幸福をつなぐ家―池田の洋館付住宅―

戸建  /   エリア:兵庫県  /   掲載日:2024-09-13

戸建  /   エリア:兵庫県

掲載日:2024-09-13

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「サツキとメイの家」を彷彿とさせる洋館付き和風住宅。元は施主の実家であり今年で築88年を迎えた。相続を機に新たな活用方法を探ることとなり、窓に貼られた「十二月十二日の魔除け」のエピソードなどを聞く中で、今の子供たちが大人になる頃、こういった風情ある建物はどのくらい残っているのだろうかとふと考えた。
築年数の割には状態も良く、昭和初期住宅の生活様式が伺える程、建築的歴史遺産としても価値がある。しかし崇めるものではなく、多くの人が気軽に触れ愉しむことがこの建物の存在意義となると考えた。住居兼店舗としての活用を見据え、外壁修繕や耐震補強工事を実施。既存の姿を残すため、押入内や畳間を利用し、床下など表に見えない部分で補強工事を行なった。大幅に改装が必要だった台所は、飲食店にも対応できるよう予め二層シンクや手洗いシンクを設置した。
改装後は小説家と薬膳に博識のある夫婦が入居。1階で薬膳カフェを営みながら、薬膳茶のワークショップなどが開催され、新たな交流の場となりつつある。和洋折衷のキャッチーな外観や広い庭に面した縁側に、懐かしさを感じる人もいれば、初めて目にするものに新鮮さを感じる人もいるだろう。人が愉しいと感じる時間が多いほど、建物にとっても幸福な結果を生む。いずれ映像の中でしか目にする機会がなくなってしまうかもしれない。現存する最後の日まで幸福を生む場所であってほしいと願う。

BEFORE


before image

阪神間モダニズムや郊外分譲住宅地の先駆けである池田市室町にこの建物はある。築年数が経つにつれ簡易なリフォーム等を施されることも多いが、時が止まったかのように昭和初期住宅の特徴が良好な状態で残存していた。当時の高級住宅街であり駅から徒歩圏内という好立地故か、近隣には賃貸マンションに建て替わっているものも多く見られる。収益性を追求すれば新築マンションという選択肢が妥当なのかもしれないが、建築や街の歴史が消えていくことにやるせなさも残る。
生垣や広々とした庭は当時の住まいへの価値観を表すものの一つであるが、管理に手間がかかり賃貸商品化の際にも懸念の一つとなる。今回は建築の歴史を保存するという観点からも全て残し、管理は入居者に委ねた。生垣の枝が伸びたらカフェのスタッフ皆で剪定し、庭に植えられている柿の葉や金柑の実を薬膳にも利用する。その様子を見て建物が存在することで生まれた新たな幸福感を感じた。

Before

After

    • 部門
    • 無差別級
    • 間取り
    • 9K
    • 費用
    • 1235万円(税込)
    • 形態
    • 賃貸リノベ
  • 性能向上リノベ 実施
  • <断熱性能>該当なし
  • <耐震性能>補強金物の設置、補強梁の追加等
  • 費用に含まれるもの
  • 家全体 / 水まわり / 居室・その他
  • 施主支給設備(費用に含まれないもの)

物件情報


CREDIT


  • 設計・企画・リーシング 株式会社アートアンドクラフト 川本美佳