日本で生まれ育った私たちが、和室を住宅のワンポイント要素として捉えるようになったのはいつからなのでしょう。慣れ親しんだはずの和風建築は、住宅というよりは旅館や寺院などに存在する非日常空間といった印象です。多様な文化が混在する現代において、和風建築は基本型ではなく選択肢の一つとなったように思います。
そんな中、こちらの中古住宅は和の趣が家の随所にふんだんに盛り込まれていました。一部が洋風にリフォームされていたため、「旅館のような和風建築が好き」と仰るご夫婦のご要望に応じ、今回の計画で和の趣を再構築することに。
和風建築のポイントとなり得るのは、自然素材の質感と縦横の揃った配置計画。杉の無垢床、格子天井、玄昌石風のタイルを取り入れ、長押や付柱でラインを整えています。窓際のカウンターは畳を敷き、腰かけて外と中の境界を楽しむことの出来る縁側のような空間としました。
一方トイレは床の間を模したデザインとし、床柱代わりの竹を立て、壁の仕上げは全て珪藻土。照明は間接照明のみで全ての素材が引き立つように計画。カウンターは杉の無垢材一枚物です。
施工範囲は一部ですが、既存部分と馴染むようにアップデートした現代の和を取り込むことで、家全体が再構築されたように思います。
どれだけ多様化が進んでも、自然と共存する愛おしい和風建築の文化は時代に合わせた形にして受け継いでいきたい、と思いました。
BEFORE
築40年の木造二階建て住宅。不動産業を営むご主人の元へこの物件の売却情報が届いた時は、更地にして土地として売りに出す予定でした。ところが、売主様からこの家がいかにこだわって作られたか、時間をかけて建てられたかを聞き、何度も足を運ぶうちに少しずつ魅了されていったそう。最終的に持ち家を売却することにして、こちらの購入を決めました。
和モダンではなく和風建築が好きと仰るご夫婦でしたが、生活様式や文化が変わってしまった現代では純和風建築で暮らすのは難しいもの。対面キッチンや照明器具など、「現代の暮らしやすさ」の部分は和を引き立たせる要素として活かすことにしました。