1968 年、映画『2001 年宇宙の旅』が描いた未来は、時を超えた進化と無限の可能性に観る者の胸を高鳴らせた。
しかし、2024 年の現在を見渡せば、あの時に描かれた壮大な未来図から 23 年が過ぎたにもかかわらず、実情はまだ映画が示した未来には追いついていない。今回のリノベーションは、その現実を反映しつつ、映画をイメージして再解釈に挑戦した。
半世紀以上前に考えられていた未来を表現したスペース(空間=宇宙)を、自然界の黄金比“フィボナッチ数列”から着想し、あえて装飾性のないミニマムな設えとして、本来ヒトに刻まれた美的感覚を刺激するフォルムを重視した空間デザインに仕上げました。
特に目を引く要塞のような、そしてゆるやかに低くなっていく曲線の壁は美しく、その内側にはキッチン設備と洗面台が隠されており、そして渦を巻いた動線の中心にあるシャワールームは作中の“モノリス”を表現しています。
施工時には完成形から逆算して寸法を導き出す必要があり、三角関数などを利用した数学的なアプローチで線を導き出した。
「賃貸でここまでやるの?」たしかにそれは正しいのかもしれない。
住まうのは同じヒト。
住人達にまだ見たこともない世界が広がってゆけば、それはいつしか普遍となる。無限の可能性を秘めたこの部屋から新しい価値の賃貸リノベ時代の幕が開いていく。
BEFORE
墨田区錦糸町にある、築31年の賃貸集合住宅の一室。ファミリーから単身者まで幅広く住まう想定がされており、万人にフィットする2DKの間取りである。南側に掃き出し窓とバルコニーがあり、日当たり良好だ。断熱もしっかり施され、如何なるプランにも対応できる器の大きい専有部である。そこでクライアントから頂いたテーマをもとに、グルリと渦巻きを歩く動線を採用。玄関から入ると壁は徐々に低くなってゆく。パブリックからプライベートへ促してくれる。緊張からリラックスへ。終着点は1番プライベートなシャワー室だ。もちろん利便を考慮して、キッチンから玄関への勝手口動線を用意している。賃貸の新たな可能性=住空間の経験値UPの場。しっかりと設えた空間の経験値は住まい手の感性を高め、上質な空間を知ることは住まい手が本格的に家を創る際の基準となる。本プロジェクトは住空間の質向上を見据えた賃貸リノベーションを目指した。