“住まいは人に見せたり、誰かに褒めてもらうためではなく、自分たちのためにある”。これがいいと思う感性を言語化するのは難しいが、空間に入った瞬間にどこか懐かしさやほっと落ち着く感覚を味わうのではないだろうか?そして、この感性は、紛れもなく自分たちだけのものである。新築時から20年。物件購入時とは違い、取捨選択の経験値が上がり、本当に必要なものの価値がわかっている。自ら探した素材を吟味しながら、経年で味の出る素材を使用し、バランスの良いデザインで調和を保つ。素材選びの他、内装デザインに大きくかかわる家具選びの視点にも自分たちの感性を吹き込み再構築する。家族同然の一匹の猫にも、「猫の導線と2つのトイレ確保」というオーダーをしっかり組み込んでいる。課題を丹念にヒアリングし、押しつけがないよう、情報交換を重ねてのプラン作成となった。完成した間取りは、部屋を一つ減らし2LDK。玄関からキッチンを抜けて一直線にリビング、ベランダに続く、視界を遮らないシンプルな導線で奥へと導き、テレビを掛けた壁面が隣部屋とのドアのない仕切りとなり、圧迫感をなくした。配管や住設機器の交換だけでなく、二重サッシの施工も行った。買い替えるのではなく、自分たちと同じように年月を過ごしてくれる素材と共に穏やかな時間を過ごしたい。この先の人生を見据え、素でいられる場所を求めた50代ご夫妻の意志を感じるリノベである。
BEFORE
既存マンションは部屋割が画一的な3LDKの一般的な間取りであった。壁や床など、内装は落ち着いたトーンで統一されているが、実際の広さより狭い印象を与えていた。ご夫婦と猫一匹のご家族にとっては、現況の仕切りは不要で、内装のカラーも今の感性とは離れてきていた。
築20年が経った今。納得できる自分流のしつらえに仕立て直したい。そしてこの先も、同じようにここで暮らしたいという強い想いを持ち、リノベを決意するに至ったのである。