ご夫婦との最初のミーティングでいつものようにメモ紙とペンを持ち、最近購入した築24年の戸建住宅の
まだ何も置いていないリビングで打合せを始めた。
必ず、優先順位を箇条書きしていき、リノベーションの工事内容と予算を落とし込んでいく。
『これは絶対ゆずれないものは何ですか?』
私が必ず最初に確認するフレーズだ。
『私の隠れ家を作りたいんです』
『・・・・・・。』
奥さまが澄んだ目で私を見つめた。マスクで表情までは読み取れなかったが間違いなく真剣。隣にはご主人さま。
そこからご家族と私と施工担当者との楽しくも苦しい禅問答工事はスタートした。
すでに奥さまのイメージは固まっており、それを具現化していく作業が続いた。
隠れ家、西洋館、宝箱(おもちゃ箱)、動く本棚、本が仕掛け、次々と出てくる言葉をメモしていくが
とてもリノベーションの打合せをしている感じがしなかった。
ショールームで何度も打合せした西洋館風の内装とインテリア、WICの入り口を可動式の本棚で隠し扉を造作、
ダミーの本と仕掛けを繋ぎ合わせた錠。
そこにご家族で収集した宝物が次々と陳列される。
『隠れ家ができました。』
初めてお会いした時と同じ澄んだ目で奥様が笑った。工事完了である。
すみません、奥さま。
隠さずに伝えましょう。
大人がおもちゃ箱で暮らせることを。
BEFORE
中古戸建の再販物件を購入されたお客様からご依頼。
弊社で再度建物の診断を行い、屋根と外壁の塗装工事、防蟻処理、バルコニーの改装工事、
断熱性と防犯性の高いサッシ交換、内装工事を行った。
隠れ家の希望よりも驚いたのはお二人の建物や設備関係の見識が広く、打合せのキャッチボールが非常にスムーズであった事だ。
一つ一つ丁寧に作りこんでいく楽しさがあり非常に学ぶことも多かった。