2017.09.28
株式会社空間社
さらに、一部を崖で支えられていた頭でっかちな二階を減築し、安定を図る。その上で内装すべてをやり直し、生活の中心を日照のいい二階に移す。
完璧な布陣。だが着工後間もなく、大雨に襲われた現場は予想外の床下からの大量出水に見舞われた。
「シロアリは湿気を好む。・・これだったのね」
……二ヶ月後、高い天井と白基調の内装が光を隅々まで回わらせているI邸のリビングに、引き渡しに訪れたハムロとI夫妻がいた。シロアリは駆逐され、その発生の一因だった床下の湿気問題も基礎改良により解決した。何よりも、もう一世代は心配なく暮らせるという安心感が、リノベ後のI邸にはあった。
生まれて間もない我が子を抱いた、施主の妻が言った。
「ごめんなさい。こういう時、どんな顔をすればいいのかわからないの」
ハムロの瞳には、涙が浮かんでいた
「笑えば、いいと思いますよ」
2016年、初夏。プランナーのハムロは、郊外のリノベーション施工現場で立ちすくんでいた。
「これが、やつらの破壊力なのね・・・」
外壁を剥がされ躯体を露わにしたI邸。一部の柱は無残にも喰い荒らされ、皮一枚を残してやっと立っている。数々の現場を担当してきた彼女にとっても、正視に耐えない凄惨な光景だった。
「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ」
拳を三度握り、職人に叫ぶように指示を出した。
「柱、交換します!」
発端は、二ヶ月前。空間社本部に入った一本の電話だった。
「早く、あいつらが飛び立つ前になんとかリノベーションしたいんです!」施主のI夫妻が受話器の向こうで、壁の中にうごめく得体の知れない生物に声を震わせていた。
「パターン白、蟻です!」
連絡を受けたハムロは、すぐさま計画図作成に入った。シロアリが羽を広げ、室内に侵入するまで、残された時間はわずかだった。
---
I邸は、築40年と25年という別々の時代に建てられた二棟を増築でつなぎ合わせた、ちぐはぐの家。近くには崖が迫り、若い夫婦は薄暗く湿気のひどい一階のLDKで、シロアリの恐怖に怯えて暮らしていた。
ハムロ計画のアウトラインはこうだ。まず、シロアリが巣食って強度が失われた柱を一新。同時に、増築部との接合不足を補う新たな梁を渡し、一軒の家としての剛性を向上する。
費用 | 3000万円(税込) | 物件種別 | 一戸建 |
---|---|---|---|
リノベーション 形態 |
持ち家のリノベーション | 家族構成 | ファミリー |
築年数 | 48年 | 面積 | 127.74㎡ |
施工期間 | 3ヶ月 |
BEFORE 5LDK
AFTER 2LDK