10年後のリノベの未来を想像できるだろうか。地方にいると、中央よりも疲弊する経済や寛容ではない社会を目の当たりにする。家とは人の心を、身体を、慈しむ器。その器を技術を持って支えてきた地域の工務店や職人の事業継承、技術継承がままならないのが現在である。人手不足は加速し技術をもつ職人が減り、リノベーションの担い手はいるのだろうか。リノベの良さを伝えることが右手とするのであれば、左手はそれを担うスタッフ、職人育成が急務であろう。この建物は、無筋基礎を改修し地震力を地面に適切に流すと共に、建物全体の剛性バランスを確保し部構造評点は1.5を大きく上回る2.09を実現した。断熱性能の向上については、屋根と壁に調湿効果のあるデコスファイバーを採用し、基礎と土間下にも断熱を施し、ダイレクトゲインとUA値4.1を両立させた。気密施工にも取り組みC値1.1を確保。地元の木材や岐阜漆喰とデコスドライ工法の組合せで調湿された住環境が実現した。また現場施工中に耐震、断熱、基礎改修の現物を公開し、工務店や職人へ、完成後も定期的に見学会を行い、累計61社132人にシェアをし、技術・販促方法を伝えリノベーションリテラシーを高めることに努めた。昔の家が纏う冬の静謐な空気、人が集い、包み込むような懐かしい家。50年紡いできた想いを次の50年に残せるのか。おこがましいが、これは61社132人を救うリノベなのである。
BEFORE
岐阜県で最も面積の小さい北方町は、昭和40年代から県営団地の建設や地域計画における拠点都市としての位置付けから人口が急増した。人口急増と共に再構築された住宅は、現在ストック化が進む。空き家であった当物件はリノベーションという選択肢で、住宅ストックの活用をしつつ、住み続けたくなる豊かさのある住まいを提案した。
改修前は地域の特性の為か、半年間にわたる湿度調査では基礎下は常に湿った状態でカビ臭く、脱衣室は無人であるのに関わらず湿度が68%を超える日が大半であった。五感で感じる不快感を、基礎部分を含めた性能向上リノベーションと自然素材の利用によって解決を図った。
現在、建築業界において、建築業者や職人の人財育成が急務だと感じる。率先して情報を公開し、技術を伝承していき地域モデルとなることで、住宅ストックの価値向上や、知識、技術不足に起因する施工不良で悲しむ依頼者の減少に寄与できると考えた。