2025.09.17
向坂建築設計事務所
 
                                本住戸は井の頭公園近くに建つヴィンテージマンションの一室である。もともと二つの住戸をつなげて使っていた経緯があり、浴室や洗面が欠けた特殊な条件を持っていた。内部には長年の使用感が残り、床や仕上げ材には生活の痕跡が刻まれていたが、構造体は堅牢で、階高の高さなど大きな可能性を秘めていた。間口が狭い方と広い方を併せ持つ平面は、採光や動線に課題を抱えつつも、工夫によって立体的な広がりを導ける余地があった。日常とサブカルが同居する吉祥寺という街の気配は、暮らしの場にも「半歩先」を求める視点とつながり、今回の計画を考えるきっかけとなった。
普段着のように自然体でありながら、どこか普通ではない。ほんの少しの“はずし”が全体を更新する──その感覚を住まいに取り込んだ。本計画は、常に半歩先を目指す姿勢を重ね合わせている。
住まい手は三人家族。穏やかな日常を送りつつ街のカルチャーに親しむ感性を持ち、その暮らしを受け止める場として計画が始まった。
リノベーションには、かつて“はずし”と呼ばれたものが今や一般化し、当たり前になった要素が多い。コンクリート現しや広幅フローリングなどがその例だ。本計画は、その進化を踏まえ、さらに小さな外しを重ねることで独自の空気をつくり出している。
階高の高さと構造壁の分断を逆手にとり、エントランス(低)、小上がり収納(中)、ロフト(高)の三層構成を計画。ロフトは一見普通ながら“はずし”の仕掛けとして、暮らしに余白を与える。回遊できるプランや“一人二役”の扉、一枚ガラスのパーテーション、墨モルタル、幅狭のクリの床もまた、普通に見えて外れている要素である。
それは普段着に潜む遊び心のように。半歩先だからこそ長く住んでも飽きが来ず、時間をかけて暮らしに馴染み、次の世代へも自然に引き継がれていく。古着市場に残るスタンダードな服のように、この住まいもまた普遍性と進化を併せ持ち、暮らしを纏う特別な衣となっている。
| 費用 | 1750万円(税込) | 物件種別 | マンション | 
|---|---|---|---|
| リノベーション 形態 | 中古を買ってリノベーション | 家族構成 | ファミリー | 
| 築年数 | 47年 | 面積 | 63.28㎡ | 
| 施工期間 | 3.5ヶ月 |