2020.09.22
株式会社ENN
この建物は、富山県南西部の南砺市、旧井波町の瑞泉寺門前の古い町並みにある町家である。この地域と建物に心酔した、旅館再生などを行ってきたオーナーが自ら旅館運営をするために購入したものである。弊社は隣県の金沢市を中心に不動産仲介を行っているが、地域資源としても魅力ある物件については、市や県を超えて紹介することもある。その好例となった計画だ。築年数は約80年、母屋と土蔵などを合わせた延床面積は400㎡を超える規模で、経年の割りに状態は悪くない。母屋の大屋根の小屋組や木造躯体、二棟連なる土蔵、荒れているが修復可能な庭など、小規模旅館としては立地的、規模的、空間的にも魅力的な素材だった。しかし、この地域では用途変更を伴う確認申請は前例がなく、階段架替えによる増築手続も加わり、法規的に木造架構は隠さざるを得ないなど、まさに正攻法で取り組むリノベーションとなり、行政と二人三脚で取り組む挑戦でもあった。
富山県南砺市井波の大きな空き町家を旅館へとリノベーションしたものである。白山麓の山並みを背景に、水田と散居村が広大に拡がる、木彫りの里「井波」は、素朴さが佇む日本海側の里山的原風景を感じさせる場所である。そこで、どんな宿をつくるべきかが大きなテーマとなった。来館者が最初に体験する母屋1階。通りの間口いっぱいの風除室、受付や食堂、廊下などで構成される共用部は、暗色にトーンダウンさせることで漆黒の闇が感じられる空間に。珪藻土の黒壁に赤茶色の既存柱が、町家の木造躯体の存在を感じさせるささやかなアクセントとした。暗がりの視野の先の光と緑は、既存の庭木や庭石を整え直し、往年の姿を想起させる庭づくりを施した。庭を横目に渡り廊下を進むと、純白の漆喰塗りの二棟の土蔵と納屋へ。それぞれメゾネット客室、宿泊者専用バーラウンジ、個室の温泉浴場として転用し、新鮮な体験を得られる動線とした。母屋2階は全て客室で、異なる設えの4室から構成され、2つの階段によって、各室を振り分けプライバシーの確保に努めた。客室は、暗さの共用部に対比して、柔らかく明るい和室としている。この計画の作法として大切にしたことは、既存のまま表現できるものには手を加えず、新しい部材を採用する場合にも、古さとの調和を意識し、穏やかな新旧共存の空間を目指したこと。それが、井波らしい素朴な空間体験が得られる宿になると考えたからである。
費用 | 7000万円(税込) | 物件種別 | 一戸建 |
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リノベーション 形態 |
中古を買ってリノベーション | 家族構成 | その他 |
築年数 | 75年 | 面積 | 421.82㎡ |
施工期間 | 6ヶ月 |