2025.09.16
株式会社アートアンドクラフト
大阪東部は、日本有数の町工場集積地です。自動車や電機産業を支える部品供給から、生活に身近な製品まで、幅広いモノづくりが展開されてきました。高度成長期に建てられた工場は、経済性を優先した簡素な建築が多く、計画的な修繕も少ないため、不具合の度に場当たり的な補修が繰り返され、継ぎはぎだらけの姿となった建物も少なくありません。建築的な意匠はもとより、従業員の居心地が軽視されることも多く、その結果、働く場への愛着や誇りが育ちにくく、無関心へとつながっているように感じることもありました。経営者にとっての改修は不具合解消にとどまり、建築の価値や環境を高める視点は希薄。そうした現状こそが、私たちの課題意識であり、出発点でした。
住宅ではリノベーションが「暮らしの価値を高める選択肢」として浸透しましたが、工場ではまだ一般的ではありません。私たちは数多くの住宅で培った経験を活かし、「町工場のリノベーション」として好事例となる計画を目指しました。狙いは、経営者も従業員も愛着と誇りを持てる“ご機嫌な工場”へと変えること。採用難を乗り越え、新入社員が憧れて入社したくなる環境づくりこそ、本計画の核です。
まず、企業の顔であるエントランスを刷新。本工場で加工されながら廃棄予定だった発泡スチロール製品を壁材として再利用し、廃棄物を価値ある素材へと転換しました。経年変化で味の出た2階倉庫には、断熱性能を確保したホワイトキューブ(事務所・食堂棟)を挿入。原料である白い発泡スチロールをモチーフに、象徴的なデザインとしています。急勾配で不便だった階段は、既存を残しつつ新階段を被せる工法で改修し、コストを抑えながら安全性と視覚的改善を両立しました。
さらに家具・備品の選定や設置、サインの取付、発泡スチロール製「DAIRYU」ロゴの制作まで従業員が主体的に参加。これまで工場に無関心だった人々が彩りを加え、空間を育てる仕組みを取り入れました。工場を「生産効率の象徴」から「企業文化を映す象徴」へと変える一歩となったのです。
費用 | 物件種別 | その他 | |
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リノベーション 形態 |
その他 | 家族構成 | その他 |
築年数 | 46年 | 面積 | 999.99㎡ |
施工期間 | 2年10ヶ月 |