







玄関ドアを開けた瞬間に目に飛び込む、まっすぐに伸びる幾重の線。それが、この物語の始まりです。細長い住戸を貫く一筆書きのルーバーが視線を奥へと誘い、空間を実際よりも高く、深く魅せます。水回りや寝室までも縦断し、住まい全体に美しい一体感を生み出しました。
リビングへ進むと、二羽の鳥が羽ばたいて出会うかのような天井が広がります。落ち着いた濃淡2色のブラウンのルーバーは、実に192本。折り上がる稜線には、FRPで特注した三角形の照明を仕込みました。トップライトから差し込む光は、空へと繋がっているような錯覚を抱かせます。この「つがい」のモチーフには、街に生かされ支え合ってきた100年企業である施主の想いを込めました。
本プロジェクトは、限られた予算のなかアイデアでどこまで価値を最大化できるかという挑戦でした。打ち合わせを幾度も重ね、既存の構造を活かし間取り変更を最小限に留める設計を採用。解体や施工時の廃材を抑え、環境にも配慮した空間を実現しました。
昨今の資材費高騰を乗り越え、賃料1.6倍という成果を収めています。「低コスト・エコ・施工性の高さ」を兼ね備えたこの部屋は、完成形ではなくオリジナルモデル(原型)です。もっと気軽に、もっと身近に誰もが再現できる持続可能なリノベーションのモデルとして、我々は新たな可能性を提示していきます。
BEFORE
東京・赤羽橋。右も左も東京タワーのお膝元であるこの場所に外国人観光客が押し寄せるようになった昨今、古いものと新しいものが穏やかに共存するこの街で、クライアントが一棟を所有し、時を刻んできた賃貸マンションがあります。その中の一室が、今回の舞台です。飴色を帯びたフローリングに、白い壁、淡いクリーム色のキッチン。あたたかな暖色でまとめられた、まさに90年代の住まいらしい標準的な設えでした。この住戸の個性は、玄関から奥へと約11.5m、まっすぐに続く細長い間取り。伸びやかなこの奥行きこそ、大きな可能性を秘めた"余白"でした。フラットで、これからどんな表情にも生まれ変われる余地がある。街とともに歩んできた一棟の、その最初の一室から、賃貸住宅の新しいかたちを描けるか。既存の構造を丁寧に読み解きながら、限られた予算のなかで、どこまでバリューアップ出来るか——ここから、ひとつの挑戦と物語が始まります。

