







このプロジェクトは「自由設計」ではない。いわゆる「再販」でもない。目指したのは、その中間の選択肢。エンドユーザーにとって、ゼロからの住まいづくりには時間も労力もかかるが、それを建築士が引き受ける。
tsuguieは設計事務所がディレクションする住まいのブランド。建築士が条件の整った物件を選定し、次世代に引き継ぐ価値ある住まいへと再生する。物件選定を進める中、窓辺に緑を望む見晴らしの良い一室に目が留まった。それを眺める造作のソファベンチをリビングに設えるというイメージが浮かんだ。断熱改修しやすい中間住戸であることも決め手となった。
団地で典型的な3DKの間取りはワンルームに。家具やカーテンでライフスタイルに合わせて空間の使い方を変えることができる。マテリアルには、刷毛塗りの塗装などDIYしやすく経年変化を楽しめる素材を選んだ。すべてを作り込むのではなく、住み手が理想の状態を思い描けるような余白を残した。水回りも刷新し、家事や子育てもふまえて現代の暮らしにアップデートした。
建築費が高騰し、住宅購入者に共働きの忙しい世帯が増える中、自由設計へのハードルは高くなっている。一方、再販の市場ではスピードや効率が重視され、品質の高いものや、個性のある住まいはごく少数だ。住宅の規格化が進む時代だからこそ、建築士の目利きと技術で愛着を持って住み継ぐ選択肢を増やしていきたい。
BEFORE
1971年に竣工の南長津田団地は、高度経済成長期の住宅不足解消のため大量供給された集合住宅の一つで、総戸数は488戸にのぼる。郊外ベッドタウンの駅遠物件は、建築費と用地取得費の高騰を背景に、大手デベロッパーからすればポテンシャルが低いといえるだろう。こうした開発の目が向けられない物件にこそ小さな事業者が挑む余地がある。
敷地内にはゆったりと建物が建ち、公園や豊かな緑があり、昭和ならではのおおらかさがある。築50年を超えるが、壁式RC造のため新耐震基準適合証明が取得可能で、耐震性も担保されている。
内装は長年手を入れられず古めかしい状態だった。レトロなエンジ色の玄関タイルや、トイレの型板ガラス、6畳の和室など現代の感覚でも魅力があるものは残し、新しい部分とも調和するようデザイン検討を進めた。建物が持つ過去のストーリーを活かした遊び心のある住まいに仕立てた。

