







建築設計者夫婦の暮らしと仕事が重なる自宅兼仕事場。 既存に残っていた特徴的なタイルや、解体であらわれた曲げ加工の火打梁、木の架構など、今では見られない職人の手仕事の痕跡を設計の出発点と捉え、引用したデザインを重ねながら新旧が調和する空間とした。 使うものはこの家に残っていたものだけではなく、前の住まいの嵌め込み式フローリングや、リメイクを前提に製作していた家具も持ち込み、寸法を調整して再利用している。 近年工事費が高騰するなか、解体とリユースをベースに既存資源を活用した。片面張りの下地兼仕上げの壁、置くだけの床材、露出させた配線や照明、木の角材を並べただけで取り外せるタイル目地。こうした簡易なつくりはコストを抑えるだけでなく、設計業務で試したい仕上材や造作を日常のなかで検証できる場でもあり、その日の気分で仕上材を変えられることが、住みながら空間をつくり続けるような日々の楽しさにもつながっている。 この手軽さは、そのまま次の住まい手の自由度でもある。仕上げは容易に取り外せ、片面張りの壁は造作や設備の移設も行いやすい。いまはカーテンで仕切った寝室も、将来個室にできるよう合板はすでに切り出してある。自分たちのための検証の場でありながら、次の住まい手は仕上材を置き換えるだけで好みの空間をつくることができる。あるものを使い切り、また次へ渡していく。住み継がれることを前提とした改修である。
BEFORE
東京都杉並区の1982年築の戸建てを2025年にフルリノベーション。数年前に所有者が変わった際のリフォームで建物の状態は保たれていた。内見時に竣工当時と思われる意匠的なタイルや下足箱など印象的な要素を見ながら、前の改修に覆われたものが他にもあるのではないかと考えた。
加えて、以前の所有者による耐震診断と仲介不動産のインスペクションの書類が残っていたことも判断を後押しした。着工前に手を入れるべき箇所が分かっていたことで設計の判断が早く、解体後に発覚する想定外の出費もほとんど生じなかった。予算の多くを、直すためではなく暮らしをつくるために使えている。
解体は、壊す作業ではなく、残すものを選ぶ作業だった。前の改修で覆われていたもの、竣工時から変わらないもの、手を入れる必要のないもの。ひとつずつ判断していくことが、そのまま設計になった。

