







耐震補強なのに、床を抜いた。
壁式構造である本建物では、床を抜いて建物重量を減らし、吹抜けをつくることが耐震性の向上につながります。その発想が、このリノベーションの鍵になりました。不動産として考えれば、床面積は多い方がよいです。しかし、この建物ではその常識とは真逆に、床を減らすことから価値をつくることを選択しました。
そこで20戸あった住戸を8戸に減らし、床を取り除いて3層の吹抜けをつくりました。さらに、決して潤沢ではない事業費の中で、吹抜けをすべて仕上げ切ることはしませんでした。既存コンクリートや荒々しい仕上げを残した、内部でありながら自然の中にいるような不思議な余白。それが「カスタマイズルーム」です。使い方を決めすぎないことで、居住者が使い方をつくり、暮らしを広げていくための「関わりしろ」が生まれました。
増やすのではなく、床を減らす。
新しくつくるのではなく、残す。
「抜いて、強くする。」
減築という一見逆説的な選択から、耐震性と新しい暮らしの価値を同時につくり出しました。
BEFORE
築52年のRC壁式共同住宅。1棟をワンオーナーが所有し、20戸の住戸を抱えていました。都心周縁部には、こうした築古の共同住宅ストックが数多く残されている一方、建替えには大きな事業費が必要となります。先代からこの建物を受け継いだオーナーが求めたのは、建物を解体して新築することではなく、今ある建物を地域のために残し、活かすことでした。そこで、構造家との協議を重ねながら既存建物の可能性を検討しました。さらに、法制度を設計条件として読み解き、建築基準法上の「大規模の修繕」に該当する範囲を見極め、建築確認が必要となる改修を避ける方法を模索しました。既存建物を活かすために、構造と法制度の両面から「何を残し、何を変えるか」を考える。その結果たどり着いたのが、建替えではなく「減築」という選択でした。これは一つの集合住宅の再生であると同時に、築古RC共同住宅ストックを未来へつなぐための一つの解決策です。

