住宅のリノベーションが一般化し、かつては壊さざるを得ない劣悪な内装を伴っていた中古住宅も、今では所有者による改装が施され二次、三次流通が主流となっている。その結果、中古取得者にとってフルスケルトンから始める改装が合理的ではない状況が増えてきた。そのため、これまでのフルスケルトンから一新されていくリノベーションに対し、既存の間取りや仕上げを極力壊さず、活かすことを前提に、部分的に二次的に⼿を加えていくことで空間を再構築することを試みたいと考えた。本案件では、既存内装の「ReMAKE」 をテーマに、解体ではなく二次加工に手間をかけることで生まれてくる新しいアイデアやデザイン、手法やプロダクトに期待しつつ既存に向き合っていった。例えば、まだ使える状態にあったI型のシステムキッチンは一度半分に切断し、間を左官で繋ぐように造作しながらL型キッチンに再編した。同様にフローリングの表⾯塗装による意匠変更、壁の部分開⼝による視界拡張と動線変更、建具や天井 材の転⽤など、分解して初めて発覚する既存の状態に、職⼈たちのノウハウが⽣かされ、様々な手法が試されていった。今回は自ら事業主となることでこれまで以上に踏み込んだ実験を行うことができたが、その結果得たノウハウはウェブで一般に公開し、経済性と意匠性を兼ね備えた再現性のある技術を広く普及させることで、住宅ストックの面的な解決に寄与できればと考えている。
BEFORE
築57年。下階に玄関があり、そこから階段を登って2LDKの間取りという、約56㎡のメゾネット住戸。普通のシステムキッチンやユニットバス、和室という、よくある中古マンションの内装。前居住者が断続的に行ったリフォームによって、内装自体はまだ使える状態なものの、床は継ぎはぎの跡など意匠の統一性を欠いていた。バルコニーに洗濯機置き場があり、キッチンから冷蔵庫置き場が離れているなど間取りの使い辛さも目立ち、個室を優先とした間取りが3面開口の魅力を欠いていた。そのため、特に玄関から続く居住空間は暗く、全体の印象を悪くしていた。既存の間取りを活かしつつ、空間に明るさと開放感を生み出すことを主な方針とした。