この話は築48年の賃貸アパート一棟リノベーションに中年男三人組、ガミ(工事管理担当)エガさん(不動産担当)トモッシー(設計担当)が暑苦しくも奮闘した記録である。
建物は20年人の出入りが無い老朽化した状態だったが、解体を進めると建物の骨格となる構造は厚みのあるコンクリートで十分に強硬な作りであることが判明した。「人も建物も見かけによらないな」汗にまみれるその顔に安堵の表情を浮かべるガミであった。
その頃、エガさんは古い建物への評価を渋る銀行やメンテナンスを不安視する管理会社への対応に奔走していた。「48年の歴史は俺にかかっている」折れかけた心をくさいセリフで鼓舞し、強靭な作りといった建物のポテンシャルを根気強く説明することで着実に信頼を勝ち取っていった。
一方、トモッシーの図面を書く手は進まなかった。「ただ綺麗にするよくあるアパートにするだけで良いのか?タイルを貼った洗面台で気分が上がるような、若い世代に住まいの豊かさを体験できるアパートにしてはどうか」トモッシーのくどいまでの熱い想いはオーナーの心を動かし、こだわりの詰まったアパートへと生まれ変わることとなった。
「え?本当ですか?」驚きの知らせに思わず声が漏れる3人。工事完了前にもかかわらず全室の入居者が決まったのである。
「本当にありがとう!乾杯」叫ぶオーナー。生まれ変わった建物を祝した宴は終電まで続いた。(つづく)
BEFORE
「リノベーションは難しい」建物を初めて見た時の正直な感想であった。
築48年の鉄筋コンクリート造のアパートはこれまでに改装を行われておらず、住宅街でその一角だけ昭和49年で時が止まっていた。その圧倒的な外観に立ちすくむ3人の前に現れた高級車、降りてきた強面のオーナーを前に「手を出してはいけない物件だ」と心の中で呟く3人であった。
その建物はオーナーの父親から引き継いだ物件でやがてはオーナーの息子に継ぎたいという想い入れのある建物、しかし予想以上に進んだ老朽化を前に更地にする寸前での出会いであった。あるものを壊してまた作る、物は再び出来上がるがそこにあった想いはもう戻らない。我々の役目は建物を蘇らせて遺すとともに、その場にまつわる想い、思い出も後世に伝えることである。
オーナーの想いで使命感に火がついた中年男三人組。これから待ち受ける困難をこの時はまだ知る由もない。