地元で「こくぞうさん」と親しまれている古刹金生山明星輪寺の参道中腹にある~音をつむぐ宿~縁音(enne)。近くには関ケ原の戦いで、家康が最初に陣をおいた岡山本陣にもほど近い。この建物からも、古えの人々が見たであろう景色が一望できる。その参道沿いで茶屋だったこともある築70年を越える空き家を買い取り、自由に音楽を奏で、人と人のつながりを大切にした宿へとリノベーションをした。その真ん中にあるのがペトロフのグランドピアノだ。利用者が音楽を気兼ねなく楽しめるよう配慮された空間を作った。音の広がりを持たせるために、ピアノの上は吹抜けとなっている。また地元木材で壁を板張りにし宿全体が楽器。そこに集う人はまるで楽器の中にいるかのようなのだ。施主が言った一言が忘れられない。「古いから壊すはダメ。キズがある、これがいいんだよ。」コロナ禍でより進んだ、潔癖、完璧しか受け入れない世の中へのアンチテーゼのような言葉である。ちょっと不細工でも、いい。手をかけてあげれば、いい。人と違っても、いい。庭に草が生えても、いい。そう、人にも物にも自然にも、寛容なのだ。コロナ禍で忘れかけていた、日本人の温かさを気づかされる。やさしさに包まれるリノベーション。リノベーションのもう一つの価値であると思う。朝靄の中、シカが庭に顔を出すそう。「新芽を食べるから、困るんだけどね~」とやさしい眼差しのオーナーの顔が忘れられない。
BEFORE
築70年を越える民家はかつては参道の茶屋を営んでしたが、普通の民家としての間取りで、引き継いだ。
復旧が難しい箇所は減築し、東側の日明るくなうように、陽差しと風通しを取り込めるようにし、テラスや庭もいずれ作りこんでいくようにした。また2階の立派な踏み天井を活かした。いまは製造されてないだろうレトロガラスの入った建具や、立派な板戸は建具職人により再生することにした。