普段、ジュエリー会社を経営する社長の家。店舗やオフィスは、内装が白や木で、いかにも女性が好みそうなインテリアに囲まれて何年も生活してきた反動が、この黒さに現れた。これまでも建築家と何件か家をつくってきて行き着いたのがこの家だと言う。「すべて黒くしてください。」
設計デザイナーに伝えられた要望は、ほぼこの1点のみ。とはいえ、黒といってもいろんな黒がある。打合せではまず、「黒」とは何か?を追求するようなブレストから始まった。そしてどんな黒を、どのように使用するのが一番理想的なのか。打合せ中にテーブルに並べられたタイルやフローリングなどのサンプル素材は様々な「黒」で埋め尽くされた。何度も何度も話し合いを重ねて出来上がったのは、ツヤを削ぎ落としたマットブラック塗装のヘリンボーンの床。そこに佇む重厚感あふれたブラックのキッチン。扉、壁や天井も全てブラックカラーで統一し、究極に“黒”にこだわることで深い落ち着きを手にいれた家。黒を基調に選び抜かれた素材やアイテムで設えたその上質な空間は、本物を知り尽くした大人が寛ぐための深みのある空間へと仕上がった。
完成後、スタッフと一緒に足を踏み入れて放った一言。「もっと黒くしたい…。」あれだけこだわって選び抜いた黒の素材たち…。しかし持ち物まですべて黒で統一しているというIさんだ、これは完成でなく、スタートであるという姿勢に脱帽の一言であったのだ。
BEFORE
地方に自宅を持つ傍、東京での仕事がほとんどのため東京にいる時のために購入したマンション。
1棟丸ごと購入した1階部分を自宅としてリノベーション。
リノベーション前は、濃い色合いの木と白いクロスで仕上げられた3LDKの間取りであった。