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受賞作一覧

講評コメント

選考委員長 島原万丈

選考委員長 島原万丈
HOME’S総研所長・リノベーション住宅推進協議会プロモーション委員会委員長

今年で3度目を数えるリノベーション・オブ・ザ・イヤー2015の全体的な印象をひと言で表すなら、「深化」という言葉が適当だろう。昨年のオブザイヤーでは、地方の台頭と対象とするビルディングタイプの広がりから、リノベーションが面的に拡大したことを印象付けられたが、今年は、その広がった平面が高さ・深さの縦軸を延長させたかっこうだ。ひらたく言うと、1つ1つの作品の質が高かったのである。

例えば、北海道において暖房不要の断熱性と気密性を達成し、「省エネリノベーション賞」を獲得した「暖房なしでも暖かいマンション」や、ガラス面が多く断熱には不利な元の建物を次世代省エネ基準以上まで引き上げ、それをエネルギーパスで証明した「井の頭の家」(800万円以上部門最優秀賞)など、性能向上のリノベーション事例が増えた。また、再販リノベーション賞を受賞した「リノベーション済み物件の“新常識”でつくられた住まい」や前述の「井の頭の家」、「はじまりの白」(ノミネート作品)など、従来、価格優位性のみを売りにすることが多かった買取り再販物件にあって、コンセプトを練り上げ提案性の高い作品に仕上げた物件が目を引いた。ほかには、賃貸リノベーション賞の「団地リノベ / コンクリートと無垢の家」では、賃貸リノベーションのビジネスモデルそを見直し、先にテナントを見つけて「斡旋→設計→施工」という手法を採用することで、住み手の要望をプランに反映させることに成功している。無差別級部門最優秀の「DIYⓇSCHOOL」は、有料のスクールで住まい手のDIYスキルを教育するとともに、教室となった公社の団地の空き家5戸を再生するという一石二鳥のプロジェクトである。

さて、このようにレベルの高い作品群の中でも、見事総合グランプリに輝いた「ホシノタニ団地」は傑出していたと思う。郊外住宅団地の空き家問題は、今後ますます大きな社会課題として全国で顕在化してくるはずだが、その再生にあたっては、住宅単体に留まらず地域の再生まで射程することが解法のモデルとなることを、団地の広大な空地を駅前公園としてエリアに開くという鮮やかな手際で見せてくれた。リノベーションという手法が持つ可能性の大きさを証明することで、リノベーションの概念を次のステージまで引き上げた作品と言えるだろう。

これまで、ややもすれば個性的なデザインのみに注目が集まることが多かったリノベーション住宅が、性能向上に取り組み、ビジネスモデルを磨き、社会の課題に対して解決方法を提案する。リノベーションの進化を強く印象づけるコンテストであった。

安達 功 Adachi Isao

安達 功
日経BP社建設局プロデューサー

リノベーションには、物件の美点を愛着の眼差しで見つけ、丁寧に磨き上げる技術とマインドが求められる。800万円以上部門の最優秀作品賞を受賞した、【「特別などこか」へ行かなくても、日常こそが特別な暮らし『井の頭の家』】は、埋もれていた物件の可能性を見出し、この人しかいないと思える適切な設計者をアレンジ。基本性能をしっかり担保したうえで、気持ち良い暮らしができる家を魔法のようにつくり出した。この3年間でノミネート作品のバリエーションは豊かに広がり、レベルも各段に向上した。

それらキラ星のごとく輝く作品群の中で「こどもたちの駅前ひろば『ホシノタニ団地』」が総合グランプリを受賞した。総合グランプリはこの一年間の顔となり、リノベーションの今を象徴する皆の目標となる。

同プロジェクトは団地のリノベーション事業だが、いわゆる住宅リノベーションの枠には収まらない。リノベーションの力によって座間という街全体を根底から変えようと試みる。この意志はエントリーシートにも明確に焼き付けられている。「駅前にずらりと並ぶ団地の姿は座間の街の印象を形作ってしまう。駅前から人の住まわぬ建物が並ぶ街の印象がよいはずがなかった。ただ、そのネガティブな印象は裏を返せば使われ方次第で全く反対の好印象を強烈に打ち出せるということだ」(同作品のエントリーシートより)。

リノベーションという営みを東京大学教授の松村秀一氏は「まちに暮らしと仕事の未来を埋め込むこと」と形容する。未来という言葉を、希望や新しい価値と読み替えてもよい。今年の総合グランプリ受賞作をみると、この定義が現実の営みに重なりつつあることがよくわかる。先日、電車で小田急・座間駅を通過したところ、ホシノタニ団地を背景に、団地内の貸し農園で畑仕事をする数人とその様子に見入る親子の姿が目に飛び込んできた。ここには、暮らしと仕事の未来が、印象的なシーンとして埋め込まれていた。

池本洋一

池本洋一
株式会社リクルート住まいカンパニー SUUMO編集長

初年度はリノベーション黎明期を支えた中核会社が各賞を獲得。2年目の去年は熊本など地方都市の新進気鋭の会社が躍進。そして今年はというと大阪が元気だった。シンプルハウス、アートアンドクラフト、そして2つの賞を獲得した9(ナイン)。

その中でも無差別級を制した「DIYリノベーションスクール」に最大級の賛辞を送りたい。今年の住まいのキーワードを上げたら「DIY」は確実に入ってくるだろう。二子玉川に相次いで2つのDIY専門ショップができ、テレビではDIY女子のワードが躍る。友達を呼んでパーティのようにDIYを行う現象を私どもは「リノベパーティ」と称した。

審査委員長の島原氏の「愛ある賃貸住宅」では、賃貸において壁紙を張り替えたことがある経験について次のような調査結果が出ている。日本3.3%、パリ57.5%。原状回復の義務というガラパゴスルールが生んだ負の副産物。賃貸時代に部屋をいじれないことは、家の購入の際にも影響。中古=ボロイ、新築=キレイという変な常識で家を見立ててしまう。ただ逆に考えればDIY経験者が増えれば「中古+リノベーション」の選択肢を視野に入れる人が増えるということかもしれない。だが入居者側にも課題がある。はじめの一歩が踏み出せないのだ。で、このDIYリノベーションスクール。泉が丘という大阪中心部から遠い賃貸団地が舞台。毎土曜、半年間。5室DIYでリノベしていく。有料にも関わらずチケットは即完売。校長として9(ナイン)の久田さんはやりきった。毎土曜日をこれに使うだけでなくその準備も大変だったはずだ。でも最後に得られたのはかけがえのない仲間と涙だ。DIYを学びたい、ピュアなニーズに真摯に向き合ったパブリックマインドあふれる取り組みに私は感動した。

さて来年期待したいこと。それは住と働の融合、介護、相続、省エネなど暮らし方の多様性、進化に対応する提案だ。社会課題王国ニッポンの未来をリノベーション分野からのチャレンジいって欲しい。

君島喜美子

君島喜美子
扶桑社『リライフプラス』編集部

第1回目の総合グランプリはブルースタジオの手掛けた個人邸、第2回目はリビタの一戸建て再販モデル、そして今回が「ホシノタニ団地」。

リノベーションが、ただ単に古くなった建物を直して住む、というだけではなく、価値観や暮らし方、街やコミュニティさえも変える力を秘めていること、またそのことが徐々につくり手側だけでなく、住み手にも確実に伝わりつつあることによる結果だと思う。

結果発表や講評の際、審査員の皆さんから「(家や建物を)磨く」という言葉が多く聞かれたのが印象的だった。大胆な間取り変更やコンセプチュアルなデザインを競い合うのではなく、その先、その上のレベルで競い合う段階まで、すでに来ているからではないだろうか。

今回、再販モデルの充実ぶりも印象に残った。『リライフプラス』では年間70軒以上の個人邸を取材しているが、購入した物件がリノベーション済みのものだったというケースは多い。

いわゆる現況の物件を紹介するサービスに力を入れることももちろん大切だが、
もう少し踏み込んだ(でも決してやりすぎない)リノベーションを施した物件は確実にニーズがあるのではないかと常々感じていた。

「再販賞」を受賞した「リノベーション済み物件の“新常識”でつくられた住まい」はそうしたニーズにいち早く着目し、取り組んでいる点が評価されたのではないだろうか。

審査員を務めるのは今回で3回目となるが、様々なメディアの方たちと議論しながら審査するプロセスはとても楽しく、同時に緊張感もある。良い作品をきちんと評価できるよう、自分自身の知識やセンス、情報をキャッチする力を「磨く」ことも頑張らなくては、と改めて感じている。

坂本二郎

坂本二郎
株式会社第一プログレス『LiVES』編集長

1回目、2回目では空間構成や仕上げといった点に審査の目が向いていたが、3回目となる今回は、作品の幅が広がり、プレゼンテーションや、リノベーションの定義そのものに関する議論が多かったように思う。

今回、気になった点は、オブ・ザ・イヤーに輝いた「ホシノタニ団地」を始めとする社会性の強いテーマの作品が増えたこと。もうひとつは、設計、施工の枠を超えた、新しいリノベーションの関わり方を感じさせる作品が見られたことだ。

アートアンドクラフトの「守口の長屋」は、既存の長屋の「雰囲気を極力壊さない」ことをテーマにしたリノベーション。劇的な変化を期待するリノベと対峙するような、新しいつくり手の立ち位置を感じた。ユニークな関わり方では、事業者が先生となった9株式会社の「DIYスクール」もしかり。

社会性という点ではブルースタジオの「ホシノタニ団地」がひとつ抜けた印象だったが、老後の賃貸収入を考えて、2,3階を賃貸にしたという同社の「BOTAO」も、都会での空き家問題につながっていくテーマなのでは? とふと思った。立地や環境は良くても活用されない空き家は、今後都心でも必ず増える。「BOTAO」は空き家ではないが、その前段階となる都心型のスタディとして捉えることもできるのではないだろうか?

このように、リノベーションの領域の広がりを感じさせてくれた今回のアワードは大変見応えがあった。一方、つくり手の関わり方が多様化していく中、どの部分をもってプロとしてマネタイズしていくのか、なかなか難しい時代になってきたなという印象も受けた。

指出 一正

指出一正
株式会社木楽舎 月刊『ソトコト』編集長

今回、ゲスト審査員として初めて参加させていただいたリノベーション・オブ・ザ・イヤー2015は、雑誌『ソトコト』の視点からも、ほんとうに社会や環境の未来を感じさせてくれる、輝く作品がたくさんあった。

800万円未満部門の最優秀作品賞を受賞した「守口の長屋〜まるで露天風呂」は、築45年のその住まいのこれまでの記憶の積層をしっかりと残しながら、新たな住まい手によるこれからの暮らしの可能性を広げてくれる価値観とユーモアを加えていて、「僕ももちろん、ソトコトの読者のみなさんは、きっとものすごく好きだろうな」と思った。生物学者の福岡伸一先生が言うところの、その存在(あるいは記憶)が変わらないために変わり続ける「動的平衡」にも通じた作品だった。

また、土地の多様性に寄り添ったものとして、省エネリノベーション賞を受賞した札幌の「暖房なしでも暖かいマンション」も、すばらしかった。北の住まいらしい工夫に惚れ惚れしていて、リノベーションが多様性への対応に向いている分野だということを強く感じた。外部気温がマイナスでも、中は18度をキープするその断熱性能。温室効果ガスと気候変動の問題をどうにかして解決しなければならないいま、電力などのエネルギー消費も格段に少なく、快適な暮らしを保ちつつ、地球環境に負荷をかけないその取り組みを評価したい。

総合グランプリを受賞した「こどもたちの駅前ひろば『ホシノタニ団地』」は、まさに各地で喫緊の課題となっている地域コミュニティの再生や人と人とのつながりづくりに関して、リノベーションができる可能性と現実性をかっこよく提案してくれている好例だろう。ここでもやはり、「土地の記憶」「部屋の記憶」が、新造のみでは生み出しきれない、新しい磁力の隠し味となっている。

言葉というものはいきもので、その時代時代の空気が、必要な行動のための言葉の背中を押してくれる。そういった意味で、リノベーションはいまいちばんかっこよく、誰もがわくわくする未来を感じさせる言葉だろう。リノベーションができることが、部屋の小さな部分やそれぞれの家から、僕たちの町へとさっそうと広がっているように思う。

徳島久輝

徳島久輝
iemo株式会社 『iemo』コントリビューター

本年度の審査を通じて感じたことは、リノベーションが扱うテーマが広がっていることと、奥行きが深くなってきていること。

グランプリの変遷をみるとそれがわかる。一昨年はマンションの一室、昨年は戸建て、そして今年は駅前団地を再生した「こどもたちの駅前ひろば『ホシノタニ団地』」(株式会社ブルースタジオ)が受賞した。

リノベーションは、一家族の生活だけではなく、ひとつの街、そして社会をも変えうる力があることが示されたように思う。

これをテーマの「広がり」とするならば、「奥行き」の深化を感じたのは、施主の「欲望や欲求」を徹底的に掘り下げ、形にし、官能的R1賞を受賞した「あなたらしく。ファッションのように」(9株式会社)。エントリーシートにある「家はファッションよりその人そのもの。」という認識がしっくりくる。部屋の写真をSNS等で投稿する人が増えている中、施主が家を「自分を表現するもの」と捉えれば捉えるほど、これまで以上に施主を深く理解し、形にすることが求められてくるだろう。

視点を変えて、作品のプレゼン面で言えば、ビジュアルの「進化」が心地良い。500万円未満部門最優秀作品「ノスタルジック秘密基地」(株式会社シンプルハウス)のメインビジュアルは、施主のお子さまが何気なくキッチンに立っている、ありふれた日常の一コマを切り取ったもの。住まいのプロであれば竣工写真からすべてを想像出来るかもしれない。でも一般の方はそうはいかない。空間に家具が入って、さらに人気(ひとけ)を感じてはじめて自分ごとにできる。そんな「リアルな暮らし」を切り取るような表現はもっと広がればいいと思う。

リノベーションには想いしかない。家族がもっと幸せになれるように。自分がもっと自分らしくあれるように。この街がもっと素敵になるように。リノベーションに関わるすべての人の「想い」が、これからもリノベーションの可能性を広げてくれると信じている。

八久保誠子

八久保誠子
株式会社ネクスト HOME'S PRESS編集長

第3回目を迎えたリノベーション・オブ・ザ・イヤー2015。
今回、はじめて審査員として参加させていただいたが、感心したのがエントリーを含め、そのリノベーション事例の範囲の広さであった。

株式会社ブルースタジオの「ホシノタニ団地」は、駅、まち、団地そして住民との新たなコミュニティを創り出す…という従来のリノベーションを超えたスケールでみごとグランプリを受賞。

特別賞で表彰させていただいた9株式会社の「あなたらしく。ファッションのように」は、誰のためでもない、個人の満足度に振り切った“ザ・リノベーション”。

棟晶株式会社の「暖房なしでも暖かいマンション」では、築27年のカビだらけのマンションを、北海道という地で常に18℃を保つ部屋にリノベーションした“住むほどに実感する快適性”を実現させている。

さらにもうひとつ株式会社ブルースタジオの「BOTAO-賃貸収入を得て、老後を楽しく過ごしたい-」は築44年の"RCの3階建の一戸建ての家”を見事賃貸併用の住宅に変え、大家である施主も借主も満足するプランニング例として秀逸であった。

この審査を振り返って、改めて「リノベーション」のもつ拡がりと意義を感じる。単なるハコの再生だけでなく、あらゆる文脈での「再生」が、内と外に感じられた事例が多数見られた。

施主・市場・社会のニーズと、心ある優秀な“リノベーションプレイヤー”との間に、確実に大きな潮流が生み出されつつある…ということを強烈に感じるコンテストであった。