受賞作一覧
「再びリノベーション~こどもべやができた夏~」
株式会社錬
「ウナギノオウチ」
株式会社インテリックス住宅販売
「畳のロフト、窓のあるお風呂など、
一人仕様を極めたワンルーム」
株式会社錬
その他各賞
「一棟貸し宿泊施設に生まれ変わった洛中の京町家」
株式会社八清
「空のリビング」
株式会社アポロ計画リノベエステイト事業部
「ヘリンボーンに貼ることで床がリズムを刻み...」ほか
9株式会社
「走るリノベる。バスツアー」
リノベる。株式会社
「全体講評」
選考委員⻑
島原 万丈 / リノベーション住宅推進協議会 プロモーション委員会 委員⻑
既存ストックの活用・流通活性化の重要性が叫ばれて久しい。国の住宅行政も精力的に既存住宅市場の環境整備に乗り出している。—住宅購入とリフォームの一体化ローン・瑕疵保険・インスペクションガイドライン等々、昨年の「中古住宅・リフォームトータルプラン」以降の矢継ぎ早の施策には目を見張るものがある。
しかしながら、既存住宅市場の「負」を解消することに主眼があるこれら公的な推進は、ストック型社会の実現に向けての必要条件ではあっても十分条件ではない。
既存住宅の活用に不安や不利益がないことは無論必要である。それと同時に、あるいはそれ以上に、既存住宅という選択肢自体が広く住まい手にとって魅力的なものでなければならないと考えている。例えば、自分らしさ・自由さ・創造性・美しさ・心地よさ・愛着のような、数字だけでは計ることが出来ない人間的な価値観が反映された住まいが、リーズナブルに手に入らなければならない。それを可能にするのが、リノベーションである。
リノベーション住宅推進協議会にとって初の試みになるコンテスト、リノベーション・オブ・ザ・イヤーは、徹底的にユーザー目線のコンテストである。
エントリーは価格帯別にクラスを分け、ノミネート作品の選出にはエントリーページの閲覧数やSNS等での反響を取り入れ、最終的に受賞作品を選ぶ選考委員は、建築家や不動産事業者ではなく、住宅系メディアの編集に携わるジャーナリストで編成した。これらはすべて、リノベーションの楽しさ・魅力・可能性をより多くの人に伝えたいという当コンテストの趣旨を徹底させた建て付けであった。
初めてづくしの企画に主催者側としては不安もあった。しかし、蓋を開けてみれば151のエントリー作品群はいずれ劣らぬ力作揃いで、コンテスト全体としての質の高さは誰の目にも明らかであったと思う。ノミネート作品まで絞り込まれると、どれが受賞しても大きな異論は出そうにないほど、それぞれがそれぞれ独自のアプローチでリノベーションの楽しさ・魅力・可能性を雄弁に語っていた。数点の画像と添えられたテキストから、それぞれの作品が、施主の要望と既存建物や予算などの制約条件をいかに乗り越えてきたかを読み解いていく選考会は、楽しくもあり難しい作業だった。
その中でオブ・ザ・イヤーを勝ち取ったブルースタジオの「FURNITURE半身浴」は、棚やテーブル・造作家具類の高さをすべて70cmに揃え、「見えない水面のようなもの」を作り出すことで空間の拡がりを演出するというアイデアである。新築であれリノベーションであれ、マンションの空間プランニングは平面図を中心に考えられる。ところがこの作品は、生活動線を司る通常の平面図に加えてもう1枚、視線の平面図を描くことで創りだされた空間である。マンション専有部を平面ではなく立体として捉えることではじめて可能になるアイデアだろう。その他、安達委員の講評にもあるように、この作品は、着眼点の創造性から実際の空間づくりへの説得力ある帰結を「伝える力」にも優れていた。この分野の先駆者として同社およびリノベーションの力を存分にみせつけた、記念すべき第1回のオブ・ザ・イヤーにふさわしい作品であったと思う。
我々日本人が「真に豊かな」住生活を実現するためには、既存ストックを何世代にもわたって活用することが当たり前の住宅市場を作らねばならない。先進国としては異常なまでに新築に偏向したこの国で既存住宅それ自体の魅力を高めるためには、リノベーションをごくごく平均的な生活者の間にもっともっと浸透させていく必要がある。
世界的にみれば幸いなことと言えるが、日本ではほとんど全ての国民は誰でも住宅に住んでいる。リノベーション住宅推進協議会では、将来的にはリノベーション・オブ・ザ・イヤーを国民的な関心を集める一大イベントに育てて行きたいと考えている。
<選考委員講評> ※五十⾳順・敬称略
安達 功
日経BP 社 建設局プロデューサー
本コンテストはリノベーションの楽しさ・魅力・可能性にフォーカスして、金額カテゴリーごとにクラス分けした実作を、ウェブ上に掲載された情報のみで評価するというルール。経験のない審査方法に当初は戸惑ったが、結果的には、①タイトルの秀逸さとインパクト、②写真から伝わる生活の躍動感、③説明文のストーリー性と説得力などを重視して選んだ。これらのファクターは、ネットなどを媒介としてアピールする世界では大きな力を持つものである。全体的に応募作のレベルは高く、すでにそこに存在するストックを生かしながら、暮らしから構想したソリューションを提供するというリノベーションの力を十分に伝える「お手本」が選ばれたと思う。800万円以上部門で最優秀賞となった「FURNITURE半身浴」は、まずタイトルが秀逸だ。えっ?と一瞬感じるが、作品を見ると「ああ、なるほどね」とニヤリと納得させられる。鮮やかなイエローをバックにした写真には、ご夫妻の伸びやかな日常の暮らしが魅力的な形で映り込んでいる。説明文では「広い部屋に住みたい」という施主夫妻のニーズを「暮らしに直結する家具のレベルを統一する」という手法で実現したプロセスと効果がわかりやすい言葉で表現されている。メゾネットのような変形プランを逆手に取り、建物とその歴史に敬意を払いながら魅力に転化させた点も評価ポイント。リノベーションの楽しさ・魅力・可能性すべてを高いレベルで実現した。
池本 洋⼀
株式会社リクルートすまいカンパニー SUUMO 編集⻑
最近変わりつつあるものの、依然として多くの賃貸住宅は原状回復の義務があり部屋をいじれない。育った家でも内装リフォームの経験はない。その環境で一度にズバッと自分好みの部屋に仕上げるのは極めて難しい。そんな状況下で、入居時に100%を目指さず住まいながらチューニングしていくという思想が生まれている。300万円以下部門には「余白を残す」という切り口の作品が多かった。部門の最優秀賞となった「再びリノベーション ~こどもべやができた夏~」もその流派の1つだが、二度目の手入れの実践が住まい手主導でなされていることを評価した。最初のリノベ-ションの際に将来を想定し部屋の仕切りを想定して下地や配線を組んだこと、仕切り壁を入れただけでなく、仕切りのデザイン・ドアノブ・壁面のペイントまでこだわりを反映。さらにペイントはDIYで。ご家族が本当に今の住まいが大好きで強く愛着を感じて暮らしてらっしゃる様子が伝わってきた作品だ。その温度感がエントリーにも上手に表現されていた。
リノベーションは新築のような宣伝費は掛けられない。魅力の浸透度もまだ一部の人に限られている。メディアに載ることは極めて重要な戦略といえる。そのメディアは「新規性」「意外性」「汎用性」「社会性」いずれかの要素があると取り上げたくなるもの。次年度には、リノベーションによって何らかの問題を解決する「社会性」、そして最も裾野の広い賃貸分野という「汎用性」この2つを捉えた作品を期待したい。
石川 歩
株式会社ネクスト HOME'S「暮らしといっしょ」編集部
“施主の希望や、こだわりのポイント”“誰に向けた、どんな住まいを作ったのか?”を明確に表現できた物件が各最優秀賞になった。これは、施主と共に住まいを作るコンサル的な要素が強いリノベーションという業態だからこそ、消費者に寄り添ったアピール力が問われたのだと思う。
800万円未満部門の最優秀賞「畳のロフト、窓のあるお風呂など、一人仕様を極めたワンルーム」は、約40平米というコンパクトな部屋で住み手のこだわりを丁寧に実現したことが受賞理由。隅々までインテリアに気を配ったことが一目瞭然に分かる写真も良い。今後の“女性1人リノベーション”に勇気を与える好事例!
全体を通してバリエーション豊かな作品が多かったが、特に、子どもの成長に合わせて部分リノベを繰り返す“暮らしストーリー”のあるものや、一部施主施工でそのセンスを生かすもの、その物件があることで街の姿を変えるようなインパクトのある作品の評価が高かった。このような「暮らし」に密着した事例が、今後のリノベーションシーンを牽引していくように思う。
君島 喜美子
扶桑社「リライフプラス」編集者
「設計事務所と工務店の中間のような所に依頼したかった」。
最近の取材でいちばん印象に残っている、住み手の方のコメントだ。内装や物件選びに関しては、よく勉強している方が増えきていると感じていたが、どういうタイプの会社に依頼するのがベストか、ということについてもきちんとリサーチしていることが分かるひとことではないだろうか。
とくに個人宅については、今回の審査でもそれを感じた。
「できることは自分たちでやりたい」「ライフスタイルの変化に合わせて時間差でリノベしたい」等、様々なタイプのお宅があったが、つくり手側もそうした要求をおもしろがって、柔軟に対応しているなと思った。細分化するニーズをどう受け止め、どう折り合いをつけていくか、ということが今後ますますつくり手側に求められるのではないだろうか。
500万円未満部門最優秀賞の「ウナギノオウチ」は、まず住み手の方のリノベ魂が素晴らしい。壁の塗装を自分たちでやりました、というお宅は最近増えてきたが、解体から参加、というお宅はなかなかない。そのリクエストをどーんと受け止めて、住み手の気持ちに寄り添いながらこの家をつくり上げたインテリックスさんにも拍手!
リノベ魂とはつまり、家への愛情、とも言い換えられる。
坂本 ⼆郎
第⼀プログレス「LiVES」編集⻑
今回は改修費用別に審査を進めたお陰で、今までと違った俯瞰の視点でそれぞれの作品を見ることができた。コストの階層とともに既存建築に対するつくり込み方のアプローチも変化していくが、コストの大小がリノベーションの価値を決定しないことが再認識できたし、また、各価格帯のリノベーションに、それぞれを嗜好する住み手の人物像も垣間見えた気がする。リノベーションが、住まい手の自己表現として、すっかり定着したことを同時に感じた。
無差別級部門受賞の「さくらアパートメント」は築40年の賃貸住宅の性能向上はもちろん、これからの建物の使われ方、愛され方までも考慮した「いよいよ住み時」という他にはできないプレゼンテーションに票が集まった。「大正時代の京町家をシェアハウスへとリノベーション」は、ともするとシェアハウスとすることで何とか建物を延命させているような例もある中、建築、コミュニティづくりに非常に高い意識で取り組んでいる点に好感がもてた。
一つの作品にさまざまな評価基準があり、どこに重点を置くかによって、作品の見え方もまったく違ってくる。リノベーションの懐の広さが改めて感じられる審査だった。