八千代座や灯籠まつり、質の良い温泉で知られる熊本県山鹿市。当該物件はその山鹿市中心部にあり周辺には、昔ながらの商店や住宅などが立ち並ぶ。ご近所付き合いの残る素敵な街だ。
玄関から続く広縁にこぼれる心地よい木漏れ日を家族の空間に取り入れ、既存時にはなかった空間としての温かみと明るさを感じられるよう構成した。
近年、空き家対策として、家づくりにおいて中古物件購入+リノベーションの選択肢も認知されてきた。その中で、改修に携わる職人や設計者が、良い形で残し、後世に繋いでいきたいと感じる造りや構造も、新築と同様の仕上げ材の中に消えてしまうことを少なくないのではないだろうか。
当該物件はリノベーションの相談に来られる1年前まで、ご主人の祖父母様がご家族で永く大切に暮らされていた。それをお孫様にあたるご主人が受け継ぎ、祖父母様と同じように、ご自身のご家族と永く住まうために始まったこのプロジェクト。
今回のように祖父母・親世代から受け継ぐ場合は特に、そこに根付いていた家族の歴史や伝統を、次に繋げることは文化や環境の保存に大きく影響する。
建築・住宅に携わる上で、住まい手の要望を自分の中に落とし込み、カタチにすることはもちろんだが、リノベーションに携わる上では、さらに優れた建築の技術・伝統を上手く継承していくことも、提案者としての課題ではないかと強く感じる。
BEFORE
築65年の木造平屋建てに、築30年の2階建てが増築された住まい。
平屋部分はふすまで区切られた田の字型の間取りで、食堂や台所に自然光が届きにくく冷たく暗い印象。また、床下の湿度も高く白蟻の被害も受けていた。
一方で、建物内部を見渡すと、昭和初期の細工が美しいガラス戸や照明器具、仏間には家紋入りの仏壇扉、灯籠祭りのモチーフが組み込まれた欄間など、建築された当時の職人の手仕事が光る工芸品が至る所に散りばめられていた。