リノベーション事例

2025.09.18

「新たな線で継ぐ、義父の設計図」

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株式会社日々と建築(日々と建築)

敷地北側に建つ小さな木造の設計事務所は、同じ外観を持つ自宅と庭を挟んで隣り合っている。瓦屋根と深いベンガラ色の木部が印象的な和風建築で、内部は経年した梁や柱が現れ、建築士であった義父の仕事や個性が随所に感じられる空間だった。
間取りは階段を中心に据え、1階は作業室・打合室・図面庫・ミニキッチンが囲み、2階は収納に使われていた小屋裏があった。1階と2階の繋がりは感じにくく、2階は屋根裏のような薄暗い閉鎖的な空間だったが、階段を上がると板張りの勾配天井が四角錐状に広がり、独特な伸びやかさを持っていた。庭は生前義父が大切にされていた場所で、建物と家族の記憶を結び付ける象徴的な存在のようだった。
初めて伺った時、事務所内の机の上には図面や道具がそのまま残り仕事が今も続いているような、声を掛けたら奥から返事が返ってきそうな雰囲気が残っていた。

ここは施主の義父が営んでいた設計事務所である。
義父の急逝から時間を経ても、家族は悲しさや寂しさから設計事務所の中を整理できずにいた。
施主は独立を機に建物を美容室として引き継ぐことを決めた。希望は「できるだけ既存状態を残しながら変化させていくこと」。それは建物に義父の記憶を残しつつ、施主の色を足し新たな営みを生むことを意味する。これにより家族が前向きに気持ちの整理ができたらという願いがあった。

この建物には義父の仕事が随所に宿っている。義父の仕事を目に見えるカタチで残すため吹抜を設け、広がりのある空間とした。吹抜があることで上下の空間が繋がり、2階を新たな営みの中の“余白”とした。 “余白”には施主の奥様が好きなアートや雑貨を設え、お花を見立てる営みもいつか始まるかもしれない。そして新しい営みの場を周囲に開くため路面側に新たな入口を設けた。カットエリアは義父と家族が大切にしていた庭に面して配置。庭の緑と光、移ろう季節、生前愛でた風景をお客様と分かち合えたら義父はきっと喜ぶだろう。
建物自身が持つ、線が際立つ力強さのある形を残しながら、白い真四角な紙に自由に線を引くように曲線を加え、それを施主自身の色とした。

完成後、鏡とにらめっこする施主の娘さんの姿に、かつて図面を描く父の傍らにいた幼い奥様の面影を想う。時を越え義父の記憶を継いで、家族がこの先へと次いでいく。

費用 1250万円(税込) 物件種別 一戸建
リノベーション
形態
その他 家族構成
築年数 40年 面積 67.90㎡
施工期間 3ヵ月

備考

photo/Nozomi Nishi

間取り

BEFORE 設計事務所

AFTER 美容室+"余白"

お問い合わせ先

株式会社日々と建築(日々と建築)

〒407-0006 山梨県韮崎市下祖母石2177-1 グリーンハウスe206

TEL:090-5447-6751

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