コロナ禍を経て、東海部会は受け身の空気が漂い、挑戦の熱は薄れ一体感を失いかけていた。個社の活動は点で終わり、面へと広がらない。請負・再販等それぞれの強みを持ちながら、一社だけで街を動かすには力不足だった。人口減少と空き家増加が進む中、奪い合いではなく、資源を活かし合う「共創」こそが未来の条件だと気づかされた。
そのもとに立ち上げたのが TAP ― 東海アベンジャーズプロジェクト である。不動産、設計、工務店をはじめ多様な事業者が立場を超えて力を束ねる。TAPという名には、一人では解けない課題に対し、異なる力を結集して挑むという意味を込めた。従来の業態の分断を越え、仲間として未来を描く集団として歩み出した。
その第一章としては岐阜・柳ヶ瀬の古ビル再生である。リノベーションを通じ、余白を価値に変える実践を始める。重要なのは用途や業態ではなく、異なるプレイヤーが集まり、共に編集し直すプロセスそのものだ。この挑戦は次の舞台へと物語を広げる序章となる。
TAPの活動は建物再生にとどまらない。これは縮小市場へのアンチテーゼであり、「競争」から「共創」へのパラダイムシフトを業界全体に示す宣言である。これからのリノベーション市場は、共に利益を分かち合い、暮らしの価値を未来につなぐ市場であるべきだ。東海から始まる小さな光が、やがて全国に広がり、新しい希望の連鎖を生み出していく。
BEFORE
かつて岐阜の象徴であった柳ヶ瀬商店街はいま、空き店舗と老朽化した建物が目立ち、街の未来を模索している。その背景には、高齢化や後継者不足に加え、不動産事業者にとっては採算が合わず、建築事業者にとってはリスクが大きいという業界共通の課題がある。誰も手をつけられない遊休不動産は、岐阜だけでなく東海各地、全国のまちに広がっている。私たちは地域事業者への聞き取りを通じ、「商いの灯を絶やしたくない」「次世代に引き継ぎたい」という切実な声に背中を押された。柳ヶ瀬の古ビル再生は、この現実に挑むための象徴であり、業界を横断した協力と共創の連鎖を生み出す布石となる。ここから始まる小さな挑戦が、やがて仲間を呼び込み、大きな流れを形づくる。その一歩こそが、TAP ― 東海アベンジャーズプロジェクトの始まりである。