市営住宅のあり方を、団地の経験値で解く

マンション  /   エリア:兵庫県  /   掲載日:2025-09-12   R mark

マンション  /   エリア:兵庫県

掲載日:2025-09-12  /   R mark

いいね!と思ったら、
ハートをクリック! 360

renovation image

芦屋市の市営住宅・大東町住宅の長年空いていた一室が、500万円で「暮らしの質」を担保できる住まいへと変貌を遂げた。

当物件のミッションは「若者・子育て世帯の入居」。調理しながら子どもの様子を見守ることができる対面キッチンを備えた開放的なLDKは、リビングの床に兵庫県産杉の無垢材を敷き詰め、見た目も香りも心地よい空間に。一方、各室の扉や玄関収納の建具、洗面やトイレの壁はネイビーに統一し、シックな雰囲気。いい意味で市営住宅らしくない住居が完成した。

当社の団地リノベの経験値から、低予算であっても外せなかったのは、換気・断熱・防音による住環境の改善である。全ての窓を二重サッシにしたことで断熱性能が向上し、窓を閉めれば子どもの騒ぐ声が外に漏れにくい防音効果を実現。洗面・浴室には新たに24時間換気を確保し、団地特有の湿気やカビのリスクも抑えた。住宅困窮世帯が暮らす市営住宅にこのような住環境を整えることは、光熱費軽減やウェルビーイングにもつながり、本質的に“市民によりそう住宅”になり得ると考えた。

8月から始まっている来年度の入居募集は順調で、問い合わせも多い。心地よい暮らしを育んだまちには愛着が生まれ、次の住まいを地域内に選ぶ傾向も強い。その流れができれば、まちは多世代で賑わい続けるだろう。入居した家族にとって、ここでの暮らしが地域定着の「入り口」になることを期待する。

BEFORE


before image

築38年の芦屋市営大東町住宅では、エレベーターがない棟の3階以上でファミリー向け物件の空室率が高く、高齢化率50%を超える状況が続く。市はこれらの物件において「子育て世帯が住みたくなる家」へのリノベを数年かけて実施し、市営住宅の多世代化および将来的な市内定住者の獲得を目指す。初年度は1戸あたり500万円の予算で3戸の提案を募り、当物件を含む当社案が採用された。

取捨選択を迫られる予算だったが、長年団地と向き合ってきた当社としては、住環境の改善は必須と捉え、注力ポイントを対面キッチンの新設と窓断熱、換気計画に絞った。その分、使えるものは残して設計。未使用状態だった個室の内装、洗面台などはそのまま活用し、建具や水回りの壁には色を塗りイメージを一新した。

快適な市営住宅で暮らす家族は、地域にどう定着していくのか。築古の市営住宅への投資がもたらす影響を測る、長い実験の幕開けとなった。

Before

After

    • 部門
    • 800万円未満
    • 間取り
    • 2LDK
    • 費用
    • 500万円(税込)
    • 形態
    • 賃貸リノベ
  • 性能向上リノベ 実施
  • <断熱性能>全窓に二重サッシ(Low-Eペア)追加
  • <耐震性能>該当なし
  • 費用に含まれるもの
  • 水まわり / 居室・その他 / 断熱改修
  • 施主支給設備(費用に含まれないもの)

物件情報


    • 築年月
    • 1989年3月
    • 構造
    • RC造
    • リノベーション面積
    • 67.60㎡
    • 施工期間
    • 2ヶ月
    • 備考
    • UA値:改修前1.14w/㎡k→改修後0.94w/㎡k

CREDIT


  • 委託:芦屋市
  • 設計・施工:株式会社フロッグハウス 代表取締役 清水大介
  • 担当:笹倉みなみ
  • 文:村崎恭子 写真:藤田温