舞台は居室の中心部に堂々と配置したコミュニケーションキッチン。
視線の通うキッチンは自然と会話をもたらす。「なにか手伝おうか?」そんな思いやりの言葉に家事効率も上がる。特筆すべきは、レディメイドのI型キッチンに腰壁とカウンターテーブルを造作したこと。オーダーメイドに比べ、大幅なコスト削減や、納期の短縮、サポートの手厚さを享受できた。
動作空間はあえて小さく、触れるくらいの親密距離を設定。きっかけは「いい雰囲気って何気ない会話から始まると思うんです。」というご主人の一言から。心地良い一体感の隠し味は「ちょっと通らせて。」の言葉の掛け合いの中にあるのかもしれない。収納は使い勝手と防災レジリエンスを意識し、取出しが容易で落下の心配が無いように、低い位置にボリュームを持たせた。
素材はSNSを参考に、ご主人が好みの塩系インテリアを基調とした。白い天井、グレーの壁、黒い家具のグラデーション。同系色でも異なるテクスチャと自然光やスマートライトによる陰影でシーンに応じた雰囲気を楽しむことができる。
ライフスタイルの変化にも柔軟に対応し、従来までのテレビ、テーブル、ソファの構図から脱却。その分ご家族の”道楽”を尊重したデザインとした。
暮らしに大切なのは寛ぎであり温かみ。住まいに愛着を持つことが人生に追い風を送る、そんな”well-being”な価値を提供し続けたい。
BEFORE
食の感度が高い街、渋谷区恵比寿。築50年のマンションの一室。
在来工法の浴室やキッチン、スラブの下に上階の配管、湿気で浮き上がった壁紙。間口6.0m、奥行7.7mのコンパクトな3DK。十字に部屋が分断され、自然光が部屋全体に行き届かない形状であった。
週末に友人を呼んで料理を振る舞う30代共働きのI様夫婦。住宅系デベロッパーの企画部に勤めるご主人は、新居の購入を契機に”新しい住まい”と”暮らし方”について模索しており、2人の小さなお子様の成長や生活の変化に応じて住替えを計画し、将来は田舎暮らしを夢見ているという。
今回、そんなご主人と共に、断熱性能などの快適性やサステナブルを考えた設計はもちろんのこと、”借り手や売り手がつきやすい=人が住みたくなる・使いたくなる”ような、将来価値を取り入れたユーザーインでのプランニングを二人三脚となって思考した。