







1990年に建築家・佐藤尚巳氏によって設計された本住宅は、八角形の吹抜けや大広間、大谷石や希少な蛇紋岩を用いた素材構成など、唯一無二の空間体験を備えた住まいである。本計画で向き合ったのは、「この名建築にどこまで手を加えてよいのか」という問いだった。私たちは新たな意匠を重ねるのではなく、建築の骨格やその場に流れる空気感を読み解き、その価値を未来へ継承することを目指した。
象徴的な吹抜けや空間構成はそのままに、暮らし方を現代に合わせて再編集。閉鎖的だったキッチンは家族の気配を感じながら過ごせる対面キッチンへと刷新し、ランドリールームやシューズクロークを新設することで日常の使い勝手を向上させた。また、床暖房の導入、断熱性能の向上、ガラス屋根の更新、浴室・トイレ・シャワーなどの設備入れ替えに加え、既存の印象を尊重しながらカーペットやタイルも更新。空間の魅力を引き出す照明計画によって、建築が本来持つ存在感をより際立たせている。
更新したのは暮らしの性能であり、継承したのは建築体験である。名建築を保存するのではなく、住み継がれる建築へと進化させること。その答えを探ったリノベーションである。
BEFORE
築36年を迎えた本住宅は、設備機器や内装の老朽化が進む一方、八角形の吹抜けを中心に構成された空間や、30帖・天井高約8mのシンメトリーな大リビング、大谷石や希少な蛇紋岩を用いた素材構成など、建築家の思想を色濃く残していた。しかし収納不足や設備の老朽化、水回りの使い勝手など、建築が持つ空間的魅力に対し、生活空間としての実用性には課題が残されていた。多くのリノベーションが「何を新しくするか」から始まるのに対し、本計画は「何を残すべきか」から始まった。そこで必要な要素は更新しながらも、建築の核となる空間構成には極力手を加えない方針を採用した。一方で、躯体現しによって仕上げと構造が一体化した建築であったため、設備配管の更新や内装改修には高い施工精度と慎重な検討が求められた。

