『ゾーニング』&『ビジュアルライズ』を意識して拘った。住みやすさは住空間を計画するうえで最低限必要なことであり、そのうえでビジュアルを強く推すことはリノベーションの醍醐味である。
施主はモノトーンの服装を好み、植物とカラフルなアート作品をこよなく愛する。植物は黒い鉢で統一し、一つ一つに自作のタグを付ける程だ。そんな施主が暮らし、細部にいたるまで愛着の湧く空間を目指した。
中央部分にある大きなアール(R450・R900)に囲われたコアスペースにはお風呂と洗面室を配置し、キッチン腰壁もアール形状を採用。コア周りを大きなアール壁にすることで、直角壁よりも生活動線を広く取ることができた。
コアスペースの大きなアール壁は「大地を潤す水」の意味を持つターコイズブルーで塗装。この部分は『Greenery(グリナリー)』と名付け、住まいを象徴する緑樹となっている。
全体的に無機質なカチオンやコンクリート素地仕上げが多い空間だが、アール壁で中和され柔らかな印象に。窓廻りは前に壁を大きく造作し、立体アール形状にしたことで南西のバルコニーから柔らかく光が入る。そんな窓前は植物の定位置となっており、厚めの立体アールが風景を切り取るフレームのよう。自然光によってアールがかっている部分に陰影が生まれるのも計算の一つだ。
後日談だが、引っ越し後に生まれたのは双子。壁がアールなことでケガの心配もない。
BEFORE
結婚を機に新居を検討していた施主夫婦は、友人のマンションリノベをきっかけに自身も中古物件のリノベーションを選択。
地元の雰囲気に近い落ち着いた環境の中古マンションを多数内覧し、物件探しに半年を経た。植物ファーストの施主にとって南西の日の入りが大きな決め手となった物件は92.85㎡と十分な広さ。将来的に子ども2人と犬との暮らしを想定し、3LDK+犬用のスペースとしての広い洗面室といった希望を満たせるものだった。
「生活感のない’‘家っぽくない家’‘にしたい」という施主の要望と、イメージビジュアルの中にアール形状を取り入れたスタジオの写真があったのが印象的であった。
気に入ったものにはとことん愛着を持つ施主。単に施主の好きなアールを取り入れるのではなく一つ一つ意味を持たすものにしなければならないと考えた。このだだっ広い空間をどのように設計するかがデザイナーの大きな課題となった。