2020.09.22
株式会社ENN
金沢の中心市街地を貫く旧北国街道沿い、明治時代に建てられた、地下貯蔵室(氷室)付き木造三階建の金澤町家である。隣地には、1357年には既に鎮座していたと伝えられる神明宮、樹齢千年と言われる大ケヤキが残り、徒歩圏内に犀川、北陸随一の夜の飲食店街などが拡がり藩政期から現在に至るまで金沢中心部だ。近代以降、ご多分に漏れず不燃化や自動車中心都市化が推し進められてきた市内中心部で、時代を超えて生き残った建物だ。外観は、傾き歪みながらも、アルミサッシやトタン、ガルバリウム鋼板など時代に応じた建材でパッチワークされ、内部は原型を留めぬ姿へと間取り変更や仕上改装が繰り返し施され、まさに満身創痍の姿となっていた。またこの町家の通りは、新建材の兼用住宅やマンション、コインパーキングへと姿を変え、まるで通り全体が金沢の文化的景観づくりから撤退してしまったことを象徴している状態となっていた。
防火地域の木造3階建ての既存不適格建築を収益物件に。この要件がいかに厳しい条件であるかは、建築設計に携わる者であればご理解いただけるだろう。あるいは、対処療法的にパッチワークを施されてきた姿を見るだけでも、その難しい状況を想像するに時間を要しないかもしれない。この建物を先代から引き継いだオーナーが、将来、息子にも自信を持って譲っていけるような、金澤町家へと戻したいという依頼から始まった。そこに事業収益性という要件も加わり、ハードウェア、ソフトウェア、オペーレーションシステムといった、それぞれの要素を構築しデザインして納めていく、まさに古い建物を持続的に空間活用して、未来へと繋いでいくためのリノベーションプロジェクトへと変化し、約三年を要することとなった。デザインはもちろん、国の法律、地方都市の施策、事業性など、オーナー、テナント、行政、そしてぼくたち設計者がそれぞれに抱えこんだ二重三重の板挟みは同じだ。それぞれの異なる立場の妥協点を探りながら丁寧に議論を牽引し、検討を重ねていくことに多くの時間を費やした。そして、関係者でこの町家リノベーションに対するある種の希望を描き共有することができたからこそ、実現に至ったとも言えるかもしれない。こうしてリノベーションされた建物が文化的景観づくりへと参戦し、本質的な意味で金沢らしいまち・都市づくりを実現させていく闘いはまだ終わらない。
費用 | 4100万円(税込) | 物件種別 | 一戸建 |
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リノベーション 形態 |
持ち家のリノベーション | 家族構成 | その他 |
築年数 | 113年 | 面積 | 129.60㎡ |
施工期間 | 6ヶ月 |