人は何から「安らぎ」を感じるのか。食事・睡眠・休養・趣味・音楽、人ぞれぞれ安らぎを感じる要因は違う。人は生まれながらにして五感を持つ。日常生活では五感を使ってあらゆる情報を得ており、そのほとんどは視覚から得ると言われている。視覚的に安らぎを与えられないだろうか。
安らぎを与えるために自然素材等の仕上材で表現するのはありきたりだ。下地材で工夫してみる。「丸い壁」「丸い天井」の造形を自然光や照明光によって演出する。この造形と光の調和によって「安らぎ」を生む。丸いものは視覚的な安らぎを与えるのだ。
LDK175㎥の箱の中に「曲線の造形」を計画する。丸は丸でもボリューム、径の大きさ、角度、場所によって見え方が変わる。緩やかな曲線もあれば急な曲線もある。均等にする必要はないし、シンメトリーにする必要もない。箱の中に曲線を描いていく。
キッチンダイニングの天井面にはロの字を描く大きな丸を、リビングの壁面には床から天井へと繋がる曲線を、水回りやWICへの入り口には両側に曲線壁を、物干スペースへとつながる部分にはアーチの開口を、縁側横の壁には鉄骨柱を囲うような曲線壁を、、、
丸という造形に照明光や自然光が角度を変え、反射する。過ごす時間によって見え方が変わる。結果として生活の中に視覚的な「安らぎ」を生むのだ。
BEFORE
建物は築40年、床面積185㎡の鉄骨造の戸建住宅。祖母の家を引き継いで、リノベーション。建物の真ん中を境に西側は和室と縁側、東側にLDKと二分された間取り。床面積が70㎡あり天井高も高いLDKだがどこか狭く感じる。LDK中央の壁と窓の大きさが原因だ。この受け継いだ家にはポテンシャルがある。施主夫婦ともに医療の職場に務めており、共働きの生活。イレギュラーな対応に追われる日もある。そんな生活を送る中で、「安らげる場所をつくりたい、疲れた体を癒せる場所にしたい」そんな施主の思いから、リノベーション計画が始まった。「安らぎ」をテーマに検討を始める。