2026.07.12
有限会社齋藤工匠店
私がまだ中学生の頃、父の仕事を手伝い竣工建物のガラス拭きをしていた。その建物は30年前に開店した「ペガ」。私の父が、同級生(以下マスター)のために手掛けた地元飲食店だ。こだわりの料理で知られたこの店は、地域の催しにも使われ、飲食を通じて人が集う場であり続けてきた。しかし時が流れ、この店も一つの節目を迎える。年齢的な理由から、マスターが引退を決意したのだ。その噂が回るのは早く、食を支えてきた場所がなくなってしまうのでは?という不安が地域によぎっていた。一方、市街地の飲食店で働く弟の篤は、いつか独立したいと考えていた。店舗を構えるため相談を受けた私は「地元なら安い物件がある」と伝えたが、篤の答えは早かった。「地元では絶対にやらない」集客も採算も見込めないというのが理由だった。しばらくの間、市街地で物件を探し続けたが、希望どおりに改修すれば費用は予算を大幅に上回り、話は半ば諦めかけていた…
ある日マスターから篤へ「ペガを引き継いでくれないか」と話があった。
「まんま作る人でねぇとダメなんだ…」その言葉に地域を思う気持ちを察した私は、理屈抜きで篤がやるべきだと感じた。私は即座に「ペガなら父の仕事だからいじり易い」と話すと、考えを一変させた篤。彼の中にも何か通ずるものがあったのだろう。こうしてペガを継承し、兄弟のリノベーションが始まった。「どんな空間になるのだろう」そんな周囲の期待を受けながらも、大きく変えようとは思わなかった。マスターが築いたものを残したかったのだ。最も印象深かったのがカウンター席。長年マスターが立ち続けたペガの象徴だ。この形はそのままに篤の料理に合わせて仕上げを更新した。また「個室風の座席がほしい」という要望には、あばれ山車の櫓をイメージした空間で応えた。開店直後、その店内をマスターに見てもらいたかったが、それは今後叶わなくなってしまった… 何とも数奇な運命に言葉もなかったが、新店名を思案中に「篤の竹と馬をいれては?」と言ってくれたマスターの表情が忘れられない。嬉しそうで少し寂しそうでもあった。しかし、篤にとって自分の名を入れるのは気恥ずかしかったのか、最終的には篤夫妻の好きな花から「旬菜 紫陽花」となったこの店。マスターのように地域に愛される店になってほしい。いつか、マスターが覗きに来たときは『おい、よくやったな』なんて言ってもらえるように…
| 費用 | 1420万円(税込) | 物件種別 | その他 |
|---|---|---|---|
| リノベーション 形態 |
その他 | 家族構成 | |
| 築年数 | 31年 | 面積 | 179.95㎡ |
| 施工期間 | 2か月 | 構造 | 木造 |