2026.08.28
株式会社NENGO
この建物は、かつて工務店を営んでいたオーナーの父によって建てられた。1階はガラス張りのオフィス。重厚な受付カウンターや天童木工の応接家具、自動ドアを備えた、丁寧につくられた仕事場だった。
2階には掘りごたつのある茶の間と水回り、3階には広々とした全面畳敷きの和室、4階には窓まわりなどに美しい造作が残る2つの個室がある。仕事場から暮らしの場まで、階ごとに異なる表情を持つ一棟には、父ならではの工夫と手仕事が随所に刻まれていた。
建物を受け継いだオーナーは、一棟を賃貸として活用することを決めた。しかし、用途を先に定めて内装を一新すれば、建物の個性まで失いかねない。そこで完成形をつくらず、現地に募集ポスターを掲示し、現状のまま見学会を開催。「ここで何をしたいか」を自由に想像してもらうと、さまざまな構想を持つ人たちが集まった。
建物の個性は、貸しやすさと引き換えに消されてきた。個性を残せば借り手を選ぶため、万人に受け入れられる状態へ整える。それが、これまでの賃貸の常識だった。
築40年を超える当物件に残る、全面畳敷きの和室や年代を感じさせる造作も、個性であり借り手を選ぶ課題だった。全面改修すれば貸しやすくなるが、工務店を営んでいたオーナーの父が手をかけた造作は失われてしまう。
加えて、建設費が高騰し、既存ストックの活用が求められる今、建物を市場に合わせるのではなく、市場とのつなぎ方を変えた。先に完成形をつくらず、この個性を面白がる使い手を探したのである。
出会いを生んだのは、建物に直接貼った一枚の募集ポスターだった。地域で探す人へ直接届け、「この空間をどう使うか」と創造力を刺激した。こうして、10年以上飲食や場づくりに携わってきた夫婦と出会った。
改修は店舗となる1階と、営業に必要な水回りや空調が中心。既存の家具や造作を生かし、借り手自身もモザイクタイルや左官を施した。2階以上は大きく変えず、暮らしや音楽、表現活動の場として活用している。
使い手との関係を設計し直せば、古さや癖は価値へと反転する。全面改修の費用と廃棄物を抑え、建物の記憶を受け継ぐ。これは、建物ではなく、賃貸の仕組みと常識をリノベーションした事例である。
| 費用 | 600万円(税込) | 物件種別 | その他 |
|---|---|---|---|
| リノベーション 形態 |
その他 | 家族構成 | その他 |
| 築年数 | 45年 | 面積 | 146.92㎡ |
| 施工期間 | 3か月 | 構造 | 鉄骨造/地上4階建 |