「大津の柿の葉寿し」といえば「あ~あの阿蘇に向かう途中の・・」と、懐かしさを覚える熊本の人は多い。郷愁を掻き立てるような、低いくぐり戸と土間と陳列台。阿蘇の麓で代々受け継がれてきた、ゆったりとした民家は、柿の葉寿しの厨房・販売店・レストランとして、その役割を大きく変えた。
新しく事業形態として加わったレストランでは、お客様にほっと一息つける、でもどこか贅沢だと感じる時間を過ごしていただくため、建築当時の材料をなるべく活かすよう設計が進められた。古材を壁仕上にしたり、畳下の荒板をフローリング材として再使用したり。オーナーが地震後に苦心して開発した新名物のカキ氷と、建物のかもし出すしっとりした雰囲気が相まって、新しい若い顧客をも惹きつけている。
敷地内の屋敷森も道路後退によって伐採されなければならなかったものを移植し、荒れて伸びすぎた枝葉も剪定整理することで極力景観の維持につとめた。店舗内からも屋敷森と、また同じく歴史ある納屋が景色になるように席を配置することで、内観・外観・周辺環境でこの建物を中心に大津下町の景観を維持し、新たな価値を地域にもたらすことを意識してデザインしている。くまもと景観賞2017奨励賞受賞。
BEFORE
1831年(天保2年)に建てられた民家を店舗にリノベーションする工事は2015年秋にスタート。昔の建物・環境をできる限りそのまま残して欲しい・・・この民家をセカンドハウスとして利用していた元オーナーの強い思いを、柿の葉寿し・連空間デザイン研究所が受け継ぐ形でプロジェクトは進められた。
しかし、もうあと数日で完成・引き渡しという2016年春、熊本地震により建物は大きな被害を受けてしまう。180年前から残る古い瓦の大半は落ち、土壁は剥がれ、柱は傾き、事業自体の存続も危ぶまれたが、1年におよぶ再建期間ののち、2017年5月完成に至った。