今回のテーマ『リノベーションによる、新しい住み方』は、親しみ易さを考えた第1回のテーマ『あのヒーローのリノベーション住宅』に比べると、もう少し俯瞰的に“リノベーション”を捉え、空間・デザインのみならず、価値観、人間関係、メディア、流通など、幅広い視点で「住み方のあり方」全体を“リノベーション”するような新しい概念、デザインの定義などが求められた。捉え方次第で無限大に広がる可能性がある一方、実際に考えてみると、捉えどころのない難しさを感じた応募者も多かったのではないだろうか。
一方、大企業がスポンサーに着いているわけでもなく充分な告知ができていない中、第2回目を迎えることができ、さらに昨年を大幅に上回る500組以上の登録、計200点以上の応募があり、より多くの将来の住宅・建築業界を担う若者たちに既存建築物の流通市場、リノベーションの可能性を考えてもらうことができたことは素直に嬉しく思う
以下に入選作品の評価を記す:
日本大学 理工学研究科
武久忠正
集合住宅のワンフロアを居室、エントランス、バルコニーにいたるまで住戸ごとの境界をなくし、家族形態やライフスタイルに応じてスペースをフレキシブルに活用し、シェアハウスのようにキッチンやバルコニーを複数家族で共有する提案。
【講評】
非常に知的な案。図面自体は地味だったが、プランをじっくり見てみると、住人同士の関係性などいろいろな生活の風景が想像できた。ありそうでなかったものだし、大幅な設計変更はないが、セキュリティラインの設定と賃貸システムの変更で今までと違ったコミュニティが生まれそうな予感をさせた。世の中に無数に存在し空室化する既存集合住宅と多様化する世帯の問題を解決するひとつの提案としても高く評価した。
横浜国立大学大学院
大和田栄一郎、井上湖奈美
どこにでもある団地に多種多様な「出窓」を作ることで、外観とその住み方を生まれ変わらせる。カフェテラスのような出窓、ギャラリーのように横長の出窓、みんなが集う踊り場のような出窓など。用途もスケールも様々な異なる出窓により団地が見た目もそこでの暮らしも新たなスタイルに生まれ変わる。
【講評】
「これ住みたいな」と思えるものを素直に表現した点が非常に大きく評価された。実際に団地を所有する企業に提案したら採用されるような現実性を感じさせる。どうしたら実際に実現できるのかの深堀りができていれば最優秀賞もありえただろう。
エキラボ
服部暁文、安藤祐子、野村由紀子、吉田峰弘、本江慶亮、山岡史典、小森薫
都内にある木造の電車庫を新しい発想の美術館としてリノベーション。そこに、公募で集まった人々が住み込みで働き運営に携わる。平日は遊歩道やホテル、休日はイベントやワークショップ開催される場として地域の交流に活用される。
【講評】
非常によくできた案で、そのまま作れるのではないかと感じさせた。地域の活動にも生かせる点も評価できる。ただし、リノベーションは本来あるもののポテンシャルを上げることだが、やや変換され過ぎてしまった感。企業と協力して何ができるかという視点がこの提案の特徴で、今後このようなケースが実際生まれて来ることを期待したい。
岐阜工業高校専門学校
岩田卓也、伊藤宏辰、福地貴文、水野亜美、佐藤宏行、渡辺勇樹
柱だけがたくさんある空間を提供し、その柱と柱のあいだに居住者が自ら壁を好きなように作って暮らすスタイルの提案。ニューヨークのアーティストが自発的に作り出すような、ラフで遊びのある空間。名古屋の寂れた繊維問屋街にあるオフィス街の空きフロアを、アトリエやシェアハウスなどに転用する。
【講評】
オフィスビルを住宅にコンバージョンするのは課題もあるが、不動産業界からの視点でみると、わかり易く、ユーザーにも提案し易い。何もない空間よりユーザーがイメージをすることも容易で、D.I.Yを取り入れ易い点も面白い。素材などを工夫することで普及・促進の可能性も広がり、発展性を感じる
アズ事業開発部
志村剛、今井久美子
「寝屋子(ねやこ)制度」とは、かつて伊勢志摩半島で成立していた、中学を卒業した男子数人が共同生活を送り結婚者が出たら解散する制度。この制度の現代版として、住民が寝屋親として移住者に住居と食事を提供し、移住者は寝屋親に労働を提供する。情報発信は、Webサイト「Neyako style」で行う。
【講評】
リノベコンペにWebサービスの提案が出てきたのが面白い。このメディアを魅力的にしていくかは編集長の役割。情報提供だけでなく、読み物として面白いコンテンツをどう発信していくかが重要になる。このような地域を盛り上げるモデルは全国各地域で成り立つと思うので是非頑張ってほしい。
東北大学大学院
伊藤幹
もし家の近くの公園が売りに出されたら・・・例えばすべり台は部屋の入口として、ジャングルジムは図書館として、砂場は喫煙所としてなど。ひとつの都市公園をひとつの住まいとして捉える想像力豊かな提案。
【講評】
すでにみんなのものであるはずの公園を、新たにどう使うかという視点が面白い。私有財産ではなく最初からパブリックにシェアされているものを、どう使い方を変えるかという視点が面白く評価した。
以上
最優秀賞『組み替えられる住宅』模型