「地域に残る価値ある建物を直し、活用する仲間たちの輪が広がって欲しい。」
改修工事は、地元向けに修復過程の一部を公開しながら進めました。
腐朽・損傷していた屋根や部材の修理・繕いをした上で、限界耐力計算にて屋敷全体を評価することで耐震補強量を最小限に。
間取りの改造は文化財価値を損なわないよう、重要な屋敷構えや部材に残る痕跡の保存を前提に計画。建具を外すのみで各室を拡張し、傷んだ天井は撤去のみとするなど、文化財保存と経済性に配慮しつつ、子育て世代7人がのびのび過ごせるダイナミックな空間を獲得。床は畳からフローリングに改修しつつも、実は床下に畳敷きの当初敷居などを存置して、学術的痕跡の保存に配慮しました。
一方で、古民家といえど暑さや寒さに我慢して暮らすことがないよう、屋根と床下に出来うる限りの断熱・気密工事を実施。
加えて、地域の人たちに「地域資産」として関心を持ってもらうため、交流の場として建築当初にあったと推測される通り土間を復元。土間に沿って設えた縁側は、建物から出た古材を再利用しています。
現在も外壁修理が進行中ですが、ひとまず家族の暮らしがはじまりました。
「今の世代は自分たちがこの建物を使わせてもらっているだけ。」
愛する地元で、次の世代にバトンをつなぐ「地域資産」になることを夢見て、文化遺産での暮らしが町並みに明かりを灯します。
BEFORE
山口県にある明治期(年代不詳)建築の豪壮な屋敷構えの近代和風建築群。
かつて財を成した旧家が遺した歴史的建造物は、経済負担の大きさから手入れが行き届かず、雨漏りや蟻害等による建物の損傷が日々進行する中、兼ねてより継承してくれる担い手を探していました。
バトンを受け取ったのは、地元愛あふれるクライアント。
少しづつ失われていく故郷の大好きな町並みに心を砕くなか、Uターンをきっかけに地域のシンボルである文化遺産を遺し繋ぎたいと、住み継ぐために取得・改修を決意しました。
「次の代にも、次の次の代にも住み継いで欲しいから、自分たちの代にとって必要なリノベーションをしたい。」
経済的理由で維持保存の難しさが全国的に課題となっている民間所有の文化財建造物の危機。
文化財価値の保存と活用の両立。快活でアクティブな7人家族のライフスタイルとの歴史的価値の融合を探るリノベーションPJです。