ファッションが好きな人は服をたくさん持っているだろう、家で仕事をするにはデスクが必要だ、これらは設計側のバイアスになっていないだろうか?何LDK、クロゼットは全居室に必要、といった従来の概念やルールに囚われず、もっと自由に、住まう人が自分らしく暮らせる「余白」を創れないだろうか?そこで、顧客ニーズをもとにドラマチックな提案を実現する「リノベる株式会社」と共に双方の知見を生かす「同業者コラボリノベ」に我々は挑戦した。住空間の中心に水回りを集約したCUBEを配し、回遊空間とすることで扉を開け放てば一つの空間に繋がる。対面にある窓からは心地よい光と風が抜け、部屋の真ん中に居ても眺望の享受を可能にした。奥行が深いクロゼットの扉を全開にすればそこは廊下ではない。お気に入りのコレクションを並べたり、床に寝転んでストレッチをするなど、ライフスタイル、その時の気分や目的に合わせて居場所を柔軟に可変する空間がそこにある。老若男女、何人暮らしだから何LDKではなく、多様性のある間取りのボーダーレス化と暮らしのヒントを用意すること、これが本当のリノベーションデザインではないだろうか。CUBEの表装材であるシナの香りが経年と共に落ち着き木目が飴色に変わる頃、「この場所」でアート制作に勤しむ住み手の暮らしを想像しながら、買い取り再販リノベの挑戦は続く。
BEFORE
立地など、好条件であるがゆえに「築古マンション」はその流動性から買い取り再販において"手を掛けずに"流通させる傾向にある。これはリノベーション業界にとって「良質な素材の潜在化」を意味し、リノベーションそのものを広く周知する機会の損失となっている。本件では、発信力のある街・中目黒でこの課題にチャレンジすることで、買い取り再販業界およびリノベーション業界の活性化の一助やきっかけとしたいと考えた。築45年の本物件は駅近、幹線道路沿いにありながら、最上階かつ二面に窓があるという条件により、部屋に入ると街の喧騒から隔絶された解放感ある眺望が広がる。しかし、3DKという間取りは、現在のこの街に求められているニーズと乖離しており、「住む」ことへの新たな模索が必要な状況であった。最大の魅力である眺望を享受できる工夫を軸に、間取りの刷新によって物件のポテンシャルを引き出し、さらなる魅力向上が求められていた。