2025.09.05
株式会社西崎組
築100年を超え、2mに満たない接道からのアクセスのみであり、中庭と奥庭を配する特徴的な日本家屋が長らく放置され、酷く荒廃が進んでいる状況であった。一方でこの家屋を取り巻く「迷路の街」一体も高齢化と人口流出の影響で小さな商店が点在していた80年代の賑やかさはなくなり、風情を残すというより寂しさだけが残る街となっていた。しかしながら、令和のレトロブームや瀬戸内国際芸術祭、人気映画のロケ地などに度々この街がクローズアップされ、国内外からの観光客に人気の場所となっている。
最初の印象は荒廃は進んでいるものの、中庭を中心に生活機能が配置されていると感じた。現代では使いづらいと思われる機能の分散配置が中庭を挟んで行き交う生活動線が大変面白く、心地よくさえ感じたのだ。
小豆島に訪れ、宿泊するなら都会の喧騒を離れ、上質な空間で、綺麗な海を見ながら静かな時間を過ごすという非日常体験が主流であるが、ここにはそれは一つもない。
迷路の街に漂う風土に溶け込み短い宿泊期間でも堪能できる洗練した日常空間を目指した。
一棟貸で10人まで宿泊できるこの宿はどこにいても気配を感じることが出来、集まって住むという本来の家族の姿を体現できる。「距離感」という考えを大切に、機能や間取り、動線や視線が「緩やかに分節しながらも緩やかに繋がる」曖昧な距離感こそ日常の延長だと考える。
既存建物の骨格は維持し、中庭を緩衝領域と捉え水廻り機能をあえて分散配置し、近隣から見られることもなく中庭でのプライバシーを順守した。母屋には通り土間を拡張し、外国人旅行客にも楽しめるよう下足スペースを大きく確保した。客室は合計3部屋を確保し、コネクティブルーム対応とすることで和室を介して一体利用も可能とした。また、接道から一般客も利用可能なバーを新たに開業し、宿泊者と島民とのコミュニケーションの場としても活用できるようにした。
木、土、石、紙という自然素材で覆われたやさしい空間はどこか懐かしくもあり、築100年のもつ歴史と調和しながらも居心地の良い「削ぎ落とすもてなし」は日本人のもつ感性を蘇らせてくれるであろう。
費用 | 5200万円(税込) | 物件種別 | その他 |
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リノベーション 形態 |
その他 | 家族構成 | その他 |
築年数 | 116年 | 面積 | 197.87㎡ |
施工期間 | 11か月 |