本邸の空間コンセプトをennui(アンニュイ)としました。元来、フランス語では退屈な感情を示す言葉のようですが、肩の力を抜いてリラックスできる空間という意味をこの言葉に込めました。アイスブルーやダスティピンク、ライトグレーなどのニュアンスカラーを丁寧にセレクトし、玄関、リビング、パントリーの三ヶ所に設えたブラケット照明は位置やグレアにもこだわりました。ゾーニングはキッチンに回遊動線を持たせ、孤立しないように緩やかに繋がる空間を考えました。キッチンカウンターも艶ホワイトのタイルをセレクトし、キッチンという設備ではなくアイコニックなインテリアの一部になるようにしました。タイル目地をライトグレーにしたことで、柔らかな印象となりました。
各所しっかりとしたゾーニングではあるものの、印象的にはふんわりした空間です。その玄関ホールには、日本画家三浦愛子氏の「風向き」を掛けました。天候の観測者をイメージした作品には、植物や鳥の羽根、屋根の上の風見が見えます。昼間の空にはうっすらと輝く星々と神秘的な明りを放つ六芒星。長編物語の一頁を読んでいるようなそんな気持ちにさせられます。観測者が見つめる今日は、いったいどんな日なのでしょうか。
肩の力を抜いて、心地良い脱力感。何となく雰囲気がいい「この感覚」を大切にしました。
BEFORE
北九州市小倉北区大手町は、市街地まで徒歩10分程の立地で、市内でも人気を誇るエリアです。近隣には、役所や図書館、大きな公園などが集まり、分譲マンションや複合型のショッピング施設などが多数建設されています。平成11年に建設された260世帯の大規模マンションは、今の大手町を形成する初期時代の分譲マンションで、贅沢な敷地面積に5つ星ホテルのような豪華なディテールや中庭、公園などのゆとりの共用設備も魅力です。今では、この一等地にこの規模のマンションを建設することはできません。都会的な暮らしの中で、柔らかさに包み込まれるような空間を考えました。