中でもリノベーションは、建築の世界でいま最もエキサイティングな分野だ。ここ数年でリノベーションは「コスト的」な価値から、“人々の気持ち”に寄り添ったものに変化した。気持ちというのは、ユーザーが「いいな」「好きだな」と思えるポジティブな感覚のことだ。

      それは、住まいであっても、商業・公共施設であっても同じ。前者は、施主が築き上げてきた美意識の集大成だし、後者であれば、ターゲットユーザーの気持ちを揺さぶる「カッコよさ」。ライフスタイルが多様化・細分化した現代のニッポンにおいて、「いいな」「好きだな」がライフスタイルのキーワードになっているのだから。

      たとえば「もっと黒くしたい」。集合住宅の1階部分をリノベした住まいだが、施主のリクエストはたったひとつ、「すべて黒くしてください」だったそうだ。何度も繰り返された打ち合わせを経て出来上がったのは、床、扉、壁、天井、キッチン……すべてが、ニュアンスの異なる黒のバリエーション。究極ともいえる施主の好みが、比類なき住まいを作り上げた。実際に身を置いてみたくなる空間だ。

      もうひとつ「12shinjuku(ジュウニシンジュク)」。個人のライフスタイルにおいて、ワークスタイルの意味が大きくなったいま、12shinjukuが打ち出すのは、変容する社会に向けたメッセージだ。築39年の古いオフィスビルをリノベ。いわゆる以前のホームオフィスでも、SOHOでもない。オフィスに住まいの機能を持たせるという発想の転換。とはいえ、押し付けではなく、ユーザーに使い方を委ねた「自由さ」がいい。そして、そのことがオフィスのネーミングに表現されている。“オフィスを「住に(ジュウニ)」。暮らしを「自由に(ジユウニ)」”だから、“12shinjuku”。なんとも粋なキャッチコピーではないか。
  • fujishima
    • 選考委員
    • 藤島 由希
    • LIMIA ディレクター
      (リミア株式会社)
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    • 本年より審査委員に加わり、エキサイティングな審査会を楽しませていただきました。ただ「住む」「居る」だけの空間から、自己表現としてのリノベーションへと高まりを見せている−-。「住まい」をテーマにしたメディアの者としては、驚きと共に未来への可能性を感じることができ、嬉しい限りです。

      そんな中でも、いち生活者として「利便性」というものは忘れずにいたいという思いがあります。例えば、使いやすい収納であったり、家事がスムーズになる動線であったり。そういう意味で「WEAR I LIVE」は、ファッションを好む女性にとっての使い勝手の良さが追求されていて評価に値します。ファッションブランドという新しいプレイヤーが、今後、リノベーション業界においてどんな活躍を見せてくれるかについても期待は大きいです。

      「『MANISH』新しさを壊す」については議論が尽きませんでした。新築物件に手を加えることをリノベーションと言えるのか? ただ、そこにも消費者のリアルが浮かび上がっていて、「一軒家が欲しい。小さな戸建なら買える。でも造作に満足できない」という声があるのは事実。それをほどほどのコストで満たせるのであれば、その仕事には価値がある。そもそもステレオタイプな新築戸建の量産を見直すべきでは? という問題提起に繋がる物件でした。

      住居しかり商業施設しかり、「使いやすさ」という軸を根本に据えながら、場としての可能性をもっと深く広く突き詰めた物件が今後も誕生していくことを、とても楽しみにしています。
  • nishio
    • 選考委員
    • 西尾 洋一
    • Casa BRUTUS編集長
      (株式会社マガジンハウス)
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    • リノベーションという言葉が一般的なものとなった昨今、むしろ新築戸建てよりも自分のイメージする住空間を実現しやすい手段として認識されつつある気がしている。そんな時代にアワードの審査基準として重視したのは、コンセプトの強さとそれをいかに表現し切ったかという完成度の高さ。現代美術を鑑賞する観点と同じですね。何となくオシャレで何となく整理された部屋の方が実は居心地はいいのかも知れないが、せっかく表彰するなら住まい方に明確な意志を感じる空間がよいと思ったからだ。そんな観点から特に印象深かった作品は2点。

      総合グランプリに輝いた「黒川紀章への手紙」は、1999年に竣工した「門司港レトロハイマート」という物件の一室が舞台。明治・大正・昭和の歴史群が残る北九州市「門司港レトロ地区」に、当初は15階建て横長形のマンションとして計画されたが、北九州市から「レトロ地区の景観を損なう」と景観論争にまで発展した有名な建物。さらに北九州市がオーナーに対して和解の条件として指名した建築家が黒川紀章。そんないろんな意味で荷が重そうな(?)物件に対して掲げられたコンセプトは、黒川紀章の設計思考を読み解いて更に本来あるべき姿まで遡ろう、という志の高いものだった。

      景観論争を経て黒川紀章が目指したのは、周囲の景観との共生。背景となる山々の景色を損なわないよう31階建てと高層化して建物の幅を最小限にし、住戸区画は関門海峡や対岸の下関の景色が広がる西側を軸に考えたという。結果、海側に面した部屋数は増えたが、それぞれの開口部は逆に狭くなってしまい絶景を堪能できる部屋はリビングに限られてしまっていた。そんな物件の改修に対して生み出された案が「関門海峡への道」。腰壁の上部を全てガラス張りにして、住居の全てのスペースから海を見渡せるようにし、さらに足元の間接照明を効果的に利用して関門海峡へのアプローチまで指し示したのだ。景観との共生を目指した建築に対して、絶景をダイナミックに取り込んだリノベーション。このアンサーには巨匠も納得してくれるに違いない。

      1,000万円以上の最優秀賞「家具美術館な家」は、夫妻がデンマークで集めた北欧家具がコンセプト。そのコレクションは、ハンス・J・ウェグナーがデザインしたGETAMA社の一人掛けソファ《GE 240》にデイベッド《GE 258》、アルネ・ホブマン・オルセンのコーヒーテーブル、ボーエ・モーエンセンのシェーカーチェア《J39》、カイ・クリスチャンセンのアームチェア《model 32》、アルヴァ・アアルトの《スツール60》、ポールへニング・センの照明《PH5》、ヨー・ハーマボーのペンダントランプ《Orient》など、かなりの名品揃い。

      一方で、日本と北欧は国土の大半が森林で家屋は木造が中心など多くの共通点があるせいか、北欧家具ファンはさほど珍しい存在ではない。それでもなお、この空間が新鮮に見えるのはなぜか。北欧家具の部屋は往々にして木の温もりと同調したほっこりとした空間になりがちな中、それとは真逆のベクトル、床は薄いグレーのPタイルを敷き、壁と天井は白の塗装で仕上げ、美術館のホワイト・キューブ的な空間を目指した。すなわち家具を展示作品に見立て、深みのある木の色や有機的なフォルム、ファブリックの色合いを際立たせる方向に注力したからだ。しかも、家具の寸法と配置と用途を改修の基準にすることで、部屋のどこからも家具が視界に入るという設計の緻密さ。「家具美術館な家」というコンセプトをやり切った見事なリノベーションだった。
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