かつての直線的な空間は姿を消し、柔らかな円弧が家族の時間を優しく紡ぎ出す、光に満ちた住まいが生まれました。その中心で空間全体の調調を奏でるのが、ワークスペースとリビングを繋げる造作の室内窓です。LDKの建具とつながるこの円弧デザインは、住まいに「静と動」という二つの豊かな表情を与えます。
一つは、窓を閉じた時の静謐な表情。仕事への集中を促すように、連続する一定のアーチがLDKの建具と連なり、空間に落ち着きをもたらします。そしてもう一つが、窓を開け放った時の動的な表情。家族との会話が飛び交う瞬間、スライドした窓枠がリズミカルな陰影を描き、奥のワークスペースへと視線と気配が抜けることで、空間全体に伸びやかな一体感が生まれます。
窓の開閉がもたらすのは、繋がりとプライベート、機能と美しさの完璧な調和。それは、家族が日々を心地よく過ごすために不可欠な「ちょうどいい距離感」そのものなのです。
そして、室内窓から始まった一つの円弧は、まるで波紋のように壁面やキッチンの収納扉、天井やTVボードや玄関など家じゅうへと広がり、空間全体を優しく包み込んでいきます。
その美しいデザインの連鎖は、まさしく建築を愛する施主の強いこだわりがあったからこそ。その想いが一つひとつを形にし、この心地よい空間の対話は完成しました。
BEFORE
築28年、88㎡。それは、どこにでもある直線的で硬質な間取りのマンションでした。長く暗い廊下が光を遮り、壁が空間を細かく分断。それぞれの部屋は孤立し、家族はお互いの気配を感じにくくなっていました。
「ありきたりなリノベーションでは満足できない」。建築に深い知見を持つ施主が求めたのは、単なる刷新ではなく、家族の繋がりを感じれる空間でした。直線が生んだ分断を、柔らかな曲線で融和させ、この家に温かな一体感を取り戻したい。
しかし、目の前には既存の間取りと予算という大きな壁が。ありふれた住まいに、誰も見たことのない柔らかな繋がりをどう紡ぎ出すか。私たちの挑戦は、施主のその強い想いから始まりました。