







「南向き=良好」という不動産評価や、物件の弱点を補い平均へ近づける買取再販の定石に問いを投げかけた。価値として見出したのは、大きな北窓から届く穏やかで安定した光。その光を南向きのように補正するのではなく、この住戸固有の魅力として磨き上げる設計を目指した。
北側にLDを広く取り、個室で分断されていた光を再構成。京都・綾部で手漉き技法を継ぐ「紙漉キハタノ」の黒谷和紙を壁・天井に用い、障子やバイブレーション仕上げのステンレスと組み合わせた。和紙は光を強く反射せず、繊維の中で受け止めて柔らかく拡散する。光を増やすのではなく、その質を整え、時間とともに移ろう陰影そのものを暮らしの価値へ変えた。
同時に、和紙をめぐる農家、紙漉き職人、道具職人の循環は、生産量の減少とともに継承が難しくなっている。伝統を保存対象にするのではなく、現代の住宅で使い続けることで次代へつなぐことも、この協業のもう一つの意味である。
南青山の「静」の文脈に、北窓の光と手仕事の温もりを重ねる。弱点を覆い隠すのではなく、一戸ごとの条件を深く読み、その個性を新たな価値へ変える。方角や光量だけではない住まいの評価軸と、伝統素材の新しい居場所を同時に提示する一戸。
BEFORE
表参道の賑わいから一歩奥へ入った南青山。初めて住戸に入ったとき、私たちの目に留まったのは、大きな北窓から届く穏やかで安定した光だった。一般的な不動産評価では「日当たり」の面で不利とされやすい北向き。しかし、直射ではないその光には、長い時間を通して空間を静かに包む心地よさがあった。
この住戸を南向きのように明るく“直す”のではなく、この光だからこそ生まれる豊かさを伸ばせないか。そこで着目したのが、かつて障子越しの光として暮らしに身近だった和紙。光を柔らかく受け止める素材の力と、手漉きの文化を現代の住空間へつなぐ紙漉キハタノの思想が重なり、北窓の光を起点とする計画が始まった。

