昭和戦前期に建てられた別荘建築「陽明館(ようめいかん)」は、初島・伊豆大島を前面に望む熱海の景勝地に建ち、楼閣風の二階・和洋折衷様式など、近代別荘建築の普及の様相を示しています。製紙系財閥の別荘として建てられた「陽明館」は、その後数度のオーナーチェンジを経ながらも、今日まで使い継がれて来ました。
リノベーションに際して、建物の歴史的特徴の継承は勿論のこと、長期的な維持管理や劣化対策、安全性の確保、そして現代の機能的なニーズへの対応が必要となってきます。
本改修では、大規模修繕や耐震補強、建築時意匠の復元に加えて、水廻りの設備仕様も変更。昔ながらの続き間を次世代の交流の場として有効に活用していくことを前提とした計画を行なっています。照明については、電気の無い時代に形成されたかつての和室空間の良さを体感できるよう、行灯等の地明かりや間接照明を中心として計画。また、複雑な屋根形状と落ち葉の多い山間地であることから、手入れのしやすい部分以外は雨樋を極力設けず、屋根瓦を保護する捨て瓦の設置や建物周囲への雨落ち溝の整備など長期的な維持管理のしやすさを考慮しています。
歴史的価値を有する建物を、より永く継承して行く為に。保存ではなく『つかい継ぐ』為のリノベーションです。
BEFORE
昨今は歴史的価値を有する建物でも、維持管理に関わる諸般の事情から解体される場合も少なくありません。この「陽明館」も、前面道路の拡幅と老朽化を理由に解体の危機に晒されていました。
所有者から保存の可能性について相談を受けた設計者が現地調査を行なったところ、なんと、かつて設計者の祖父が所有していた建物であったことが判明。当時の写真から変わらぬ姿で現存していることに強い感銘を受けました。所有者は、今後もこの建物を継承していきたい、との強い想いから、今後もこの「陽明館」を単なる保存ではなく次世代へ『つかい継ぐ』ことを決断しました。