







原初の骨格を抽出し、構造の役割を新しい骨へ継ぎながら、古い骨を時間の痕跡として建築の内外に顕現させる。
地域でもひときわ長く生き永らえ、江戸時代から9代にわたり受け継がれた旧母屋。建物の限界を理解しながらも、施主には「自分の代で終止符を打ちたくない」という思いがあった。地域の年長者たちのまなざしにも、母屋を残してほしいという無言の期待を感じていた。
周囲から見ても旧母屋が永くここにあったことが伝わる姿にしたい。その記憶を強く宿していたのが、柱や梁といった木の骨格だった。そこで、増築を重ねた建物を、時間を巻き戻すように減築し、原初の寄棟架構を抽出した。
割れや腐朽を抱えた骨格に、これからの構造性能を担わせることは難しい。古い骨は痕跡として残し、構造の役割は新しい骨へ継ぐことを考えた。既存架構の外側に新設屋根を、内側に新設外壁を置き、二つの骨格をずらすことで、古い骨が室内にも外観にも現れる構成とした。
構造としての役割を終えた骨格だが、時間の伝え手としては、より強く立ち現れる。この二つの役割を分けて考えることで、朽ちた木造を継ぐ新たなあり方を探った。
かつて製菓学校に勤めていた施主は、隣地からここに通い、菓子をつくり、自分のペースでときどき店を開く。地域の人がふらりと立ち寄る、小さなお菓子屋さん。建物だけが延命するのではなく、施主も次の時間を歩み始めた。
BEFORE
増改築を重ねた茅葺き屋根の木造平屋。残すことを決めた原初の寄棟架構は大きく歪み、土台は全面的に腐朽。柱や梁にも割れや傷みが見られた。
解体後、骨格全体を約1m持ち上げて建て起こし、土台を更新。傷んだ柱は根継ぎした。露出した骨格を3Dスキャンして点群化し、新設架構との干渉を調整してプレカットへ反映した。
レンジフード、ランプシェード、スイッチプレート、作業台天板等のSUS製品は町工場へ発注。新旧二つの架構が並ぶ上部の密度を受け、ノイズを抑えた意匠の統一とコストバランスを両立した。
建物用途は第一種低層住居専用地域のため店舗単独とせず、継承も見据えた店舗兼用住宅。割れた既存梁を吊るように支える新設架構を挿入し、内部は4×9mの無柱空間とした。
中央の作業台は可動式とし、設備や収納を外周に集約することで、菓子工房から住まいへ転用できるワンルーム+水廻りに計画した。

