30年前「団地の価値」を維持する気概と、大らかに「ゆとり」を楽しむようにこの地は開発された。当時のコンセプトは「風景と共に暮らす」。全国的に販売戸数を増やし効率を追求する狭小住宅とは対極にあると言えるかもしれない。
北九州国定公園の山麓南斜面に広がる団地は、統一外構や植栽、莫大な造成費用をかけた敷地やカルバート車庫、電線地中化など、分譲設計者の目指した街並みへの熱い想いが感じられる。当時の情熱を継承し、南側に広がる美しい景色がいつまでも享受できる様に、既存間取りを活かした。長い時を経ても色褪せない木の建具は良い雰囲気に経年変化していた。この建具や枠に合わせて上質で落ち着いた配色を心掛けた。院展入選の日本画原画を床の間に掛け、その原画を元にリデザインされた日本画壁紙。窓から覗く深緑が調和するダイニングスペースなど、随所にアートの価値を織り交ぜた。当時のコンセプトを、「風景と共に、そして美しい想像力と共に、暮らす」と再考した。今後も分譲設計者の意思は受け継がれ、我々リノベーションプレイヤーを介し、「この場所で暮らす」ことに真剣に向き合った主人によって、この地は成長し続ける。2024年の主流住宅とは違う側面を持った豊かな暮らしがまだ地方都市には息づいている。そして、このようなビジョンで新たに開発できる場所は、北九州市にはもう残っていないことも付け加えておきたい。
BEFORE
大手ハウスメーカーが平成5年から分譲開始した「くずはら緑山」は、福岡県北九州市小倉南区に所在する総数85区画の大型分譲団地。当時の分譲地設計者の理想と情熱を感じるプロジェクトで、モデルハウスが9160万円で販売されるなど話題となった。
当社が長年スクラップブックに保存した膨大な広告の中にその1枚はあった。本リノベプロジェクトは30年前の分譲広告を読み解くことからスタートした。