宿泊施設としての整備ポイントは、
*大正期の雰囲気を損なわないこと
*讃岐に縁のあるものを散りばめた宿にすること
間取り改造は、町家の2階部分の客室3室の区画+平屋建増築部にある水まわり(トイレ・浴室・厨房)のみの最小限に。
2階は襖で仕切られた続き間を欄間を残しつつ真壁風の壁で区画(和・灯)。二段ベッドがある(波)は一部壁を立てて客室動線を確保。ただし付加した壁は、撤去して襖を立てれば元に戻せるように設置して、歴史的価値の保存に配慮しています。断熱補強は、天井と床に断熱材を敷設。既存建具は、外側に複層ガラス建具を付加したり、室内側に障子を追加したりして建具の複層化による熱環境向上を実施。真壁造の壁は、既存意匠保存のため断熱を見送りましたが、隙間塞ぎ等の気密性UPを施しました。耐震は当初評点1.0を目指していましたが、隣接建物(別所有者)と構造を共有していることが工事中に発覚。一部を固めすぎると、強い引抜き力が躯体にかかり危険性が増すため、金物補強を中心に適度な壁倍率の耐力壁を分散設置して評点0.7程度に留めました。
中庭は、部屋からの目線・バランスを考慮して既存を活かし再生。竹垣等は傷んだ部分のみ繕い、池は復原しました。その他、小豆島の醤油桶の技法で制作した檜風呂、地元作家のミラー、盆栽が置いています。
大正を感じつつ現代の地域文化も感じる、古くて新しいまちやどです。
BEFORE
旧高松藩主・松平氏の菩提寺 法然寺へと続く門前町のお成街道沿いに建つ大正7年(1918)建築の町屋を改修して宿泊施設へコンバージョンするPJ。
前所有者との縁がつながり、町屋を引き継ぐことを決めた宿主の要望は、大正期建築の間取りや空間構成、瀟洒な細部意匠を活かしつつ、讃岐の魅力がつまった門前町のまちやどへと改修すること。「寒くてしょうがない」が良しとされてきた古民家ホテルの性能アップをいかに図るか。
後世へ引き継ぐために大幅な改造をよしとせず、「ミニマムインターベーション(最小限の介入)」と「リバーシビリティ(可逆性のある足し算的な改修)」の考え方で改修計画を立て、浴室・厨房等の必要な設備は、増築されていた奥側建物を積極的に改修して整備。
一時は「まちの交流施設」として利用され、地域の方に馴染み深い建物。改修後のお披露会で「どこが変わったか判らない」という嬉しいコメントも飛び出した。