







神戸・塩屋。洋館が点在する海辺の町の、海に面したマンション7階。眼前に海と空だけが広がる希少な立地だが、築古ゆえに天井は低く、窓もやや小さい。窓は広げられない。ならば発想を反転し、「天井に海を映す」ことにした。鏡面まで磨き上げた金属に3D曲げ加工を施した水面状のパネルを、海の青が最も映り込む角度に計算して配置。窓から離れた場所にいても、頭上につねに海が揺れている。圧迫感のあった梁は、側面にミラーを貼り存在を消した。
意匠だけではない。最上階の熱負荷に対し天井の断熱を補強し、開口部はすべてカバー工法でアルゴンガス入りペアガラスのアルミ樹脂複合サッシへ更新。別荘の開放感を、一年を通じて快適に享受できる。
クライアントは無垢材家具の製作会社を営む方。床材・建具・造付け家具はすべて自社木工所で製作し、コストを大幅に抑えながら、空間と家具の完全な調和を生んだ。間仕切りを極限まで減らし主寝室とLDKを一体化した約30帖のワンルームは、家具のギャラリーとしても機能する。
天井が低く窓が小さい築古マンションは、全国に無数にある。眺望という眠った資産を「映す」ことで起こすこの手法は、そのすべてに応用できる。窓の寸法は一切変えていない。それでもこの部屋は、以前より確かに海に近い。
BEFORE
眼前に海が広がる、7階の希少な住戸。しかし室内に入ると、その海はどこにもいなかった。
建築当時の基準でつくられた天井は低く、海をのぞむ窓は現代の感覚では小さい。細かく仕切られた間取りが窓からの光と眺望を各室で堰き止め、海を感じられるのは窓辺のわずかな範囲だけ。奥の部屋は昼でも薄暗く、最上階ゆえ夏は暑く冬は寒い——立地の価値と、住まいの実力が釣り合っていない状態だった。
「海と空だけが見える」というこの部屋の最大の資産は、間取りにも、性能にも、まだ一度も活かされていなかった。

