







1年かけて選んだのは、下町らしい個性が残る東側のエリア。築46年の中古マンションは、水回りは狭く、構造上変更できないという制約があった。テレワークが日常となった今、家は眠る場所ではなく、働き、くつろぐ拠点。転勤を重ねてきた二人が、初めて「二人らしい基地」をゼロからつくろうとしていた。
目指したのは、ものを隠し、視線を整えることで、暮らしそのものを静かに見せる家。リビングとキッチン・ダイニングをあえて分け、リビングにはお気に入りのパーソナルチェアを2脚だけ。ラウンジのような、余白のある空間に仕上げた。
一方、広く確保した寝室には、大きなベッドとデスク・収納を一体化した造作家具を配置。働く場所を暮らしの中に自然に組み込んだ。この家具は、二人の地元・飛騨の家具屋「飛騨フォレスト」に依頼。転勤で故郷を離れて暮らしてきた二人にとって、木のぬくもりが故郷とのつながりを感じさせる。
さらに、玄関そばのウォークスルークローゼットに洗濯機を移し、「洗濯機は洗面室にある」という常識を外すことで、水回りにも余裕を生んだ。
何度も住む場所を変えてきた二人が、ようやく手にした、故郷とつながりながら二人の時間を育てる家。変わり続ける暮らし方や働き方に寄り添う、新しい住まいのかたちである。
BEFORE
好きだった街を、二人はいつも手放してきた。同級生だった二人は結婚後、夫Nさんの転勤で静岡、北海道、そして東京へ。そのたびに妻Mさんは住み慣れた土地を離れ、新しい街に暮らしを合わせ直した。
出身は、緑に囲まれた岐阜県飛騨地方。「人が多すぎる都会は暮らす場所ではない」というのが、もともと東京へのイメージだった。けれど住んでみると街ごとに表情が違い、いつしか「住みたい街」に変わっていった。転勤族が珍しくないいま、住む場所を選び直せることは、実は大きな一歩でもある。

